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まるで『プロジェクトX』。電球生産会社が成功した「きのこ栽培」秘話

電球生産を本職とする企業が手掛ける希少なきのこが売上を伸ばし、一流料理店等にも納入されていることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『杉原耀介の「ハックテックあきばラブ★」』では、システム開発者で外資系フィンテックベンチャーCTO(最高技術責任者)でもある現役東大大学院生の杉原耀介さんが、とある電機製作所が希少きのこ「はなびらたけ」の生産に成功するまでの、『プロジェクトX』を彷彿させるストーリーを紹介。さらに彼らの試みの成功から考えうる、第一次産業に未だ残されていると考えられるチャンスについても考察しています。

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メカだけじゃない、農業や漁業とioTのこれから

立ったままアイスを食べてはいけません

先日、リモート会議とリモート会議の合間に「さあて、アイスでも食べようかな」と冷蔵庫からアイスを取り出し何気なくリビングを通り掛かったら、テレビで静岡県の大井川電機製作所という、もともとは電球生産の会社が「はなびらたけ」という希少キノコを生産して「ホホホタケ」というブランドで売り出している、というストーリーを紹介してました。

いやー、見入りましたね。気がついたらアイスを食べながらずーっと立ったまま最後まで見てた。そして、農業や漁業とioTに関して色々考えさせられるなあと思いましたよというのが今日のお話です。

むっちゃプロジェクトX

さて、ここからは下記のサイトと私が見たTVの情報を交えながらお話ししていくわけですが

自動車用電球メーカーが“幻のきのこ”はなびらたけをつくってるって?!なぜ?

どうやらこの大井川電機製作所さん(長いのでここから大井川さんと略す)は、もともとスタンレーさんが主な取引先で、トヨタの車用の電球などを作って納めてたそうです。でも、おりしもコロナ禍で(それだけじゃもちろんないとは思うけど)仕事が減り、なんとかしよう、よし、新規事業を何か立ち上げなきゃ!と言うことで、始めたのがこのはなびらたけ栽培なんだそうですよ。

言うてもね、そういう部品メーカーが最近の景気を受けて方向転換を図る!という話はよく聞くと思うんです。もともと結構大手もやってますしね、例えば花王が表面活性化技術を使ってフロッピー作ったり、富士フイルムが化粧品やったりとかはいにしえからなされている活動ですね(いや、本当に古い話ばかりで恐縮ですけど)。

やはり「新規事業開発」というと実際はそう言う「隣接技術」に手を伸ばす、つまり今までやってた事業を転用というか、横展開としていろいろやるという形ですよね。

幻のシイタケファクトリー

ただ、大井川さんの話はそれとはちょっと違う。別に電球でキノコを育てているわけでもないし、キノコの栽培に直接的に加工技術が活かされているわけではないわけです。

でも、じゃあ全くトンチンカンに違う業種に手を伸ばしたのか、というとそうでもないと思うんですよね。これは私の予想ですがキノコを作るのはわりと精緻なコントロールが必要で、その管理をするためには電球の生産管理のノウハウというか「技術」が必要だったんだろうなと。

えっ?門外漢のお前に農業の何がわかるって?うん、まあ、たしかにそうなんだけど、実を言うと私、もしコロナが来てなかったら地元の山奥の「シイタケ工場」を買おうとしてたんですよ。廃業するから売りたいって人がいて、結構何度も見に行ったりして、すこしきのこのことも勉強しました。

で、「なんでキノコなの?」というと、そこにはこういう思考が展開されていたのです(もちろん、個人的にキノコのフォルムが可愛いというのもあったんですが)。

新規参入者がガチの農家さんと闘っても勝てない
     ↓
土地の広さが必要で単価が安く大量に取れるもの(例えばジャガイモとか)は土地の取得や農地を買うのが大変
     ↓
できれば単価が高く付加価値の高いものがいい
     ↓
(比較的)天候に左右されない方がいい

と絞り込んでいくと、私が得た結論は「キノコかアスパラガス」と言うことになりました。それで私の場合は比較的風土にあってる椎茸にしようと思ったんですよね。

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どうでもいいキノコの豆知識

ちょっと脱線しますが、説明するために少し豆知識を披露すると、ちなみにシイタケ(キノコ類)は大きく分けて「原木栽培」と「菌床栽培」という方法があります(なんのこっちゃと思ってるかもですが、だんだん解ります)。

