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このままでは史上最低の大会に。五輪「プレーブック」のモラル欠如

国民の大多数が開催に否定的な東京五輪。政府の感染症対策分科会の尾身茂会長も2日の衆院厚生労働委員会で「今の状況で普通は(開催は)ない」と語り、それでもやるなら規模縮小と管理強化が義務と述べました。その管理に関わるのが、関係者の行動規範を定めた「プレーブック」。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、この「プレーブック」について報じた朝日新聞の記事を通覧。見えてきた「バブル方式」の無理と嘘、安心安全を標榜しながら選手に「自己責任」の念を押すモラル欠如を厳しく批判しています。

五輪の重要ワード「プレーブック」を新聞はどう報じてきたか?

きょうは《朝日》から。「バブル」とともに「プレーブック」という言葉がよく出てくるようになりました。五輪に関する重要な言葉で、参加する選手や関係者の行動ルールをまとめたものを指す言葉のようですが、この「プレーブック」を巡ってどんなことがあったのか、検索で探ってみたいと思います。

「プレーブック」で検索を掛けると、紙面掲載記事23件にヒットしました。これらを対象に。まずは《朝日》の3面記事の見出しから。

五輪行動ルール 本当に大丈夫?
コロナ検査 飲食後は精度低下
バブル方針 選手村外に宿泊も
ペナルティー 強制退去など想定
尾身氏、対策は「会場内だけでは意味ない」
パンデミック中の開催「普通ではない」
自民に不快感 野党は評価

以下、記事の概要。参加する選手や関係者の行動ルールをまとめた「プレーブック」の最終版が大会組織委によって今月中に発行される。これまでのプレーブックによれば、五輪・パラ期間中、計1万5千人の選手に対し、毎日、担当者の監督下で唾液を採取し、抗原定量検査が実施される。当初、PCR検査が検討されたが、医療従事者が必要になるため見送られた。問題は、歯磨きや飲食後30分以内は精度が落ちることで、「試合を前にして陽性反応を恐れ」、飲食や歯磨きをわざわざ行う選手が出てきてもおかしくないとの指摘がある。

「バブル方式」とは、会場や宿泊地を大きな泡で包むようにして外部と隔離することを指し、世界中のスポーツ大会で感染拡大防止のために採用されてきたという。プレーブックにも、選手らが公共交通機関を使ったり観光地や飲食店に出掛けたりするのを禁じているが、豪州選手団を受け入れた栃木県太田市の市長は「これでは気詰まりだ」として週1回程度の買い物ができるようにと、内閣官房に提案しているという。

「完全なバブルにはなり得ない」と言うのは大会関係者。そもそも国内メディアは自宅と競技会場を往復する。また、会場が9都道県に分かれ、選手村外のホテルに宿泊する有力国の選手たちもいる。海外メディアも独自にホテルを手配。組織委は「借り換えなどを促して集約し、目が届く態勢づくりを急いでいる」とするが実効性はあるのだろうか。

「プレーブック」の条件を守らせるため、意図的な検査拒否など悪質な違反者には資格証の取り上げや大会参加権の剥奪、強制退去なども想定するという。

【サーチ&リサーチ】

*「プレーブック」の初版は今年の2月3日に公表されている。組織委員会が国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)と共同で作成したもの。
*「バブル方式」の息苦しさについて、ハンドボールと柔道の大会で選手たちがどんな経験をしたか、記事になっている。

2021年2月8日付
タイトル「バブル生活 外部との接触、遮断する大会方式 「息苦しい」PCR検査18回、荷物は消毒でびしょぬれ」の記事中に以下の記述。1月、エジプトで開かれたハンドボールの世界選手権に参加した日本代表、土井レミイ杏利選手の話。
「2人部屋から一歩でも出れば、マスクの着用が求められる。大会関係者が目を光らせており、食事を含めてチームが集まるごとに検温があった。散歩もホテルの敷地内と制限された。土井は「世界から完全に離れたところにいるような気持ち。自由がなく、息苦しかった」と率直に語る」

