アラブ諸国はイスラエル死守の「捨て駒」か。もう一つの“包囲網”イラン情勢の裏側

 

アラブの国々はイランからイスラエルを守るための「捨て駒」

アメリカ・イラン双方とも、mixed messageを送って、相手の手の内を見極めようとしていると同時に、中東地域における非常に脆弱な力の均衡への挑戦ともとることが出来ます。

イラン問題を欧米、特にアメリカが語る際、常にイスラエルの安全保障が念頭にあり、サウジアラビア王国をはじめとするアラブの同盟国の安全が念頭にあると言われていますが、実際のところ、アラブについては、アメリカにとってすでにエネルギー安全保障上の要所という位置づけからは外れていると思われます。

もっとも極端な見方をするアメリカ政府の分析官たちによると、『アラブの国々は、イランからイスラエルを守るための、いざとなれば捨て駒』ということだそうです。

もちろんそんなことをアラビア諸国が許すわけもなく、そのようなアメリカの心変わりを察知して、一度は封印していたイスラエルとの友好関係の深化を再開しています。

イスラエルとパレスチナの間で繰り広げられた武力紛争を受けて、UAEやバーレーンなどもイスラエルと距離をおく選択をしましたが、強硬化するイランが与えうる国家安全保障上の危機と脅威が増大すると判断し、地域で唯一、核戦力イランと対峙できるイスラエルとの友好関係を急ぐ方向に舵を切ったようです。

その一例が今週起こっているUAEとイスラエルの外交・経済、そして安全保障上の協力関係の深化です。UAEの首都アブダビをイスラエルの新外務大臣が訪問し、イスラエル大使館と領事機能の開設が発表されました。これは、UAEからの招きによると言われていますが、別の情報筋では、まるでゲームのように、イスラエル側がイランの鼻先にナイフを突きつける動きに出たとも言われています。

これはあまりクローズアップされませんが、イスラエルの新政権は、反ネタニエフで結集したはずなのに、ネタニエフ前首相の外交・安全保障体制を維持・強化する動きに出たと言えます。

それは、新政権の基盤が非常に緩いと言われている中、対パレスチナそして対イランでイスラエルとしての強い姿勢と覚悟を明確にしておかないと、本心はともかく、政権が持たないのではないかとの国内的な事情もあります。

またそれは、シリアやレバノン、そしてパレスチナのハマスを手先に使って、イスラエルの目と鼻の先に恐怖を突き付けるイランに対する“返礼”とも受け取れるかもしれません。

実際にイスラエルとUAE、そしてほかのアラブ諸国との“連携”がどこまで機能するかは疑わしく思っているのですが、微妙かつ脆弱な和平バランスの上に立っていたイランをめぐる地域情勢に挑戦状をたたきつけたようなイメージです。

そこに面白いように反応したのが、イランの友好国となった中国とロシアです。どちらも直接的な安全保障上の脅威は存在しないですが、両国とも、出遅れた中東・アラビア半島、そしてその先にある北東アフリカにおける勢力拡大のための足掛かりにイランを位置付けています。

すでに締結され実施に移されている中国とイランの25年間わたる戦略的パートナーシップは、制裁下で困窮するイラン経済に光を当てることになりますし、中国にとっては安定したエネルギーの調達元の確保につながる戦略的なサポート関係です。

ロシアにとっては、武器輸出による収入の確保を可能にしてくれ、かつシリアなどにおけるロシアの対米バランスを支えてくれるのがイランと言われています。

ただ、ロシアはこの辺りは中国のお株を奪っているかもしれません。それは、イスラエルとの関係改善と協力を進めつつ、イランにも武器供与を行っているという実利主義的な動きです。

イランは、後々、ロシアがイスラエルを経由して地中海方面から欧州にアプローチするための大事な戦略的拠点と考えられており、そのために、欧米各国と微妙な緊張関係にあり、かつアラビア半島に影響力を持つエルドアン大統領のトルコにもS400を販売して、安全保障上のバランスおよび岩盤を崩そうとする位置づけとも思われます。

中ロともにイラン核合意の当事国・締約国であり、イランの核武装については警戒し反対するものの、今後、激化するであろうと思われるアメリカと欧州各国との対峙・緊張において優位に立つためには、対欧米で一切退けず、イランの強硬姿勢は渡りに船と理解されています。

その中ロ間の結束も、6月16日の米ロ首脳会談の実施を受けてひびが入ったのではないかと懸念されたようですが、中国側からの熱烈な働きかけにより、G20の議論を半ばボイコットし、イラン問題にも一方的な意見が出ないようにしたようです。

もちろんG7での対中国警戒論の高まりに釘をさすために、G20での反中・ロ・イランの議論つぶしが実行されたのだと言われています(中国の王毅外相については、7月1日の中国共産党結党100周年の準備などで参加どころではなかったという情報もありますが)。

そのような難解でデリケートな国際情勢と地政学の中、イランをめぐる包囲網(欧米諸国とイスラエル・スンニ派諸国)と、イランとその仲間たち(中ロトルコなど)とのバランスゲームの行方から目が離せません。

そんな中、先週も触れたとおり、私は日本が果たすことが出来る役割はいろいろとあると思うのですが、不思議とあまり耳にしないのはどうしてでしょうか?

それはまた別の機会にいろいろと議論できればうれしいです。

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