東京五輪開会式の各国選手団入場行進で、チャイニーズタイペイオリンピック委員会旗を掲げ登場した台湾選手団に対して、中継を担当した女性キャスターが「台湾です」と紹介、式中に一度も「チャイニーズ・タイペイ」という名称を使わなかったことが大きな話題となっています。今回のメルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』では台湾出身の評論家・黄文雄さんが、こうした台湾の扱いを「画期的」としてその理由を解説。さらに変化しつつある国際社会の「台湾観」についても詳しく紹介しています。
※本記事は有料メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」』2021年7月28日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:黄文雄(こう・ぶんゆう)
1938年、台湾生まれ。1964年来日。早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。『中国の没落』(台湾・前衛出版社)が大反響を呼び、評論家活動へ。著書に17万部のベストセラーとなった『日本人はなぜ中国人、韓国人とこれほどまで違うのか』(徳間書店)など多数。
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【台湾】五輪開会式で日本が「台湾」を連呼した背景
● 五輪開会式で「台湾」として行進 50音順の入場めぐり「屈辱」と中国は怒りも NHK和久田アナ「台湾です!」に「粋な計らい」の声
開催に否定的論調が強かった東京五輪ですが、日本のメダルラッシュですっかり世論の流れも変わったようです。日本勢の活躍に、毎日が感動の連続という方も多いのではないでしょうか。
台湾も、2004年のアテネ五輪のときのメダル5個を更新し、過去最多のメダル数(7月27日時点で6個)となったことで、大盛りあがりを見せています。59kg級女子重量挙げで優勝した郭婞淳は、台湾先住民族アミ族の血を引いています。
また、目をみはる日本勢の活躍も、台湾では大きく報じられていますが、それに先駆けて7月23日に行われた五輪開会式での台湾選手団の入場行進も話題となりました。
ご存知の方も多いと思いますが、開会式での選手団入場は「あいうえお」順位で行われました。台湾は「チャイニーズ・タイペイ」ならばチェコの後の行進であるにもかかわらず、実際には大韓民国の後の行進となりました。つまり「台湾」という名称での入場行進になったということです。
NHKの和久田麻由子アナウンサーも、台湾の入場行進について「台湾です!」と紹介し、一度も「チャイニーズ・タイペイ」という名称を使いませんでした。これは画期的なことです。
こうした台湾の扱いが、日本と台湾のSNSで大きな反響を呼びました。とくに台湾では感動する声が多く上がり、日本に感謝する声が溢れていたようです。
● 五輪開会後に台湾からは「日本ありがとう」 感謝のコメントが続々の理由とは
蔡英文総統も、自身のフェイスブックに次のようなコメントを書き込みました。
どんなに大きな挑戦であっても、スポーツの力、オリンピックの価値は揺るぎません。開催国である日本の皆様、ありがとうございました。
世界が流行から立ち直ろうとしている中、世界中のアスリートたちがオリンピックスタジアムに集まって、その回復力を示しました。国境や人種に関係なく、彼らは人間の存在に対する文明的価値を示し、平和、多様性、統一性に対する信念を示しました。
同じように、どんなに大きな困難があっても、台湾が世界の一員になることを止めることはできません。盧彦勳選手と郭婞淳選手が旗を持って行進した瞬間、台湾は世界の舞台に立ち、私たちは皆、誇りに思いました。
● 蔡英文 - Home | Facebook
さらには、
台湾と日本は近い隣国であり、困ったときにはお互いに助け合ってきました。今回は、そのお手伝いをさせていただきます
現地には行けませんが、すべてのレースを中継で追いかけて、選手たちの活躍を一緒に見守りたいと思います。
と投稿し、日本への感謝と連帯を表す動画とともに「ありがとう!日本!東京オリンピック、一緒に頑張りましょう」
と日本語で書き込みました。
● 來自台灣的祝福!一起為東京奧運加油!ありがとう!日本!東京オリンピック、一緒に頑張りましょう!
