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令和の学徒出陣か。オリンピック「学校連携観戦」で危機に晒される子供たち

キャンセルが相次ぐものの、未だ運用される予定の東京オリンピック・パラリンピックの「学校連携観戦チケット」事業。子供たちやその家族、教員らの新型コロナ感染リスクを考えれば中止されて然るべきですが、そうもいかない事情もあるようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵であり「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、PTAの関係者や学校教員、教育委員会職員に確認を進めるうちに見えてきた、その裏側を紹介。さらに事業適用地域内に住む保護者に対しては、子供が通う学校の対応の確認を促しています。

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オリンピックの学校連携観戦チケットがにわかに注目を浴びている

学校連携観戦は、コロナ禍以前の計画で、全国の児童生徒対象に割安のチケット枠を設け、オリンピックの観戦をしようとの試みであった。

しかし、コロナ禍で延期や一斉休校の他、運動会や文化祭などの中止や限定的な開催などが当たり前になる中、このオリンピックの「学校連携観戦」は中止されることがないまま、実行にうつされようとしていたのだ。

各社報道

各社報道機関は2020年末あたりから、この学校連携観戦が未だに生きていることを把握していたようだ。2021年になり、4月ごろから徐々にこの問題があるが大丈夫なのかと報道を始めた。

例えば、東京都は「生徒81万人観戦計画」に変更がないことを指摘されている。さらに、いわゆる学校行事の一環として行われることで、この参加を自主的に生徒側が回避した場合に「欠席扱い」になるのではないかと警鐘を鳴らした。

東京都教育委員会は報道後、これについて見解を示し、「各校校長の判断で」に留めたのだ。

オリンピック直前の6月に入ると、「学校連携観戦」に参加しない表明が相次いで報道されている。

例えば、東京都目黒区は区内の学校や幼稚園などから新型コロナの不安が拭えないという声を受け全面的にキャンセルをするとしている。

東京都以外でも首都圏はこの「学校連携観戦」プログラムに参加していたが、例えば横浜市は計画では5万人が参加とあったが、およそ半数がキャンセルし、残りは現在確認中としていると報じられている。

埼玉県でもさいたま市を含む28の自治体がチケットの全部か一部のキャンセルを決めているとされ、多くの自治体がキャンセルを申し入れている。

こうした相次ぐキャンセルを受け、2021年6月21日、東京オリンピック開催に向けた5者協議は、会場の上限を決めていたが、「学校連携観戦」については別枠だと表明していると報じられている。どうも観点がズレている。

ちなみに、先日行われたG7サミットでは、新型コロナウイルス感染症の新規感染者が2,450%増となったとされている。果たして東京オリンピックパラリンピックではどうなるのか。

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引率する教員の不安

都内の公立校で働く教員は、視察会に参加したという。

「遠足のようにバス移動ではなく、公共の交通機関を利用というので、バスと電車で移動する予定で、会場にも行きました」

「本当に行くの?感染リスクは?教師が引率するって頭に入っているのかな…いや、もう、これは何かあったらって思いました」

「感染したら命の危機、家族にも迷惑をかけるし、生徒が感染しても地獄です。それに、必ず報じられたりして、結局僕らが責任をとれってなりやすい。もう、どっちも地獄です。それこそ、ボイコットしようかと半分冗談で同僚と話したくらいです」

(引率予定であった教職員)

東京オリンピック・パラリンピックでは、交通渋滞などが予測されるため、学校行事と言えども、貸し切りバスで移動するなどはできず、公共の交通機関として電車やバスを利用するのだ。さらに、時期は夏真っ盛りとも言える。熱中症対策の他、新型コロナ感染症対策もしなければならず、ただでさえ引率すること自体が大変なのに、二重三重の対策が必要になるわけだ。

ある意味、何万人という数の生徒が一斉に動くわけで、密になることは火を見るより明らか。色々想定をしなければならない教員の立場からすれば、やれる事は全てやるにしても、もはや感染リスク付のあみだくじでも引かされる思いなのだろう。

保護者の不安

保護者の不安も大きい。

スポーツで優秀な成績を出している生徒の保護者でも、「見せてはやりたいが、コロナ禍であるわけだし、色々な報道をみていて、感染者数が爆増しそうなイメージしかないから、今回はテレビでいいよな??って子どもの話しましたよ」という話が聞けた。

この保護者の周りでも、「子どもが無症状で感染し、家に帰ってきて一緒に食事をするなど一緒の時間を過ごすわけじゃないですか。そうなれば、大人の私どもは濃厚接触者になって、仮に新型コロナに感染したら…って思うと、何考えてんだ!と思っちゃいますよ…」など、感染リスクを心配する声がとても多くあるということがわかった。

家庭内感染の方が多いなどと言われても、それだけ聞くと家庭の問題とも言いたそうに感じるが、その実、原因をこの行事が作り出しているのだから、モヤモヤするのであろう。

私が聞いた限りでは、ほぼ全員が、「学校連携観戦」には反対であった。

「緊急事態宣言もまん延防止も、その差すらわかんないけど、結局外に出るなってことでしょ。その通り、うちはもうそんなの参加しないし、欠席扱いするならどうぞ!ですよ。そんなのコロナは風邪ですって言っているみたいなもんでしょ、学校が。そんなんで、多様性とかSDGsとか言っているけど、できないでしょ。そんな多様性を認めないなら」