*その後、選手への検査は「4日に1回」から「毎日」にされる。
*バッハ会長の「緊急事態宣言は五輪とは関係ない」発言。
*橋本会長「無観客も覚悟」発言。

2021年4月29日付
タイトル「五輪医療体制、見えぬ全容 選手向けプレーブック改訂」の記事。
「28日に承認された選手向けのプレーブック改訂版(第2版)は、コロナ禍への国民の厳しい視線を意識して選手の検査体制などが厳格化されたが、国内の医療体制に及ぼす影響はまだ見えない。観客の有無が決まらないためだが、医療従事者への負担を減らせる「無観客」案がここへきて急浮上してきている」

2021年5月20日付
タイトル「IOC・コーツ氏、五輪開催へ強い決意」の記事中。
「コーツ氏は文書で「安心・安全の大会」に向けた努力を強調。大会時の行動ルールを定めた指針「プレーブック」の第3版が6月に公表されることに触れ、新型コロナウイルスの感染対策について「誰も疑いを持つことはなくなる」とアピールした」とある。

2021年5月22日付
「五輪、強まる接種頼み IOC「選手村、8割にワクチン」」との記事中、次の記述。
「新型コロナウイルスへの対策をめぐっては、IOCと日本側はともに「ワクチン接種を前提とせずに、安全で安心な大会を開く」と繰り返してきた。だが、IOCと米製薬大手ファイザー社などが今月6日、各国・地域の選手団向けに無償提供を受けることで合意してからは、ワクチン頼みの姿勢が強まっている」と。

2021年5月27日付
タイトル「「東京五輪、コロナ感染対策不十分」 米専門家ら論文「科学的評価基づかぬ」」の記事中、以下の記述。
「今夏の東京五輪・パラリンピックで、新型コロナウイルスの感染対策が不十分だとする論文を米国の公衆衛生の専門家らがまとめ、米医学誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に発表した。大会組織委員会や国際オリンピック委員会(IOC)などが定めた行動規範(プレーブック)は、「科学的なリスク評価に基づいていない」と、改善を求めた」と。

*上記論文は、日本のワクチン摂取率の低さ、「プレーブック」で宿舎など屋内での感染対策の詳細が明らかになっていないことの他、接触確認を選手が競技中に持ち歩かないスマホアプリで行うようになっている問題も指摘されている。

2021年5月29日付
「選手や関係者の行動を定めた「プレーブック」には「責任とリスク」という項目で以下の記述がある。「あらゆる配慮にもかかわらず、リスクや影響が完全に排除されるとは限らないため、大会へ自己責任で参加することに同意するものとします」」と。

●uttiiの眼

東京五輪は、いわば「巨大な感染実験場」の様相を呈すると思われる。プレーブックには抜け道がありそうで、結局は巨大な「人流」を追加することになりかねない。そもそも大会競技の実施は取材メディアの活発な活動を抜きに考えられず、「バブル」は妄想に近い。単一競技の世界大会で「バブル」が実施されたことはあるが、新型コロナ禍にあって、17日間にエキシビションを含めて33競技339種目を9つの都道県に分散した会場で行う大会が、コロナウイルスにとってどんな意味を持つか、明らかだろう。

こうしたことを理解しているからだろう、大会側は「ワクチン頼み」に変わっていく。「プレーブック」通りには行かないということがハッキリしてしまったからなのではないか。

主催者側は、安心だ、安全だといいながら、何か起きた時の“保険”を掛け始めていて、プレーブック第二版には、選手に対して「自己責任での参加」を強制。大会主催者としてのモラルを疑う事態に、批判が高まっているのは当然だろう。

【あとがき】

以上、いかがでしたでしょうか。五輪は強行される可能性が高まっていますね。日本政府にこの愚行を止める力が無いはずはないのですが、そうしようとはしない。国民と外国から参加する人たちを危険にさらす、史上最低のオリンピックとしてその歴史に名を残す…そんなことにならなければいいのですが。

image by:f11photo / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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