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自民「1.5億」再燃の怪。岸田氏が仕掛けた首相の座を狙う大バクチ

ポスト安倍の有力候補と目されながらも、総裁選では菅義偉氏に大差をつけられ涙をのんだ岸田文雄氏。押しの弱さや決定力不足を指摘され続けてきた岸田氏ですが、ここに来て大きな勝負に出たようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、このタイミングで岸田氏が、河井夫妻の陣営に1億5,000万円を提供した「首謀者」の追求ではなく「使途」の説明を求めた狙いを考察。その裏には、再再登板を目論むかのような動きを見せる安倍元首相への強烈なメッセージが込められていました。

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1億5,000万円問題で「ポスト菅」の勝負に出た岸田文雄氏

じれったい新型コロナ対策。インド型変異株の水際対策にも失敗した。菅内閣の支持率はガタ落ちし、総選挙は間近に迫る。選挙の“顔”は菅首相でいいのか。安倍前首相の動きもさらに活発化し、自民党内には緊張感が高まってきた。

そんなさなか、自民党前政調会長、岸田文雄氏が気になる行動に出た。2019年の参議院選で党本部から河井案里、克行夫妻の陣営に渡った1億5,000万円の使途を明らかにしてほしい。5月12日、党広島県連会長として、岸田氏は党本部にそう申し入れたのだ。

調べればすぐ分かるだろうに、「検察に提出した書類が戻れば報告書を作成する」と林幹雄幹事長代理は財務省の森友対応ばりに、すげない返事。さすがにこれでは誰も納得できない。で、広島に本社を置く中国新聞の記者が5月17日、二階幹事長の定例記者会見において、こう質問した。

「1億5,000万円について明確に説明するようにという広島県連の申し入れに、どう対応していくのか」

二階幹事長の回答は意外なものだった。

「1億5,000万円が支出されたその当時、私は関係しておりません。ですが、関係してないから関係ないということをいうのではなくて、その事態をはっきりしておくために言っただけのことです。よくご意見を聞いて、今後慎重に対応していきたいと思います」

幹事長が多額の党費支出について、関係してないでは通らない。知ってはいたが、自分の判断で出したカネではない、というのならまだ分かる。まずいと思ったのか、翌日の会見で二階氏は以下のように言い直した。

「党全般の責任は私にあることは当然のことでありますが、収入支出の最終判断をしているわけであって個別の選挙区の選挙戦略や支援方針についてはそれぞれ担当において行っている。それ以上でもそれ以下でもありません」

1億5,000万円を河井陣営に回したことは知っているが、その支出を指示したのは自分ではなく担当者だ、と言うのである。

その担当者について、二階氏に付き従う林幹雄幹事長代理は17日の会見時、「当時の選対委員長がこの広島に関しては担当していた」と口を挟み、甘利明氏の関与を示唆したが、その後、甘利氏が「1ミクロンも関わっていない」と否定したこともあって、翌日の会見では「根掘り葉掘り党の内部のことまで踏み込まないでもらいたい」と苛立ちをあらわにした。

当然のことながら、二階氏も林氏も誰が“首謀者”かを知っている。甘利氏もしかり。ただ、その人の名を出すのが憚られるだけだ。

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この種の問題を語るとき、忘れてはならないのが、党事務総長、元宿仁氏という存在だ。自民党の政治資金を全て知る男。すなわち、政治の裏側を誰よりも見てきたのが元宿氏といえる。なにしろ、2000年以降、ある一時期を除き、自民党本部の事務方トップとして君臨してきたのだ。

幹事長は次々交代するが、汚れ仕事にもかかわる事務方のトップともなると、そうはいかない。まずなにより、口が堅いことが必須条件だ。たやすく代わりの人材は見つからない。

「ある一時期を除き」と先述したのは、元宿氏が民主党政権の誕生後にいったん自民党本部を退職し、安倍政権の復活後に呼び戻された経緯があるからだ。安倍前首相にとって、「余人をもって代えがたい」のである。

河井陣営への1億5,000万円配分も、実務は元宿氏が仕切っているはずだ。国政選挙にあたり自民党から候補者に配られるのは公認料と選挙資金合わせて1,500万~2,000万円ほど。候補者の優劣評価や重視度合いで、いくらか配分額の違いはあっても、相場の10倍となると、異例中の異例だ。

しかるべき人からの指示がなければ、元宿氏は了解するまい。かりに二階幹事長が関与していないとすると、あとは当時の総裁、安倍晋三氏しかいない。総裁の指示で支出するのなら、幹事長には報告だけですむ。

事情をすべて知ったうえで、二階幹事長はとぼけているのだ。5月24日の会見では「総裁と幹事長に責任がある」と、初めて「総裁」に言及したが、原則論を持ち出して話をぼかし、その実、自分のせいじゃないことを仄めかしたかったに違いない。

むろん甘利氏が安倍氏の盟友であるのは周知の通りで、2019年参院選当時の選対委員長として、河井案里氏の立候補に関わったのは確かだろう。ただし、選対委員長の立場で党本部資金を拠出するなら、二階幹事長の了解を得る必要がある。そんな面倒な手続きを省いて、元宿事務総長に直接、支出を指示できるのは当時の安倍総裁しかいないのだ。

