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心理学者が明かす「カリスマ」の秘密。現代日本に必要な指導者像とは?

コロナ禍で右往左往する政府や自治体の指導者を見せられ続け「カリスマ」がないなぁと嘆息してはいないでしょうか。とは言え、求める「カリスマ性」を具体的にイメージするのは難しいもの。考えてみれば「カリスマ」という言葉も漠然としています。今回のメルマガ『富田隆のお気楽心理学』では、心理学者の富田隆さんが「カリスマ」について語源から考察し、秀でた才能のほかにどんな条件が揃えばカリスマ性を感じるかを紐解きます。そしてどんな人物にカリスマ性を見い出すかは、大衆の心が健康か否かで変わってくると解説。いま求められるカリスマ像を提示しています。

カリスマの秘密

先行きの見えにくい時代になると「カリスマ」性のある指導者が求められます。今までは「カリスマ美容師」とか「カリスマシェフ」といったワイドショーレベルの話で済んでいたわけですが、これからは、会社の社長や政治家などでもカリスマ的なリーダーの登場が切望されるようになるでしょう。そこで今回は、分っているようでよく分からない、言葉ばかりが先行して中味の見えにくい「カリスマ」という概念に光を当ててみましょう。

「カリスマ(charisma)」という言葉は、もともとギリシャ語で「神の賜物(たまもの)」を意味します。もう、この時点で、何やら神秘的で、怪し気でもありますね。辞書を引きますと、「超自然的で超人的な資質や能力」とあります。そして、「英雄、予言者、教祖などに見られるを民衆を惹きつけ心酔させる力」と続きます。

いずれにしても、特殊な「力」のことをカリスマと言うわけですから、特定の人を指して「あの人はカリスマだ」とか「料理界のカリスマ」といった使い方をするのは間違っています。「あの人にはカリスマが備わっている」とか「カリスマ的な料理人」と言うのが本来の使い方なのでしょう。

そして、そうした力は、神秘的な、神から与えられたギフトのような、特別なパワーと思われています。ですから、ちょっとやそっと鍛錬したくらいでは身に付きそうもないし、普通の人なら「関係ないや」と諦めてしまいます。でも本当にそうなのでしょうか?

【一芸に秀でる】

ある人物に「カリスマ性」があると衆人が認める場合、その人は少なくとも「一芸に秀でている」必要があります。5桁の掛け算を暗算で計算できる、100m走で10秒を切る、プロ野球でホームラン王に輝く、20代で10億の金を稼いだ、チェスの世界大会で優勝した、アカデミー賞の主演女優賞を受賞…、といった具合に、とにかく人を驚かせるような超人的(と見える)才能を発揮することで、世間から「カリスマ性のある人」と認められます。

こうした能力の半分は確かに「神からの賜物」です。つまり生まれつきの「素質」が基礎にあるのですが、「玉磨かざれば光なし」と『礼記』(らいき:儒教経典のひとつ)にあるように、教育や訓練により修養を積まねば、世間から認められるような「一芸」として活かすことはできません。「経験」あるいは「環境」が「素質」を伸ばし開花させるのです。

心理学的に見れば、「素質(遺伝)」と「環境(経験)」は掛け算の関係にあり、いずれか一方がどんなに優れていても、もう一方の条件がゼロであれば、才能が開花することはありません。

実証的な研究の結果を見ると、スポーツであれ勉学であれ、それらを育成する教育環境が整っていると、その能力の「個人差」は大きくなります。なぜかというと、遺伝的な素質のレベルで、どのような能力にも生まれつきの個人差があるため、理想的な育成環境で教育すると、生まれつき優れた素質を持っている子供はずば抜けた能力を発揮しますが、素質の劣った子供ではそれほどの結果は得られません。ですから、能力のバラつきが大きくなるのです。

しかし、どういう能力の素質が優れているかについては個人差があるわけで、数学の成績が最低線でも、音楽の成績はトップクラスということが普通に起こります。ですから、何がその人の「一芸」かは個人によって違うのです。自分の素質的な(生まれつきの)長所に気づき、これを伸ばすことがカリスマ性を身に付けるための第一歩と言えるでしょう。

後は、それが「好き」であることが素質を伸ばす特効薬となります。以前にも申しました通り、「好きこそものの上手なれ」です。欧米などで「オタク」がクールな「カリスマ」と評価されるのも、道理にかなった話です。

【後光効果】

ときどき、偉人伝などの伝記をよく読んでいる人から、「カリスマ的な人は、一芸に優れているだけではなく、総合的に多くの長所を備えているのでは?」という質問を受けることがあります。

もちろん、中には一芸だけではなく、あれやこれや、周りが「神様は不公平だ」と僻(ひが)みたくなるほど、たくさんの美点を併せ持っている人もいないわけではありません。超美人で歌も上手く、実は天才ハッカー、とか…。ただ、多くの人はそんなに何もかも優れた特徴を兼ね備えているわけではありません。実際、詳しく調べてみると、カリスマ性を備えた人ほど、それに倍して「欠点」「短所」を抱えていたりするものです。

