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搬送機能が失われる可能性も。読売が伝えた救急隊員ワクチン2回接種15%の現実

ようやく大規模接種が始まった日本のコロナワクチン事情ですが、「医療従事者」と言っても過言ではない救急隊員への「2回接種完了」がたった15%しか終わっていないという現実を読売新聞が26日にスクープとして伝えました。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、この件を報じた読売に敬意を表しつつ、過去の新聞記事に「救急隊員」「ワクチン」というキーワードで検索をかけ、救急隊員への接種が遅れた原因と「真犯人」を炙り出しています。

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救急隊員へのコロナワクチン接種が進んでいないという現実

きょうは《読売》から。

救急隊員へのコロナウイルスワクチン接種が進んでいないという今朝の《読売》の独自記事に敬意を表して、この問題を探ってみましょう。

【独自】コロナ患者ら搬送の救急隊員、2回接種完了わずか15%…都と20政令市

「救急隊員」と「ワクチン」で検索すると、サイト内に23件の記事がありました。テーマに沿った記事が何件あるかは分かりませんが、見ていくことにしましょう。

【フォーカス・イン】

まずは《読売》1面左肩の記事(及び29面関連記事)の見出しから。

(1面)

救急隊員 接種完了15% コロナワクチン
都と20政令市本社調査

(29面)

救急隊「感染、常に不安」接種15%
「医師優先」後回し
打ち手確保も課題

新型コロナウイルスのワクチン接種を巡り、感染者や発熱患者を搬送する救急隊員らで2回の接種を完了した人は、東京都と20の政令市の消防機関で15%にとどまっていることが判明。読売新聞。救急隊員への接種が遅れている現状が露わに。

(以下、記事概要の補足)

1回目の接種を終えたのは、対象となる約3万8339人の半数で、そのうち2回目までも済んでいる人は5943人、15%しかいないということ(未集計の北九州市を除く)。

2回の接種が完了する時期については、半数超が「6月中」との答え。横浜は「東京五輪に派遣予定の一部職員にコロナ以外のワクチンを打つ必要がある」という理由で「8月中」、つまり東京五輪には間に合わないことになる。

全国で優先接種の対象となる救急隊員らは約15万3千人で、消防庁は接種の進捗状況について「把握していない」という。

(uttiiの眼)

「医師への接種」を優先したのが理由で、各地の対応の差から摂取率のばらつきと全体としての低さが生じた、というようなことだが、毎日のように数人の感染者と接することになる救急隊員が抱えるリスクは、医師と変わらない。あるいは条件によっては医師以上に感染の危険と隣り合わせになっているのではないか。現に、北九州では感染者を搬送した救急隊員が感染する事例が発生している。

政府及び自治体は、「救急隊員への接種の遅れ」を独立した問題と捉え、状況改善に全力を尽くして欲しいと思う。搬送の機能が失われたら、医療提供の前提条件が崩れてしまう。

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【サーチ&リサーチ】

2020年8月21日付
タイトル「ワクチンは高齢者・医師を優先、救急隊員や妊婦は検討…コロナ分科会提言」との記事。その中に…。

「感染者と接触する可能性がある救急隊員や保健所職員のほか、介護施設職員、妊婦などを対象に含めるかどうかについては、引き続き検討することになった」と。

*救急隊員への接種の遅れは、初発の段階で、感染の危険の大きさについて、医師よりも少ないとの判断があったと見るべきかもしれない。これが接種遅れの決定的な理由かもしれない。ただし、9月に決定されたワクチン接種についての中間とりまとめの中には、看護師ら医療従事者、高齢者、持病がある人に加え、遅ればせながら、救急隊員や保健所職員も入ることになった。年明けに正式に決まった方針では、最優先される「医療従事者」の中に、薬剤師、保健所や検疫所の職員、感染患者を搬送する救急隊員や自衛隊職員、特別養護老人ホームなどの高齢者施設の職員が加えられたのだが…。

2021年2月5日付「解説」
「基礎から分かる「コロナワクチン」」という解説記事では、次のような記述が。

「第1グループは、感染リスクが特に高い医療従事者だ。患者と接する機会が多い救急隊員、自衛隊員、保健所職員らも入る。先行接種は2月中旬にも始まる。」

*先行接種の、しかも「第1グループ」の中に、救急隊員が含まれている。にもかかわらず、なぜ、接種は遅れた?