原木栽培はざっくり言うと「天然の原木に種(みたいなもの)を埋め込んで自然に生やす」という方法で、いわゆる天然のキノコが生えますがむっちゃ時間がかかり、基本自然任せです。

一方菌床栽培というのは、チップと栄養素(米ぬかとか)を機械で混ぜ混ぜして、ぎゅーっと四角に整形してレゴブロックみたいなのを作ってそれをビニールの四角い袋に入れて、そこに種みたいなのを植えて温度管理して育てる方法です。これはきのこにとって最適環境なので早く育って、月に何回も収穫できるわけですね。

で、大井川さんの生産過程をみてたら、やはりこの菌床栽培をやっていて、つまり農業といってもそのプロセスは比較的工業に近いというか「工場っぽい」栽培方法になっていたわけです。

もちろん、基本は農業なので栽培は菌の力まかせではあるんですが、畑などと比べるとぐっと自然環境に左右される率は低くなるので、どちらかというと「どのように温度を管理するのか」「どうやって殺菌するのか」「どうやって菌床を作るのか」みたいな製品品質管理に近い感じのコントロールが必要で、それに電球のような繊細なものを作る管理手法が役に立った、というか「肌にあった」んじゃないかなと予想してます。

「意外性」というブランド

ええ、まあ、わかってますよ。実際問題として大規模農家とか大規模酪農家とかはほとんど「工場化」してて、特に大井川さんのやっていることが珍しいわけではないことは。

ただ「下町ロケット」じゃないけど、そういう電機部品を作っている会社が、あえて農作物を作るという「意外性」がブランドには大事なんじゃないかな。正直「これはきのこ農家が丹精込めて作った希少きのこです」と言われても「ふーん、まあ美味しいだろうな」という感じしかしないけど、これが「電球を作っていた会社が作った希少きのこです」と言われると、「おお、それはすごい」と一種の物語性があって「どれ、一つ食べてみたいなあ」という気持ちになるんだと思うんですよね。

ヘッドライト・テールライト

これはただのゲスの勘ぐりですが大井川さんもそれは意識してやっているんじゃないかな。だって担当部署が「きのこ部」って可愛すぎますもんね(笑)。

でも、それが単なるコンセプトだけで、美味しくなかったら年商1億円を目指すことはできないかも。そういう話題性と「品質」を両立するのは、逆に「新規参入者の強み」なんじゃないかなと思うのですよね。

つまり何が言いたいかというと、その「失敗の歴史」もすでに物語だよね、『プロジェクトX』というか判官贔屓な日本人が大好きなお話しだもんね。ということです。

最初は上手くいかなくてカビが生えちゃって、それを電球の殺菌に使う機械で殺菌したり、変な方向に生えちゃって、それが車で運ぶ振動で起きていることに気がつくまで悩んだり、みんな素人すぎてどこで売ったらいいかわからなかったりとか、もう聞いているだけで「頑張って!私も1パック買ってみる」って言いたくなるわけです。そしてその結果、美しい希少きのこができました。って、はあ、なんてカタルシス、もはやドラマだよ、あなたたち。と思わず頬に涙がつたうわけです。

ああ、すみません、ちょっと取り乱しましたが、つまりこれはランチェスター戦略の第一法則の「局所優勢」というか、「“はなびらたけ”というマニアックで美味しいキノコを作っている電球メーカー」というむちゃむちゃニッチな世界で、ゲリラ的に戦っているいい例じゃないかなと思うわけで、きっとこういう余地は農業や漁業などの第一次産業にはまだまだ残っているんじゃないかなあと最近は考えてます。

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AIでバジルの風味を最大化

まあ、あくまでも例ですが例えばこんな記事もあります

The future of agriculture is computerized

ざっくりいうとMITのOpen Agriculture Initiativeラボの人たちが、光と紫外線の当て方の組み合わせを機械学習で学習させ、バジルの風味が「遺伝子組み換えをしなくても」最大になるようにいろいろ研究やってますよ。というお話です。

