アラブ諸国はイスラエル死守の「捨て駒」か。もう一つの“包囲網”イラン情勢の裏側

 

“包囲網”の綻びを狙いつつ核合意で好条件を引き出そうとするイランの強かさ

IAEAに対する査察延長拒否は、実際にはIAEA側も想定の範囲内であったとのことですが、実際に恐れていたのは(いわゆるhardest questionsは)『査察によって収集されたデータの破壊』であり、今回、イラン政府はそのdestruction/deletionのカードを切っていません。

それはつまり、アメリカをはじめとする欧米の反イラン・アライアンスのレッドラインすれすれの駆け引きをおこなっているように思われます。

相次ぐドローン攻撃、革命防衛隊の幹部による好戦的な発言、パレスチナへのシンパシーを強調して、アラブとイスラエル、アメリカとの“反イラン包囲網”の綻びを狙いつつ、定期的にウィーンで開催されるイラン核合意において、少しでも良い条件を引き出そうとのギリギリの折衝を狙っているようです。

ではそれを受けて立つ(?!)アメリカのバイデン政権の姿勢はどうでしょうか?

対米強硬派のライシ氏が次期大統領になったことで、イラン政府の姿勢が硬直化・過激化する恐れを抱きつつも、就任前からの公約の一つである『イラン核合意への復帰』と国際協調への復帰という看板に沿うべく、『ライシ政権のイランとの対話のチャンネルは閉じることはない』とオープンな姿勢をアピールしています。

しかし、これもイランと同じOn Our termsという大きな条件が付いたオープンな姿勢のアピールです。

実際には、トランプ政権が築いた対イラン強硬姿勢と国内での反イランの超党派的な立場に、バイデン政権は答えざるを得ず、対話にオープンと言いつつも、今週にはシリアとイラクに散らばるイランが支持する武装勢力に対する空爆に乗り出しています。

まさに武力行使という鞭を振って国内の声に応えつつ、イランに対しても”対話に応じよ“、そして“核開発をめぐるエスカレーションと瀬戸際外交をやめろ”とのメッセージを、ロウハニ大統領および、すでに力のシフトが起きているライシ次期大統領に送っていると言えます。そしてこれは、国際社会に向けてAmerica is backというメッセージを伝えることにもなっていると思われます。

これは、発言はしても行動を取れなかったオバマ政権の失敗を繰り返さないとの覚悟の現れともいえますし、脅しても行動を取らなかったトランプ政権との差異化を図ったように考えています。

つまり『私はやるときには、やるよ』とでもいいたいのでしょうか。

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