以前掲載の「『どこおるんや』公立中いじめ事件の加害者が送りつけたLINEの異常性」で、福岡県の公立中学で発生した悪質極まりないいじめの全貌を紹介するとともに、無責任な学校側の対応を糾弾した、現役探偵であり「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。阿部さんはメルマガ『伝説の探偵』で今回、当案件について第三者委員会により出された報告書のあまりの酷さと異常な点を指摘。さらに、全国の第三者委が抱える問題点を解説するとともに、その具体的解決法を提示しています。
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30万円カツアゲいじめ事件の第三者委員会が終了した
【関連】「どこおるんや」公立中いじめ事件の加害者が送りつけたLINEの異常性
概要
今年(2021年)3月に発行した「30万円カツアゲいじめ」の件で市の教育委員会が設置していた第三者委員会の調査が終了し、報告書が発行された。
この報告書では、いじめは認められたものの、その内容はいじめの内容を矮小化し、各所は連携していたのだということを中心としたあまりに酷いものであった。
異常だと言える問題点
例えば、この第三者委員会が報告書に記載したいじめの内容は、下記の一文である。
「風邪をひいて遊べない」等と断っても、「出てこれる?」としつこくラインをする等していた。
と表現されるこの部分の実態は、3月11日の本誌で取り上げた通り、全く異なるものなのである。
このやり取りは、勝手に毎日遊びにいくことになっており、被害者からすれば、遊びではなく、毎日が「強要」「恐喝」「脅迫」の被害を受けるわけだから当然、何とか断りたいわけである。それでもしつこくLINEでの連絡が激しくくるのだ。
もちろん、直接家を訪問してくることもあれば、仲の良い友人や先輩に「一緒にいるのではないか?」という電話やLINEがくる。
何とか断ろうとすると、「どういうことや?」「なめんとんのか!」「ボケ」「カス」「ゴミ」「殺すぞ」という文句が並ぶのだ。
これを、専門家たる第三者委員会は、「出てこれる?」としつこくと表現するに終わっている。忖度があったのか、それとも、何らかの利害関係があったのか?はたまた、被害側が藁をもつかむ思いで出した証拠を見ていないのか、その理由は全く不明であるが、改ざんに近いほど矮小化されたと言えるだろう。
さらに、報告書ではくどくどと学校や教育委員会は対応していたんだという擁護の文面が続いていた。
通例、私は第三者委員会の調査報告書をよく見る立場にいるが、重大事態いじめとなって第三者委員会調査となる事案は、起きているいじめについての登場人物も多く、いじめの内容も多い上、被害側がいじめが原因の不登校や生命にかかわる状況に至っていることからこの因果関係を調べる内容などを含み、平均的に50ページから70ページある。
委員会の中に真の専門家がいて、実務上優れていると、多角的に検討をすることなどから、このボリュームは多いときは数百ページに及び添付される資料もあるのだが、このケースは全国的に見てもかなり酷いケースでありながらも、報告書は10ページ程度、その7割が「学校は可能な限り対応していたんだ」「教育委員会も頑張っていましたよー」という言葉が無為に並ぶのである。
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到底納得できない被害者
被害側はこの報告書を見て愕然とした。ただ1つわかったことがあった。
それは、この第三者委員会のメンバーが誰だったのかの記載があったということだ。
実は、被害側が第三者委員会の設置を求めた際、すでに常設の第三者委員会は調査に入っているということを知った。
本誌では再三別の記事でも書いているが、国が定めたガイドラインでは第三者委員会を設置するときは少なからず被害側への説明や合意を取り付けるように要請をしている。
また、いじめ防止対策推進法立法時には、第三者委員会の中立公平性は、被害側から見てのことであり、この担保のためにしっかり対応しなければならないことが、話し合われているのだ。
ただし、これを無視して勝手に進めたり、設置をしないと勝手に決めてしまう自治体はあるのだ。少なからずと表記したいところだが、少なくはないと言える異常な状態が発生している。
本件においては、早々に第三者委員会の中立公平性を担保するためにも、委員が誰かを明らかにするように求めていた。しかし、市教育委員会の回答は「報告書に記載します」であったのだ。
