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ブロックチェーン技術を応用したアート作品は打ち出の小槌になるか?

ブロックチェーン技術を応用することでデジタルアートでもオリジナルを所有することが可能になり、数億から数十億の値が付くなど、大きな関心を集めています。わかったふりはできてもわかりにくいNFT(非代替性トークン)アートについて、噛み砕いた解説を展開してくれるのは、メルマガ『杉原耀介の「ハックテックあきばラブ★」』著者で、システム開発者であり外資系フィンテックベンチャーCTO(最高技術責任者)でもある現役東大大学院生の杉原耀介さんです。NFTアートに特化した美術館の建設がニューヨークで決まるなど、実体があるようでないものに価値付けする動きが加速する先には何があるのでしょうか?

ブロックチェーンが作り出すあたらしい光と影

乗ってけ乗ってけ流行りには

まあ、どんな時代にもトレンドというか流行りってものがありますよね。古いところで言うとマルチメディアとかVRとか、あとユピキダスなんて言葉も流行ってたことあった気がする。そう言う意味では、いまわりと流行っているのはブロックチェーンとかAIですかね。もう、ともかくどんな案件でもとりあえず「◯◯は一発AIでどかーんと深層学習させて、ブロックチェーンで分散ですね!」と言っておけば、なんだかよくわからないけどすごそうだ。とりあえずお金出しておこうかと山師が泣いて喜ぶ素晴らしきDXがはかどるというものです。

なんか、こころならずもちょっと色んな人をDISってしまったように思いますが、今日ご紹介したいのはそんな山…もとい新しい先端技術の一つであるブロックチェーン技術をアートに応用したNFT(非代替性トークン)作品を取り扱う美術館がニューヨークにできたというお話です。

世界に名だたるグッゲンハイム

NFTに特化した世界最大級の美術館がNYに建設へ。その狙いとは?(美術手帖) – Yahoo!ニュース
ちょっと本文を引用すると

アメリカの大手投資企業「グッゲンハイム・パートナーズ」の共同創業者であるトッド・モーリーが、ニューヨーク・マンハッタンにNFTに特化した世界最大級の美術館を建設することがわかった。

とのこと。グッゲンハイムといえば知っている人は知っている、興味のない人はまったく知らないグッゲンハイム美術館などなんとなく名前が似てますね。

こんなことを言うと怒られるんですけど、グッゲンハイム美術館というのは世界中にいくつもあるフランチャイズ的な美術館ですが、ニューヨークのグッゲンハイム(どうでもいいけど打つのが大変)美術館はソロモン・R・グッゲンハイム財団が運営しているので、直接同じかどうかというのはわからないんですが、それはさておきえっ、なにNFTってそもそもなに?そして美術館ってどういうこと?とはてなで頭がいっぱいになっていらっしゃる方も多いかと思うので、まあ簡単にNFTのご説明からしていきましょう。

他の誰でもないあなただけ

まずはそもそもNFTってなんなんだろ?って話ですが、これ、ちょうど私先日大学で授業をしたばかりで、ガチンコで説明し始めるとこれだけでかなりの長文になってしまうので、雑にはしょって説明すると、「ブロックチェーンの技術を応用して、デジタルのデータを『これが本当のオリジナルなんですよ』と証明する技術」だと思っていただけると、大体あっていると言えるんじゃないですかね。

デジタルのデータってあたりまえですけど、コピーするのが簡単でいくらでも複製ができるし、複製しても劣化しないわけですよね。だから美術的な価値を作るのはすごく難しいわけです。

たとえばピカソならピカソの絵は「一点もの」だから高い、だけどたとえばシルクスクリーンとか複数印刷できるものはそれよりは安い。だから希少価値を出すために100枚しか印刷しないで連番をわざと入れたりするわけですね。

でもデジタルはコピーし放題だし、どれがオリジナルかわからない。もちろん作った人はいるからとうぜん「第一号」のデータはどこかにはあるんだけど、これまではそれを証明することができなかったわけです。ただ、NFTを使うと「これがオリジナルです」ということを証明できる(といわれている)わけですね、だから無数にコピーがあってもその「所有者」を一人に決めることができるということです。

やはりなんだかわからない

どうですか?なんだかわかったような、わからないような気持ちになったでしょう?それ、正しいです。これだけの説明で分かった方がむしろ変態で、そもそも穿った見方をすると「なんとなくみんながわかったようなわからないようなすごい気持ちにする」というのが目的なんじゃないかとゲスの勘ぐりをしてしまうくらいなので。

たとえばこんな例を考えてみてください。ここにアイドルAさんがいます、その人は人気者でたくさんのファンがいるわけですし、ファンはどんどん自然に増えていくわけですね。それを止めることはできない。ただもしそのアイドルAさんが「もし100万(1億でもいいけど)出す人がいたら、その人を“唯一正式なファン”だと認定します。それ以外の人は野良ファンです」と言ったとしたら?