たとえば、第35代米国大統領ジョン・F・ケネディー(John Fitzgerald Kennedy 1917~1963)は、強烈なカリスマ性を備えた伝説的指導者で、私にとっても、彼は中学生時代のヒーローでした。彼の就任演説は、ソノシート(塩化ビニールでできた薄手の柔らかい簡易レコード)が刷り切れるまで繰り返し聴いたので、その声は今も頭の中にこだましています。

そんな彼も、日常生活では物を忘れる特技?を持っていて、傘などはしょっちゅう失くしていました。家族も諦めていたようです。それに、あんな素敵なジャクリーンという奥さんがいながら、女性との浮気は絶えなかったのですから、これはかなりの問題です。

昔の東洋なら、「英雄色を好む」ということで大目に見てもらえましたが、ピューリタンの国であるアメリカでは、政治家として致命的な欠点と言えるでしょう。真偽のほどは分かりませんが、女優マリリン・モンローとの恋の噂は、現在でもなお囁き続けられており、彼女の不審な死の原因をJFKの責任だと糾弾する人も少なくありません。

要するに、欠点の無い人物というのはきわめて希で、全ての科目で100点満点を取るような人もまた少ないということです。それなのに、一芸に秀でている人が、それ以外にも多くの長所や美点を備えているかのように私たちが「感じて」しまうのはなぜかというと、そこに「ヘイロー効果(halo effect)」と呼ばれる心理法則が働くからです。

ヘイローというのは神様や仏様の頭の後ろで輝いている「後光」のことです。昔は英語を読み間違えて「ハロー効果」などと呼んでいました。これは、対象を評価する時に生ずる一種の歪み、「認知バイアス」を指す言葉です。

つまり、ある対象が顕著な美点を備えていると、それに対する好意的な印象に引きずられて、他の諸特徴に対する評価もまた好意的な方向へシフトしてしまうという心理現象を指す言葉なのです。要するに、カリスマ的な人物の放つ強烈な「後光」に眼が眩んで、公平な判断ができなくなるというわけです。アイドルはトイレに行かないと熱烈なファンが信じ込んだり、野球の名選手が「会社経営」をテーマとする講演に招かれたりするのも「ヘイロー効果」の結果ではないかと思います。

【お手本】

それでは、「一芸」に秀でてさえいれば、人々はその人物にカリスマ性を感じるのか、といえば、そうはいきません。もうひとつ、大切なことがあるのです。それは、その人に「お手本(model)」としての魅力があるかどうかです。簡単に言えば、大衆がその人を見て「自分もあの人のようになりたい」と感じるキャラクターであることが必要なのです。このように、人々が「真似(まね)」をしたくなる対象を「モデル(お手本)」と言います。

お手本になる人は、人々が求める何らかの「価値」を体現しています。外見が魅力的というのも価値です。豊かで経済力があるというのも価値です。何らかの信念や信仰を誠実に追及しているというのも価値です。生活を一新するような発明をしたり、芸術作品で人を感動させるのも価値です。スポーツが得意なのも、多くの人に人気があるのも価値です。愛情に溢れていて優しいというのも価値です。人間が求めて止まない、大切なこと、それが「価値」です。

いくら一芸に秀でていて、目端(めはし)が利き、お金を稼ぐのが上手いとしても、そのやり方に社会性が欠けていて、真面目に働く人たちを平気で犠牲にするようなら、多くの大衆は彼のようになりたいとは望まないでしょう。むしろ大衆は、そういう人物を拝金主義の悪役として憎悪の対象に選びます。

ただ、これは、あくまでも大衆の心が「健康」である場合の話です。なぜなら、「カリスマ」を大衆心理の側から見れば、それは大衆の潜在意識に共有されている「夢」や「憧れ」「希望」などの「投影(projection)」されたものでもあるからです。大衆の心が病んで傷ついた時、夢や憧れや希望は、いつの間にか「ルサンチマン(恨み)」や「呪い」「攻撃性」へと姿を変えます。

アドルフ・ヒトラーも毛沢東もウサマ・ビンラディンも、いずれの「指導者」も確かに優れたカリスマ性を備えていました。しかし、その後の歴史で、彼らが大衆にもたらした「悲劇」を忘れることはできません。そして、彼らが引き起こした災厄は、それぞれの時代に彼らを英雄に祭り上げた大衆自身が、無意識の裡(うち)にカリスマ的指導者の中に求めていた「悪魔的な何か」がもたらした必然の結末ではないでしょうか。ある意味、狂信的な独裁者を生み出すのはこれを支える大衆なのです。

現代の世界が本当に必要としているのは、力強いカリスマ性を持つ権威的な指導者よりも、優しい「癒し手(healer)」の方なのかもしれません。もっとも、狡猾な悪魔は、しばしば美しい「癒しの天使」を演じて人々を裏切るのですが…。

image by: Shutterstock.com

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