被害者側の大きな懸念は、加害グループの中心人物が教職員一家であり、その長とも言える人物が、地元教育行政においては大いに力があると判断できる立場にいることであった。
そもそも、報告書に市の教育委員会の対応や学校の対応が記載されるということは、学校や市の教育委員会自体も調査対象になった ということを意味する。
この調査に当たる上で、人事交換や連携があると一般的に考察できる県に関連する職業の人物が委員になることは、その段階で懸念されるべきことになり得る。
私は一般企業の不正問題などで調査役を務めることもあるが、第三者委員会における中立性の担保としては論外であるし、その委員会のガバナンスの維持という観点では不可能と判断せざるを得ない。
そもそもの設計で、事務局は市の教育委員会ということになるが、調査対象に当たる組織が、事務局をしたり、設置権限を持つということ自体がナンセンスなのだ。
いじめの内容については、過小評価しつつも結果的に否定できないほど酷いものだということから認めているが、これでは、被害側が大いに不満が残り、さらに、この調査量、その体制はどこの調査委員会をとっても不十分かつ杜撰と言わざるを得ないものであった。
2021年7月9日現在、被害者の少女は今の気持ちを再調査権限のある市長に知ってもらうために、吐いたり、泣いたりしながら、手紙を書いている。
この声が届くかは未知数であるが、一応の専門家として付け加えるとすれば、「こんなふざけた対応は、加害者のためにも、傍観者のためにも、学校全体のいじめ防止のためにもなっていない。ましてや、被害者の立場になってを、全てにおいてのいじめの対応の大前提とするいじめ防止対策推進法を守っているとは言えないのである。こんなもののために、市民も血税を使うのであれば、いっそのこと、全部やめて子育て難しい自治体ですと宣言した方がいい。そうでないのであれば、今すぐ、全ての見直しを含め、教育行政としての根本的な問題を調査し改善する権限を持つ特別委員会を設置し、可及的速やかに問題に対応することが望ましい」
まあ、今できていない首長ができるとは思えないが。
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常任の第三者委員会はもはや第三者ではない
いじめに関する第三者委員会には大きく分けて2つの種類がある。
多くの人は個別のいじめに対して第三者委員会を設置するものをイメージするであろうが、2021年現在は市区町村、都道府県といった自治体の教育委員会直下に組織される「常任の第三者委員会」の方が多くなっているのだ。
いじめ防止対策推進法でも、委員会を常設することで、個別の委員会設置で問題となりやすい設置までに要する期間の問題などを解消できるのではないかと期待されていた。
その背景には、腐っているところが多いとは聞くが、それでも公務員である以上、法律の要請にはしっかりを従い、常識を逸脱するようなことはしないであろうと思っていた節がある。しかし蓋を開けてみたら、常設される委員会には、法律の専門家がいなかったり、いても学校関係者であったり、専門性があるとは思えない民生委員のおばちゃんが名だけ貸しているというものが出てきたりしたわけだ。
現状を見ていると、常設された第三者委員会は、構成メンバーの開示に応じなかったり、関係者の聞き取りがほとんどされなかったり、会議をいつしているのか不明であるといった秘密会である問題を含め、関係者が委員に入ったままという第三者性を一発で損なう問題が多発しているのだ。
そもそも、これは、中立公平性の判断基準を教育委員会が持つのだという専横的思い込みが根本問題だと言える。
なぜそれがダメなのかという指摘は専門的に学術的にもできるが、小学生でもわかるように説明すれば、いじめ問題は各校など様々な学校で起きる。
つまりは、その関係者は多発するいじめにおいては、件によって多岐に及ぶわけだ。
実は加害者の親戚が委員であたる人物であったということも発生し得るわけだ。もちろんその逆もある。仮に、その委員にあたる人物が正義感にあふれ物事の融通が利かず、一切の人間関係を切ることができるような人物で、親類縁者だからといって容赦なく物事を判断することができるとしても、物事の担保とは、その人間性のみで判断するのではなく、各条件の中で中立と言える関係性が重要になるわけだ。
常設委員会で素早く対応していくというのは異論はないが、生命の危機や財産上の被害など深刻な被害である重大事態いじめにおいて、しっかりとした調査を進めていくには、この委員会の第三者性や中立公平性は全てにおいての基礎になるのだから、メンバーが中立公平かどうかについては、少なからず被害側には確認を取らなければ、その土台がないことになるわけだ。
