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トランプ暴言、中国、コロナ。大暴動の南アフリカに混乱を招いた複雑な要因

ほぼ沈静化したとは言うものの、200名以上の死者を出した南アフリカの大規模暴動。引き金となったのは前大統領の収監とのことですが、その「前兆」はくすぶり続けていたようです。今回のメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では著者でジャーナリストの内田誠さんが、朝日新聞がこれまで報じてきた南アに関する記事を遡り、暴動が起きた背景を分析。同国を現在の状況に至らしめたのは、複雑かつ多重に過ぎる要因でした。

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暴動のきっかけは前大統領の収監。「南アフリカ大統領」を新聞各紙はどう報じているか?

きょうは《朝日》から。

南アフリカで大きな暴動が起こりました。少し遡って見て見たいと思います。《朝日》のデータベースで、大統領の名前「ラマポーザ」で検索すると、サイト内に62件、1年以内の紙面掲載記事では7件にヒットしました。

【フォーカス・イン】

まずは《朝日》4面記事の見出しと【セブンNEWS】第3項目の再掲から。

南ア暴動・略奪 死者212人に
「銃を持った集団、警察官に発砲」

南アフリカの暴動・略奪で死者212人、逮捕者2,500人超となった。ラマポーザ大統領は暴動を「民主主義に対する意図的、組織的に計画された攻撃」と批判。警察は暴動を扇動した容疑者12人のうち、15日時点で1人を逮捕。

以下、記事概要の補足。東部クワズールー・ナタール州やヨハネスブルクのショッピングセンターやモール161カ所、倉庫や工場19カ所、酒販店161軒が襲われた。死者のうち、131人については警察が殺人事件として捜査を開始したという。

暴動のきっかけは、ズマ前大統領が収賄疑惑に関連して法廷侮辱罪に問われ、収監されたこと。ズマ氏の支持者の抗議デモの一部が暴徒化したという。ラマポーザ氏によれば暴動・略奪は急速に沈静化して、交通も流通も徐々に回復していると。

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【サーチ&リサーチ】

* ズマ氏は、アパルトヘイトを廃止に導いたネルソン・マンデラ氏の後継者で、マンデラ氏が作ったアフリカ民族会議(ANC)の党首となり、マンデラ氏の後を継いで大統領になった人物。解放運動の闘士だったが、就任後は数百に及ぶ汚職疑惑にまみれ、急速に支持を失った。憲法の規定で3選できないため、元妻を大統領候補に押し立てたが、ANCの議長(党首)選でラマポーザ氏に敗れた。それでもズマ氏はなかなか大統領を辞めなかった。

* 結局、ズマ氏は18年2月に辞任。議会が副大統領だったラマポーザ氏を大統領に選出。3月、ズマ氏は16の罪で起訴される。

* ラマポーザ大統領は、今も白人による大土地所有が続いていることについて、「不平等を是正する」ため、白人所有の土地を補償金なしで収容し、黒人に再配分する方針を提示したが、このことについて、トランプ米大統領(当時)がツイッターで反発し、白人至上主義者の主張に沿って「白人農家の大規模殺害」などと言い立てた(2018年8月15日付)。

* 中国は、アフリカ諸国を取り込むために躍起になっている。18年9月、「中国アフリカ協力フォーラム」が北京で開かれ、53カ国が代表を派遣し、うち30近い国が首脳級を送り込んだという。しかし、ラマポーザ氏は挨拶の中で…。

* 「『技術移転はアフリカのビジネスの持続的発展につながる』。南アフリカのラマポーザ大統領は開幕式で、中国に期待しつつ、新たな形での貢献を求めた。習氏が発表した巨額援助だが、その規模は3年前のフォーラムで表明した額と同じだった。この間、中国もアフリカも高成長を続けたにもかかわらず、援助額の上積みはなかった」(2018年9月4日付)。

* 2019年5月、南アフリカの総選挙が行われ、ラマポーザ氏が率いる与党アフリカ民族会議(ANC)は得票率57.50%で勝利。過半数の議席を得て大統領も再選されることに。以下、記事からの引用。

「ANCは国民的人気を誇る故ネルソン・マンデラ氏が率いた党で、1994年の同国の民主化以降、政権を握り続けている。ただ、ズマ前大統領時代に汚職や詐欺疑惑が相次ぎ、経済も低迷。世論調査では一時、ANCに投票すると答えた人の割合が47%にまで減少。総選挙での過半数割れが現実味を帯びたため、昨年2月、ズマ氏は辞任に追い込まれた。後任のラマポーザ氏は、マンデラ氏の元側近で、実業家としても知られる。付加価値税(消費税)を25年ぶりに引き上げて緊縮財政を実施。汚職の取り締まりも進めるなど、産業界からの支持を集めた」(2019年5月11日付)

* この間、日本は経済援助よりも、民間投資の促進に力をいれた。日産のピックアップトラック組み立て工場の進出など。

* コロナ禍では、アフリカの感染者の3分の1程度が南アフリカで判明。医療崩壊の状況も生じていた。

* 今回の暴動に関する記事の中に、次のような指摘も。

「暴動や略奪が拡大した背景には、新型コロナウイルス対策による外出制限などで経済が悪化し、貧困層の生活を直撃していることや、根深い格差社会への不満などがあると指摘されている」(2021年7月13日付)

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●uttiiの眼

南アフリカにおける現在の状況は、複雑な要因が重畳しているため、他国以上に困難になっているのだと思う。

アパルトヘイトそのものは廃することができたけれど、経済格差は激しく、社会の内部には鋭い亀裂が走っているまま。そこにコロナ禍がもたらす経済難がとりわけ貧困層を直撃することになり、ますます格差は拡大し、コロナ感染も拡大することになる。最大部族を背景に、ズマ前大統領を支持する勢力は、今も大きな力を持っているから、今回のような抗議運動が暴動を惹起することにもなる。ラマポーザ大統領の言うような「意図的、組織的に計画された攻撃」ばかりではないだろうが、どちらにせよ治安の悪化は、新型コロナウイルスの感染拡大をもたらす可能性がある。

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image by: Gareth_Bargate / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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