今年2月に三井不動産が始めたホテルのサブスクリプションサービス、その名も「サブ住む」をご存知でしょうか。今回のメルマガ『理央 周の売れる仕組み創造ラボ【Marketing Report】』では著者でMBAホルダーの理央 周さんが、6月には東京ドームホテルも加わりますます注目を集める「サブ住む」を詳しく紹介。さらに同社の強みを分析して判った、価格競争に走りがちな企業が再認識すべきポイントを記しています。
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三井不動産はなぜ、ホテルのサブスクを始めたのか?模倣されにくい差別化の方法
三井不動産が、ホテルに一定期間住むことができる、サブスクリプションサービスを、今年の2月に開始しました。
コロナ禍がまだ不透明な中、なぜ今、三井不動産がこの時期に、宿泊ビジネスにおいて、このような手を打ってきたのか、今後の目論見は何かを深掘りしていきます。
ホテルのサブスク「サブ住む」とは何か?
この長期宿泊サービスの内容に関して、三井不動産のホームページによると、「ホテル×住まいの新しいサブスクリプションサービス」というコンセプトでの、ホテルの定額制宿泊プランの販売です。
ただ、ホテルとはいうものの、「住まい」とある通り、1ヶ月単位での宿泊サービスとなるため、課金も1ヶ月単位です。
そこで、サブスクに引っ掛けて、「サブ住む」と題しているのも分かりやすくて良いと感じます。
提供サービスには、“HOTELどこでもパス”と、“HOTELここだけパス”、という2つのプランがあります。
“どこでもパス”の方は、三井不動産系のガーデンホテルズなどの中から、全国どこでも、好きなホテルに30泊できるというプランで、100名限定で販売されています。
価格は15万円プラス1泊500円の利用料から、と設定されています。旅行好きの人や、いろいろなところに出張に行く人には、毎回別なホテルを比較しながら予約して泊まるよりも、かえってお得かもしれません。また部屋の種類に関しても、追加料金を出すことでアップグレードも可能です。
“ここだけパス”の方は、1つのホテルにじっくり泊まるというプランです。
同じように30泊が1セットで15万円から、という料金体系です。
こちらの方は、実際に一箇所に滞在するため、「住む」というイメージになります。
シーツ交換もあるため、ビジネスでの1ヶ月単位での、短期間の単身赴任などには、敷金礼金や家具の購入などが不要なことを考えると、金額的にもお得な場合もあり、かかる時間も節約できます。
東京ドームホテルの「サブ住む」の先にあるものは?
発表当初は「三井ガーデンホテル」などが対象施設でしたが、三井不動産が1月に完全子会社化した、東京ドームの運営ホテルが加わったことが発表されました。
もともとこのホテルでは、客室を使ったシェアハウスが運営されていましたが、さらに東京ドームの関連施設と連携した取り組みが、用意されています。
サブ住む新商品「CITYまるごとDOME(ドム)住む」とネーミングされているこのパッケージプランは、やはり30泊のプランで、1から2名で25万円から、3名だと30万円から、となっています。
このホテルは、東京23区の中心地にあり、仕事にも遊びにも便利な立地です。ホテル内ではWi-Fiもつながるので、部屋を借りるより便利な部分が多そうです。
こういったホテルとしての利便性に加えて、滞在期間中には、さまざまな東京ドーム関連の施設を、優待利用できます。
天然温泉のラクーアというスパの入館が無料なること、東京ドームシティの遊園地にある、アトラクションズが乗り放題になります。
さらに、東京ドームホテル直営レストランで利用できる、レジャーチケットが15冊も付いている、「得10(とくてん)チケット」もついています。
それにしても、一度試してみたくなる企画です。今の時代、リモートワークOKという会社も増えているので、価値のある企画です。
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コンセプトで売り物を独自化する三井不動産
東京ドームのホテルの事例は、三井不動産の独自性を表しています。
大手不動産会社にそれぞれ特徴があり、三菱地所はやはり東京丸の内のオフィスに強く、住友不動産はビジネスビルに強いという印象があります。
一方で、三井不動産はららぽーとやアウトレットなど、商業施設にも力を入れています。また、六本木や日比谷にあるミッドタウンのような、土地を再開発して、商業、ビジネス、住まいを一体化する、「タウンマネジメント」に強いイメージがあります。
東京ドームのホテルを完全子会社化した時に、なぜこの時期にホテルを、と感じました。しかし今回のこの「CITYまるごとDOME(ドム)住む」の発表で、やはりタウンマネジメントのコンセプトで、ホテルだけ活用し売り上げを期待するのではなく、周辺施設全体を盛り上げることで、相乗効果を狙っている目論見を感じました。
企業は自社の強みを生かすことで差別化をするのですが、三井不動産のこの事例は、これまで蓄積されできたタウンマネジメントのノウハウ、という強みを生かしています。ノウハウ、というアナログの強みは、他社が最も真似をしにくい、強力に差別化された強みです。
ビジネスでは「どうしても価格競争になってしまう」「営業で値引きしなければ契約にならない」という売れない問題が発生します。
この問題の根っこには、「十分な差別化ができていない」ことがあります。差別化とは、顧客から見た時に、「ライバルよりも価値がある」と、顧客に認識されることです。
この東京ドームのホテルの住むサブサービスでいえば、ホテルに安く泊まれる、という機能的なメリットではなく、このホテルに長く泊まると、色々と楽しめる、という情緒的な価値で、差別化できています。
この差別化ポイントを捻り出すには、タウンマネジメントで培った経験、という目に見えない自社の資産になります。
値引きになりがちだ、という売れない問題を抱えていたら、今一度、顧客の価値を見直して、ニーズを定義して、そこにライバルよりも価値があると認識される、差別化ポイントをあてているかどうか、を再確認するといいでしょう。
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