2021年2月20日付
三重県が医療従事者に対する優先接種につき、対象が5万8897人であると厚労省に計画を提出したとの記事の中で、

「対象は医師、看護師、歯科医師、薬剤師らのほか、患者を搬送する救急隊員、新型コロナウイルス感染症に頻繁に接する業務を行う自治体職員らも含まれる」

*三重県は救急隊員を含む優先接種対象を認識している。この頃、他県からは「いつ、どれくらいのワクチンが届くのか分からず、具体的な準備が進められない」との声も上がっていた。

2021年3月5日付
タイトル「コロナワクチン接種順位 悩む都道府県…「配分少なく混乱不安」」との記事中、次の記述。

「医療従事者らを対象にした新型コロナウイルスワクチンの優先接種では、国から示されているワクチンの配分量が限られ、都道府県は効率的な接種に頭を悩ませる。スケジュールがずれ込み、4月から始まる高齢者への接種とも時期が重なることは避けられず、「混乱が生じかねない」との懸念も広がる。」

*政府は救急隊員を含む医療従事者470万人という数字を出して優先接種の対象を明確化しようとしたが、問題は「国から示されているワクチンの配分量が限られ、都道府県は効率的な接種に頭を悩ませ」ているという点。医療従事者の中に、さらに“優先”と“後回し”を作らざるを得なかったということのようだ。次の、大分県での状況がそのことを如実に物語っている。

2021年3月6日付
タイトル「ワクチン優先接種開始 週明け以降に本格化 新型コロナ」という大分県の地域ニュースの中に。

「ワクチンは2月22日、県内3病院で約1000人を対象に先行接種が始まった。今回の優先接種は残る医療従事者や救急隊員、保健所職員ら計約5万1000人が対象。週明けから本格化していくが、国は追加の供給スケジュールを示していない」と。ワクチンが圧倒的に足りていない。

2021年4月2日付
タイトル「医療従事者らへのワクチン優先接種、5月10日の週で配送完了…河野行革相」の記事中、以下の記述。

「河野行政・規制改革相は2日の記者会見で、医療従事者ら約470万人への新型コロナウイルスワクチンの優先接種について、5月10日の週で全対象者分を賄える量を市区町村に配送し終えると発表した。」

*この「約470万人」の中には当然、救急隊員も入っているはずだが、なぜその後も接種が進まないのか、謎だ。そんななか、次のようなことも起こっている。

2021年5月14日付
タイトル「「感染すれば停滞」「安心してもらうため」…ワクチン優先対象外の首長が相次いで接種」の記事中、以下の記述。

「大洗町の国井豊町長(55)が接種を受けたのは4月30日。町消防本部消防長を兼務しており、新型コロナ患者を搬送する救急隊員なども優先接種の対象とする国の手引に沿ったという。」

*救急隊員が医療従事者として優先的に接種を受けるものとされていることを“悪用”ないし“誤用”した首長ら。

(uttiiの眼)

紛う事なき「医療従事者」であって、高齢者よりも先に接種すべき人たちとして概念化された480万人の中に含まれていたはずの救急隊員が、今現在15%しか2回の接種を終えていないという現状。多くの救急隊員が日々感染の恐怖と闘いながら業務をこなしているのは壮絶の一言だ。

この「遅れ」を自治体の責任にすることはできないだろう。政府が480万人分を発送し終えるとしたのは「5月10日の週」。そこからさらに1~2週間近くが経過したのに、救急隊員への接種は進んでいない。

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image by: Karolis Kavolelis / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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