熱烈なファンの人はその「真のファン」の座を獲得するためにオークションに参加して、もしかするとものすごい金額をぶっこみ始めるかもしれませんね。でも、その結果得られるのは?そう、ただ「唯一の正式なファン」であるという称号だけ。

実態としては他のファンとの区別はなく、特にそれによるメリットもありません。ただ称号を「所有」している実態があるのと、もしかしたらその称号を「譲渡または転売」することができるというだけです。ま、乱暴に言えばNFTアートってそんなもんです。

もちろん、絵とか動画とかデータにはそれなりのすごさがあるかもしれませんが、もっとも大事なのはいままでデジタルではどうしても出せなかった「希少性」というのを初めて作れるようになったということなんですよね。

まあ、アートってそういうもの

「そんな馬鹿馬鹿しい話が?」と思うかもしれませんね。でもたとえばマウリツィオ・カテランさんという人が作った「コメディアン」という現代アート作品があります。これ1,300万で落札されたんですけど、どんなものかと言うと「壁にバナナをダクトテープで貼っただけ」のものなんですよね。「いやまじで?これを1,300万でかったんだ」とおもうような感じですが、まあ考えてみると現代アートってわりとそういうもの多いし、なんなら古典的な作品でも「この絵は…どうなんだろ」と思うようなものは結構ありますよね。

まあ、つまり「だれかがそれに高い値段をつけて買ってもいいとおもい、それを譲ってもいいと考える提供者がいる」ならばアートは成立し、そこに願わくば「正当な権威を与え得る場所がある」ことが重要なんです。

そう考えるとNFTの美術館ができるのも当然と言えば当然。もちろん、表向きは「人類のデジタルの創造性を記録する場所」みたいな美しい言葉に飾られるかもしれませんが、実際のところ「権威ある美術館に飾られている権威あるデジタル作品」ということになれば、値段もあっという間に天井しらずに跳ね上がることでしょうし、今までの美術品と違って保管に面倒な温度を管理する必要もなければ、置き場に困ることもない。

デリケートな美術運送会社を使わなくても、インターネット一つで世界のどこにでもピュっと作品を送れるなんて夢見たいな話ですね。

自分でお金をどんどん刷れる

まあ、もちろん今までも美術の世界ではそういうところもないわけではありませんでした。もちろん、純粋にその作品を楽しんで買っている人も大多数でしょうが、中には作品が好きとかどうかよりも「今後の投資価値」として値上がりするのかどうかみたいな投機的な目的で美術品を買っている人も多かったわけですね。

ただ、NFTになるともはや「所有」しているといっても、結局手元には何もない。ただ「法律的な所有権」をもっていて、あとはその作品を自由に処分する権利があるだけで、基本的には(誤解を恐れずに言えば)「何もない」わけです。

そうなると当然、投機の対象になっていく可能性は高く、実際にNFTの有名な作品は多数産油国のとある投資会社が保有してたりするわけですよね。

そうなると、今度は多くNFTを保有しているところが「この作品はこのくらいの価値ある」といって無名の作品を売り出すことにより、いくらでも作品の価値を「生み出す」ことができるようになって、それはざっくりいうと「自分でお金をどんどん刷れる」ということになるのかもしれませんな。

image by:mundissima / Shutterstock.com

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幼少期から独学でプログラムを学び、15歳でプログラムコンテスト荒らしを始める。工学系に一旦は進むもすぐ飽きて美術系に転向。映像・CGデザイナーを経て1995年にインターネットと出会いニューヨークでシステム開発の仕事を始め、その後アイドルから金融まで幅広い新規事業に携わる。直近ではゼロから外資系フィンテックベンチャーのシステム開発を行い、CTOとして成長に寄与。ガジェット大好きなガチオタ。新しいテックトレンドの予言に定評があり「預言者」と呼ばれることも 。慶應義塾大学大学院美学美術史学修士、現在東京大学大学院博士課程在学。

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