んー、どうだろ、こうなるとわりともう従来の農業とはだいぶんイメージが違って、ちょっとエキサイティングな感じがしますよね。第一次産業の問題は結局のところ「高齢化と後継者不足」みたいで、それは結局「その業界にエキサイトする人が少ない」ってことなんじゃないかなと考えると、もちろん、その産業に若いうちから専業で頑張ろう!と思っている人を育てるのももちろん大事だけど、私みたいに「なんか面白そうだからやってみたい」というミーハーな人を集めることも大事なんじゃないかなと思ったりもします。

昆虫学者とムシキング

もちろん、どんなお仕事も簡単じゃないし困難さはついて回ると思うので簡単に言ってしまうとその業界の人から怒られちゃうけど、やはり最初から「僕の人生をこの業界に捧げよう」とか思う人は少数派で、最初は邪な理由だったりミーハーな理由でもいいんじゃないかなと思うわけです。

そういう意味では、先日とある研究者の人とお話ししているときに面白いなと思ったのは「ちょうど今、最前線で仕事をしている若手昆虫研究者は大体ムシキングでハマった世代」というエピソードでした。だから飲み会とかやるとムシキングの話で盛り上がるそうです(笑)。

もちろん、今はみんなしごく真面目に昆虫の研究をしているそうですが、やはり最初はそういうきっかけから入った人も多かったとすると、農業や漁業も「なんとかカッコよく楽に儲けられないか」と考えてみることも大事なんじゃないかなと思います。

それは今までのやり方をdisるわけではなく「素人だからこそできる新しい戦い方」を模索してみればいいんじゃないかな。もちろん、最初からとんとん拍子に上手く行くこともないとは思うけど、そもそも「素人」なんだから失敗して当たり前だし、そうやっていくうちに「誰も考えてもみなかった」新しいやり方に辿り着けるかもしれないですしね

ioTと第一次産業とのマリッジ

そんなわけで最近は第一次産業にもいろんなITやロボティクスなどが入り込み始めてます。たとえばGPSを使ってむちゃむちゃ正確に田植えをする田植え機とか、自動でどんどんカツオを一本釣りするロボットとか。ヤンマーもVRで動かす重機を発表してたし、ドローンはもはや「農機具」として認識されて、展示会とかでは人気を博しているそうです。

第一次産業の人たちがITに近寄ってくるのが早いのか、ITの人たちがそちらに近づいていくのは早いのか。どちらがどちらに近づくにしてもそこにはワインで言うところの「マリッジ」が生まれ、私たちが今まで持っていた農業や漁業や林業とは違う新しい「イカした」世界が広がっていく気がしますね。

うろ覚えで書きますけど、どこかで「もしジョブズやゲイツが現代に生まれてたら間違いなくバイオやってただろう」という言葉を見たことがありますが、そういう意味で生き物や環境と関わるお仕事はこれからなんだか面白そうな気がしますね!ってなんだか美しい締め方になってしまいましたよ!

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2021年5月配信分
  • メカだけじゃない、農業や漁業とioTのこれから(5/20)
ITとiOTでいま何が起きていて、どんなチャンスが待ってるの?ベンチャー企業CTO、現役東大大学院生のオタクが最新トレンドをおもしろおかしく解説します。実際の開発者だからこそわかる新しい「ブルーオーシャンの兆し」。普段は時速ン万円のコンサルティングのお客さんにしか話さない新しい観点をこっそりメルマガで話します。毎月 第1木曜日・第3木曜日(年末年始を除く)発行予定。
杉原耀介この著者の記事一覧

幼少期から独学でプログラムを学び、15歳でプログラムコンテスト荒らしを始める。工学系に一旦は進むもすぐ飽きて美術系に転向。映像・CGデザイナーを経て1995年にインターネットと出会いニューヨークでシステム開発の仕事を始め、その後アイドルから金融まで幅広い新規事業に携わる。直近ではゼロから外資系フィンテックベンチャーのシステム開発を行い、CTOとして成長に寄与。ガジェット大好きなガチオタ。新しいテックトレンドの予言に定評があり「預言者」と呼ばれることも 。慶應義塾大学大学院美学美術史学修士、現在東京大学大学院博士課程在学。

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【著者】 杉原耀介 【月額】 ¥550/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎月 第1木曜日・第3木曜日

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