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驕りにも似た感覚のズレ。朝日新聞「値上げ理由」に抱く強烈な違和感

東京五輪オフィシャルパートナーでありながら大会開催中止を首相に求める社説を掲載、それからおよそ2週間後には7月からの購読料の値上げを発表し、大きな物議を醸した朝日新聞。一見無関係に思えるこれらの事象を統合して鑑みると、同社が抱える問題が浮かび上がってくるようです。今回のメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』では毎日新聞や共同通信に勤務経験のある引地達也さんが、「値上げは最悪のタイミング」とした上で、一連の騒動の中で自身が朝日新聞に「驕りにも似た感覚のずれ」を覚えた理由を記しています。

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コロナと五輪、そして値上げの朝日新聞を「応援」できるのか

東京オリンピック・パラリンピックの開催が近づくにつれ、日本では陸上など各種目での代表選手の選考や発表が行われ、開催に突き進む国際オリンピック委員会や日本政府への批判のトーンから徐々に競技モードになりつつある。

懸命に競技に打ち込もうとする選手の姿は見栄えがよいが、コロナ禍での五輪開催に心痛めている選手の様子を知るのはつらい。様々な矛盾を抱えたままメディアは東京五輪をどのように報じていくのだろうか。

そんな中、五輪のオフィシャルパートナーである朝日新聞は、社説で五輪中止を訴えた。さらにコロナ禍で先行き不安な社会情勢の中で、7月から新聞購読費の値上げを行うことを発表した。

オフィシャルパートナーと五輪反対と値上げ。

一つひとつは矛盾の関係にあり、どうもしっくりこない。この不信感は社会不安の中で、矛盾だけが増幅していくような印象だ。

「朝日新聞を応援してください」。

値上げ発表から数日後、我が家には値上げを知らせる案内がポストに入っていた。直接会った新聞配達員が私に訴えたのが冒頭の言葉である。まるで選挙の立候補者への投票を呼び掛けるような口上に、戸惑う私。

「応援?」。

誠実そうな配達員にこんなことを言わせている状況を記者たちはどう考えているのだろう、と記者をしていた自分としても自分事として考えてみた。

やはり、値上げは最悪のタイミングである。

先行きの見えない不安と五輪への姿勢も賛否あいまいなまま、配達員は朝日新聞という製品の良さを言うのではなく、「応援」という感情に呼び掛けて、購読者離れを防ごうとしているようだ。

応援、という言葉が出てくると、それほど「頑張っているのか」と言いたくもなる。しかし、朝日新聞は頑張っているらしい。値上げの理由に書かれた説明には、自分たちの頑張りを主張する。

ネット上にフェイクニュースが飛び交う今、新聞の役割は増していると考えています。事実を正確に報じるという報道機関の使命を肝に銘じ、新聞を広げるのを楽しみにお待ちいただけるよう、内容とサービスを一層充実させてまいります。ご理解をお願いいたします。

ここにある「新聞の役割は増している」のであれば新聞の市場価値は高まっているはずで、購読者が離れていくことにはならない。しかしながら、経営を圧迫するほど購読者離れが進み、収益は落ち込んでいる。

ここには、驕りにも似た感覚のずれがある。

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そもそも五輪のオフィシャルパートナーになることが感覚のずれである。朝日新聞が企業としてパートナーの立場でありながら、社説で中止を訴えたことについて、朝日新聞の元編集委員でジャーナリストの山田厚史さんは、朝日新聞広報室に見解を質したところ、

社説は論説委員の合議でまとめています。報道機関である朝日新聞の言論のひとつです。

との返答だったという(「『社説』に渦巻く乱気流 朝日新聞への取材てん末記」ニュース屋台村)。

とすれば朝日新聞の言論はいくつかあることになる。

山田さんも返答には疑問を呈している。

守り一辺倒、だから聞いていることに、何も答えない。菅首相の答弁を批判できないな、と思った。入社した時の研修では「社説は社長直属の論説主幹が朝日新聞の主張を書く社論だ」と教えられた。いつから「朝日新聞の言論のひとつ」になったのだろう。

朝日新聞に書かれた主張は大きく社会に影響を及ぼすから、それら掲載された言葉は社運をかけた言論機関の柱のはずで、その柱が「ネット上にフェイクニュースが飛び交う今、新聞の役割は増している」寄る辺となるものだと理解している。広報室の回答は自らの存在を否定することにつながりかねず、残念。

さらには朝日新聞が1つの企業であることは重々承知をしながらも、言論という柱は民主主義の根幹だとの意識を高く持ち続けてほしい、と願うばかりだ。矛盾を抱えたまま、配達員に応援のお願いをさせるメディアが言論界のトップリーダーを自負しているのはあまりにも悲しい。

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image by: Osugi / Shutterstock.com

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特別支援教育が必要な方への学びの場である「法定外シャローム大学」や就労移行支援事業所を舞台にしながら、社会にケアの概念を広めるメディアの再定義を目指す思いで、世の中をやさしい視点で描きます。誰もが気持よくなれるやさしいジャーナリスムを模索します。

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