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新国立競技場が「ホワイトエレファント」=無用の長物と海外に揶揄される理由

盛大にとまではいかないものの新国立競技場で執り行われた東京2020オリンピックの開会式。この後の競技は無観客と決まっていて、閉会式やパラリンピックは控えていてもすでに巨大競技場の負の遺産化が始まっているのではないでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』では、著者でジャーナリストの内田誠さんが、新国立について毎日新聞が報じた「海外メディアから『ホワイトエレファント』と揶揄されている」に注目。飼育に金ばかりかかる「白い像」を贈られてしまったのは誰なのでしょうか?

五輪の負の遺産記事で見つけた“無用の長物”を意味する「ホワイトエレファント」という言葉

きょうは《毎日》からです。五輪の負の遺産についての大きな記事の中、「ホワイトエレファント」という言葉が見つかりました。「無用の長物」を意味するとだけ書いてあり、意味が今ひとつピンときません。

これを久しぶりに《毎日》のデータベースで検索すると12件。《朝日》のデータベースで引くと1件、天声人語の記事が出てきました。これらをもとに、何故今日の記事に「ホワイトエレファント」という言葉が使われているのか、考えてみたいと思います。まずは今朝の《毎日》2面の、五輪を検証する特集記事の見出しから。

五輪 目立つ負の遺産
国策化 スポーツ界地位低下
国立競技場 将来像なし

以下、記事の概要。記事は前半と後半に分かれている。前半は、2007年のスポーツ国策化を提言した副文科相の私的諮問機関による報告書から始まり、スポーツ基本法制定、スポーツ庁創設、そして五輪招致へと突き進んだ歴史を回顧している。JOCは急速に政治との距離を縮め、国の競技力向上事業費は14年度の49億円から4年で倍増、近年は100億円台で推移するに至った。

ところが強化費の急増は競技団体内でのカネと権限を巡る主導権争いを激化させ、内紛を繰り返された結果、スポーツ界は発言権を失ったという。JOCの存在感はなくなり、幹部らは「我々は旅行代理店だ」と。国策化の果てに、スポーツ界は発言権を失うという皮肉な結果に。

記事の後半は、大会後の国立競技場について。球技専用なのか陸上競技場なのか、将来像がぶれ、いまだに決まらない。大規模修繕費やその他の維持管理費の負担が大きく、民間に運営を任せたくても手を挙げるところがないからだ。「球技専用、陸上競技場のどちらで運営しても、もうけるのは至難の業」(政府関係者)で、海外メディアからは早くも「ホワイトエレファント」(無用の長物)と揶揄されているらしい。

●uttiiの眼

前半、国策化の流れが見事にまとめられていて、非常に分かりやすい。スポーツ界は元々、大企業やテレビなどのメディアとはベッタリだったが、世界的な水準になかなか付いていけず、国策化の流れの中で、ある種の「ステート・アマ」化の道を選んだと言ってもよいのだろうか。

【サーチ&リサーチ】

まず、「ホワイトエレファント」の意味について、《朝日》の「天声人語」(2017年7月13日付)に教えを乞うことにしよう。

由来は「タイの王様が気に入らない家来に白い象を贈った故事」らしい。「飼育に大変なお金がかかるが、捨てるわけにいかない。家来は必ず落ちぶれた」というから、白い象を贈られた家来は恐怖で顔面蒼白となったに違いない。

天声人語が「ホワイトエレファント」に擬するのは、五輪関連施設。2004年開催のギリシャ、アテネの競技場は「草木が伸びるまま放置されている」といい、人語子は「古代五輪の発祥地ギリシャで毎回開いてもいい」と、「聖地化」を提案する。持ち回りで世界中に「無用の長物」を残していくのではなく、毎回同じ場所で集うことにも意味があるのではないかと。例えば日本の高校スポーツ界では、ラグビーは「花園」、野球は「甲子園」と決まっている。聖地ゆえの盛り上がりもあるのではないかと。

*以下、《毎日》の過去記事から。まずは2015年。ザハ・ハディドから隈研吾に設計者が変わった後に書かれた記事。五輪競技会場がどこでも「無用の長物」になっているとして、次の記述。

2015年12月22日付
「建設した巨大競技会場は大会後の利用に苦しみ、世界各地に「ホワイトエレファント(無用の長物)」を生み、世論の反発も招いてきた」と。

*続いて、『オリンピック経済幻想論』(アンドリュー・ジンバリスト)についての松原隆一郎氏による書評の中で、五輪の運営費が膨張する理由についての以下の記述。

2016年8月7日付
「エコノミストが産業連関表による経済効果の推定なるものを持ち出すが、それは「巨大イベントのプロモーション用」に過ぎないと著者は手厳しい。観光客は多く見積もりすぎ、04年のアテネ大会など1日当たり10・5万人を見込んだのに1・4万人しか来ず、新築した施設は「ホワイトエレファント(無用の長物)」となって、新たなギリシア遺跡と化した。つまり短期的には赤字、長期的にも利益は見込めず、効果の多くは都市イメージ等の質的なものに止(とど)まるのである」と。

*小池都知事は、むしろ「ホワイトエレファント」を否定する文脈で使う。リオ五輪が全日程を終えた後の記事では、小池知事の次の発言を拾っている。

2016年8月22日付
「19日にリオ入りし、パエス市長と会談した小池知事は「会場をホワイトエレファント(無用の長物)にしないという話に感銘を受けた」と述べた」。そして、「クリーンで透明性の高いクリアな大会にしたい。納税者にホワイトエレファントを残さず、しかし、よいレガシー(遺産)は残す方向で進めたい」と。

*東京五輪は、「負の遺産」を残さないよう、開催費抑制を重視して行うことになったはずで、だからこそ国立競技場新設費用についても3000億円と言われたザハ・ハディド案が拒否されたのだが、結局は「負の遺産」になってしまいそうだという以下の記事。

2019年7月30日付
「五輪は今世紀に入り、国の威信を懸けて整備した豪勢な会場が、大会後にホワイトエレファント(無用の長物)となるケースが相次いだ。開催都市が重い財政負担に苦しむ事態に、五輪招致に名乗り出る都市が減少。危機感を覚えたIOCが開催費抑制を重視して迎えるのが東京五輪だ。整備費が3千億円超に上る見通しとなった新国立競技場は15年に白紙撤回され、解体費を含めて最大1670億円の予定の現計画に変更した。ただ騒動の中で後利用まで議論を深めなかったツケが回ってきている」と。

*さらに、コロナ禍で緊急事態宣言下、無観客で開催されるメイン会場(入場料収入ゼロ)は、「無用の長物を意味する「ホワイトエレファント」にも見える」(2021年7月20日付)と。

●uttiiの眼

言論空間においては、小池都知事が操る「良いレガシー」と批判側が使う「ホワイトエレファント」が概念として対抗しているようだ。現実には、国立競技場をそのまま陸上競技場として使う場合でも、大規模修繕費を含む膨大な維持費がかかるのに、球技専用に回収する際には、いくら掛かるか分からない「改修費」が上乗せされる。

これが最大のネックとなって、とてもではないが「レガシー」などと気取ってはいられないのが実情だろう。問題は、「ホワイトエレファント」を贈られそうになっているのは、王様の気に入らない家来ではなく、都民であり、国民全体だということだろう。

image by:Tomacrosse / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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