ここまでだと加害者の関係者がという観点で考えがちだが、仮に、被害者の父親と委員が友人であったり、仕事関係では上司部下に当たる関係であったらということも、設置の権限がある教育委員会などの学校の設置者は考えなければならないということだ。
その実、私のところには第三者委員会の委員となってほしいという要請が毎月あるが、私は被害側の相談を受けて動いてしまっている関係上、教育委員会が認めていても、中立性の担保は難しいと考えて委員を辞退している。また、私は被害側につくことが多いため、いじめ被害側の人間だというイメージが強くある。交渉などが始まると中立的な位置になることも多いが、こうしたイメージから、被害側と加害側に争いのあるいじめ行為の認定で、被害側有利の結論を出せば、そこにどんなにエビデンスがあっても、加害側は私が居ることで被害側に有利になったのだと言いやすいであろう。
こうした側面からも、すでに関与している案件でなくとも、中立性を担保してもらうためには、私は委員になるべきではないと考えている。
ただし、会の中立性担保のために被害側推薦委員がどうしても必要なのだという場合はその限りではない。
ここで言えることは、エリート意識の強い教育関係者が、その実、馬鹿にしてみている探偵稼業が本業の者ですら、センシティブで重要なことだと思え説明できることへ、配慮の気配すらないのが、強引な常設委員会の専横なのである。
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異常教育行政
いじめ問題の権威や専門家の大半は、常設委員会で委員開示しないことを違法と言い、それを各自治体の条例を根拠としていることを「違法条例」と呼ぶ。
さらに、こうした「違法条例」や国のガイドライン無視などを「法の曲解」もしくは「何かの洗脳か」という。
簡単にいえば、「馬鹿過ぎて話にならん」ということだ。
問題なのは、その「馬鹿過ぎて話にならん」という事態が全国的に発生しているということだ。
過去、いじめ法は欠陥法だと裁判で主張した川口市の教育長などが、国会議員などに呼ばれて注意をされたことがある。霞が関に来たら、態度を一変させ、「ちゃんと守ります」と揉み手をして謝ったわけだが、これでは小悪党の中の卑怯者だと言えよう。
ただし、小賢しい小悪党は、本音ではそう思っていても、言葉にすれば問題になることを見越して言わないわけだ。きっと、そうした小賢しい悪党がたくさんいるのかもしれない。
全国的に、次はここもか!という常任第三者委員会の問題は生じているし、条例判断と国のガイドライン判断が異なる問題は数が増えているのだ。
ちなみに、いじめ防止対策推進法で定められた「いじめ防止基本方針」が未だに設置されたない市区町村もある。法律も守らない教育行政に何ができるのか?
異常な教育行政の独断を許してはならない。
編集後記
今回、福岡の調査報告書を見て、正直、「お前もかっ、がっかりだよ」と思いました。
メンバーについては市側が公表しない姿勢であったので、配慮して公開こそしませんが、かなり良いメンバーに思えました。だからこそ、がっかり度は半端なかったです。
なるほどな、結構な力がかかってしまえば、個別の良いメンバーを揃えてもこの程度になるのか…と思います。
少なくとも県外に。
これしかないと思います。今や一般企業はオンラインで仕事を進めます。国もそれをチェックするほど、「やれや!」と圧をかけていますね。一般人としては、国がやれというならお前もやれやと思ってしまいますが…。
県外であっても第三者委員会のメンバーになってもらうようにするのをスタンダードなことだとすればよいのです。
私も多くの会議をオンラインに切り替えています。離れていてもオンラインで会議は大体できます。もちろん調査は現地に行かなければなりませんが、できる!第三者委員会は調査役を設けたり、連携して調査を進めたりします。実は私がここの第三者委員会はすごいぞというところが2つあって、その事例を紹介したいのですが、まだ公表になっていないのでタイミングを見ているところです。
やるところと、ダメなところの差は天と地ほどあります。つまり、立法上、確かに今となって問題となる要改正部分はありますが、その趣旨や構造自体は、ちゃんとやれば、しっかりしたものになるわけで、ダメなところは、単純にやらないだけというのがありありとわかる状態です。
ある種、学校村、日本州教育王国のような状態は、しっかりと見直していく必要があります。
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