確かに、学校の校長の中には一部変わり者が居て、新型コロナ感染対策を手洗いとマスクのみにして、アルコール消毒などは手間だからとやらない人もいる。

こういう校長に限って、やたらと根性論を持ち出すが、精神力を高めても感染リスクは減ることはないのだ。

地方自治体・各校校長に投げる責任

5者協議も然り、政府も組織委員会も然り、結局、「学校連携観戦」の実態が白日の下にさらされさると、各自治体に任せる、いや、学校長に任せますと参加不参加についての責任を投げてしまうのだ。

実際、学校行事にしてしまっているから、その場合の不参加はいかなる理由があっても欠席扱いになるが、これも「校長の裁量で」とお茶を濁すわけだ。

リスクを考える力がわずかでもあれば、不参加は当然のことであろう。任せられれば、多くの学校や自治体は不参加にしてチケットキャンセルをするわけだ。

雑なたとえにするならば、コロナ禍のこの時期に、大人に飲み会チケットを割安で買わせ、行かなければ普通は欠勤扱いだけれども、それは各部門の部長がどうするか決めてと言われるようなものだ。

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今一度保護者は確認を

私がこの「学校連携観戦」について周囲の教員やPTAの関係者に話を聞いて回ってわかったことは、報道されている問題なのだが、世に流れる話題はあまりに多いことから、未だに知らない保護者が多くいるということだ。

例えば、多くはPTAや保護者会などで、こうした話題が出るものだが、そうした会に出ない人もいるし、たまたま用事で欠席したということもあろう。

一方で、PTAや学校教員、教育委員会の職員に聞いていると、それなりの圧力があるように感じるということであった。折角格安で用意し、抽選でしか買えないオリンピックチケットを用意したのに、ここにきて「裏切る」のかという圧を感じるそうなのだ。

確かにコロナ禍でなければ、オリンピックパラリンピックの競技を目の前で観ることができるというのは、大きな学びにも繋がることだろう。コロナ禍以前は多くの大人がチケットの抽選に一喜一憂していた事実もある。

そうした経緯から「学校連携観戦」プログラムに力を尽くした政治力は確かにあるし、地域や学校によっては、リスク軽視で少しでも子ども達を参加させることで、オリンピック貴族に歓迎ムードを見せたい勢力もあるだろう。

学校によっては、部活全体は暗に強制参加とするところもあり、しっかりと確認をしておかないと、我が子が通う学校が観戦連携を実行するかもしれないのだ。

報道をみても、「学校連携観戦チケットの全てか一部をキャンセル」とあるように、一部キャンセルした場合、例えば、「サッカー部は行きます」などとなっているかもしれない。

一方で、政府の発表にも注意が必要だ。6月19日のNHKの報道によれば、政府は指針を示し、「緊急事態宣言地域の場合は参加を中止」「まん延防止地域の場合は自治体が統一指針を示す」「それ以外の地域の場合は、各教育委員会や学校で決める」というように検討している。

ただ、オリンピック開催中、感染者が爆発的に増えない限りは、これまでの緊急事態宣言のやり方を見る限り、出すことはまずないだろうと思える。そもそも検査数を減らせばその絶対数は減るわけで、病床確保などを含めた対応がオリンピック関係者に相当取られてしまうわけだから、ほぼ期待できないと考えていいだろう。

すでにキャンセルを決めた自治体や学校では、心配することはないと思うが、中止を決めた多くの自治体の担当者は「感染者数のリバウンドの懸念」の声をあげていることから、オリンピック・パラリンピック開催期間は、家で静かに過ごし、感染リスクを極限まで減らすのが良策だろう。

仮にワクチンを打ったとしても、感染しないわけではないのだ。

政府にも組織委員会にも、5者協議にも、そして自治体や学校にも、何よりも大切なのは、「命」なのだということを徹底して実行してもらいたいものだ。

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編集後記

あまり政治のことなどは言いたくないし関わらないようにしてきましたが、オリンピック・パラリンピックの学校連携観戦については、なぜか問い合わせも多くあり、色々と確認を進めると、その裏側がちらほら見えてくるので、一度しっかり取り上げねばと思いました。

生徒についても私が聞く限りでは、「行きたくない」という意見が大半でしたし、テレビやネットの動画で十分ですとのことでした。

あとは、「テレワークをしろ」「黙食だ」「酒を飲むな」となったり「イベントは中止です」というわりに、最大のイベントで、海外からの人が結局くる(水際対策が本当にできるのか?)という中で、やっぱりオリンピック・パラリンピックはやるんだ…という話が多く、ちぐはぐに感じるという人が多くいました。

それにしても、東京都の生徒81万人計画はインパクトが正直きつかったです。もしも、報じられていなかったら、どうなったんだろうと思いましたし、首都圏は特にその他の県もこのプログラムに参加していて、その計画もギリギリまで消えてなかったことに驚きました。

油断も隙もあったものではない…しっかり注視しておかないと、危ないのではないかと思えました。

私が常々思うことは、何よりも大事なのは「命」であり、人々の何気ない日常や営みです。お偉い方々には、それは単に「数」にしか見えていないかもしれませんが、その数は、一人一人の命であって、そこには偉い偉くない関係なく「営み」や「家庭」があるのです。

横柄な利権から命や生活を守ることが政治であると思いたいところです。

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image by: show999 / Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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