「官邸から、出なさいって言われたの。それじゃあ、出ましょうかってお受けしたんです。落ちたら無職ね」

参院選への立候補が決まった後、河井案里氏が支持者に語った言葉である。のちに二階派入りしたとはいえ幹事長主導でなく、官邸主導だったことがわかる。選挙違反事件で辞職した広島県府中町の町議会議員は報道陣の取材に対し、案里氏の夫、河井克行氏から「安倍総理からです」と現金30万円を渡されたことを認めている。

さて、二階執行部と甘利氏の言動に反応したのが、1億5,000万円問題をあらためて党本部に突きつけた岸田文雄氏だ。5月18日、BS-TBSの「報道1930」に出演し、こう語った。

「1億5,000万円を出したその後、それを何に使ったか、これを明らかにしてもらいたい。我々が申し入れをした論点と、昨日から騒ぎになっている論点、これはちょっとずれている」

“犯人捜し”は自分の本意ではないというアピール。察するにこれは、安倍氏に向けた言葉であろう。

あなたの指示であることはわかっている。今それは問わないが、この問題そのものは消えていない。私という存在をないがしろにしてもらっては困る…柔らかな物腰に潜む岸田氏の思いが伝わってくるようだ。

いうまでもなく岸田氏は「ポスト菅」の有力候補である。安倍前首相からの禅譲を願って叶わず、次こそはという気持が強い。その人の目に現下の政局はどう映っているだろうか。

もともと党内基盤が弱い菅首相の求心力はこのところ、とみに落ちている。二階幹事長との関係も以前ほどしっくりいっていない。幹事長交代要求を菅首相に突きつける安倍氏の盟友、麻生副総理には、二度と二階氏の思うようにはさせないという決意さえ感じられる。総理総裁の座を狙う岸田氏には、またとないチャンスが到来しているのだ。

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が、それだけに岸田氏は心穏やかではいられない。病後のはずの安倍前首相があまりにも派手に政治活動を再開しているからだ。

自民党憲法改正推進本部の最高顧問や、原発の新増設などをめざす議連の顧問に就任したかと思うと、さまざまな会合で野党批判を繰り返す。7年8か月に及んだ安倍政権を振り返り、沈思黙考するいとまもない様子である。

つい最近では「半導体戦略推進議員連盟」の設立に最高顧問として加わったが、なんとその議連の会長は甘利明氏であり、もう一人の最高顧問は麻生太郎氏である。盟友うちそろっての議連発足には、政局がらみのニオイがする。

安倍氏の再再登板を噂する声が日増しに強まり、岸田氏は、宏池会伝統の「寛容と忍耐」で静観できなくなった。総理への道は安倍・麻生同盟の支援がなければ切り開けない。二人に自分の存在をアピールし、再再登板ムードに風穴をあけるにはどうすればいいか。

岸田氏が広島県連会長として、1億5,000万円の使途を明らかにするよう党本部に迫った裏には、そんな考えがあったのではないだろうか。

19年参院選で、岸田派重鎮、溝手顕正候補の10倍もの資金を河井陣営に配った党本部への不信感は、いまだ広島県連に渦巻いている。その当然の疑念を県連会長として党本部にぶちまける形で、あらためて問題にし、当時の総裁であった安倍氏に揺さぶりをかけたとも見えるのである。

ときの総理大臣が、側近の妻をなんとしても選挙戦で勝たせるため、国の政党交付金を主とする破格の軍資金を党本部から出させた。安倍氏にまつわる疑惑の核心である。

首謀者は前総理、使途は選挙。分かっていて、岸田氏は「誰が」ではなく、「使途」だけ追及するフリをしている。潤沢な選挙マネーがあればこそ、河井夫妻は買収に走ったのだ。夫妻を議員辞職に追い込んだ選挙違反事件の責任の一端が誰にあるかは、安倍氏自身がいちばん知っている。

岸田氏の動きは安倍氏の反発を招き、逆効果かもしれない。しかし、岸田氏と広島県連の口を封じるため、再再登板をあきらめて支援に回ってくれれば、岸田氏の期待通りだ。要するに、岸田氏は乾坤一擲の大バクチに出ているのだ。

菅首相も、このままでは終われない。内閣支持率を上昇に転じさせるため、血まなこになって進めるワクチン接種。高齢者接種1日100万人、7月末までに完了。難題を突きつけられた自治体が、あたかも首長の能力競争のように、接種スピードアップの工夫をしはじめた。高い目標を掲げて地方の尻を叩く。接種が菅首相の思惑通りに進めば、世論が変わり、党内情勢もまた変わる。菅・二階の足並がそろい、再び安倍・麻生がそのバックアップをすることも考えられないわけではない。

それでも、岸田氏にしてみれば、攻勢に出た今が権力ゲームのヤマ場である。総裁候補といわれながら、存在感の薄かった岸田氏の、珍しくも仕掛けた大勝負。曖昧回答でごまかし通すであろう二階執行部に対し、やすやすと引き下がるようなら、またまた悲願の成就は遠ざかる。

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image by: 岸田文雄 - Home | Facebook

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