【関連】嘘つき安倍晋三が世界を騙した。東京五輪の酷暑にアスリートが悲鳴、“虚偽の常習犯”逮捕までのカウントダウン
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一方の中国は、テンセント(騰訊控股有限公司)がネット配信しましたが、台湾選手団の入場行進をカットして別映像に切り替えたところ、中国選手団の行進まで配信しそこねてしまったそうです。中国らしい失敗です。
● 台湾に過敏反応したら…中国、五輪開会式で自国選手の行進を配信し損ねる ネット上では大バッシング
以前から台湾の民間および、日本の台湾支持派などから、「台湾」を正式名称にすべきだという声は挙がっていました。しかし台湾政府関係者は、長い間、この問題について否定するか静観するだけだったのです。
正名運動は1950年代から始まっています。かつては「台湾 中華民国」という名称で、3回もオリンピックに参加しています。1964年の東京オリンピックでも台湾は「台湾 中華民国」名義で参加しています。
ところが1971年に国連のアルバニア決議により中華人民共和国が「中国の唯一の合法的代表」とされたことで、中華民国は国連を脱退します。以後、中華人民共和国と中華民国は、名称を含めてどちらが正統な政権かをさまざまな国際舞台で争うようになったのです。
同時に中華民国政府は、いかなる団体でも「台湾」を名乗るものはみな「反乱団体」だとして、圧力を掛けてきました。「台湾ライオンズクラブ」や「台湾語聖書」などの名称さえ「敵」とみなされました。
中華民国政府は中国人が主催し、いずれ中国大陸に反攻して中国を統一すると考えていましたから、「台湾」という中国とは別の国の存在を認めなかったのです。
1976年のモントリオール五輪では、カナダが「中華民国」名義での選手団受け入れを拒否、そのかわりに「台湾」名義を提案しますが、当時の中華民国はこれを拒否して参加をボイコットしました。
1979年に名古屋で開かれたIOCの会合で「チャイニーズ・タイペイ」としての参加が認められるようになりましたが、ここでも中国とのあいだで漢字表記は「中国台北」か「中華台北」かということで悶着となり、ついに1989年に両者合意のもと、「中華台北」に決まったというわけです。
● なぜ「台湾」での東京五輪出場にこだわるのか 古くて新しい呼称問題に日台有志が動き出す
しかし、1988年に李登輝が総統となり民主化を進め、1996年に初の直接選挙を行うようになると、台湾人に「自分は中国人ではなく台湾人だ」という意識が芽生え始めました。そして2000年の民進党政権への政権交代、2016年の再度の民進党政権誕生を経て、「台湾人意識」はさらに大きくなっていったのです。
2020年の東京オリンピック開催が決まると、台湾人選手の国籍を「チャイニーズ・タイペイ」ではなく「タイワン」にしようと呼びかける運動が始まりました。この東京オリンピックに向けた「正名運動」の総責任者は、紀政という元オリンピック選手でした。彼女は台湾初の女性メダリストとして尊敬を集めています。また、3回のオリンピックに出場していますが、いずれも「台湾」名義(1回は台湾の別称である「フォルモサ」)で参加したそうです。
ところが、20182年9月に「2020年の東京オリンピックですべての正式名称を『台湾』にするか」という国民投票が行われましたが、賛成45.2%、反対54.8%で否決されてしまいます。
しかし、今回の東京オリンピックで日本が「台湾」として扱ったことにより、当時の反対派も「『台湾』という名称だと競技に参加できなくなるという懸念が叫ばれていたので、仕方なく反対した」という声が多く挙がっています。
● 東奧開幕日主持人喊「台湾です」 四叉貓憶2018年公投往事
台湾では多くのメディアがいまだ国民党の影響下にありますので、ネガティブキャンペーンによる脅かしで、「台湾」という名称使用が否決されてしまったわけです。今回の開会式は、そういった過去の事実を判明させると同時に、「台湾」という名称でも参加できるということを、日本側が示してくれたということで、台湾にとっては非常に大きな意味があるものだったといえるわけです。
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台湾はこれまで、とくに航空分野において、中華人民共和国と同視されないように「中華」「中国」ではなく「台湾」という名称使用を進めようとしてきました。これに対して中国は2018年7月、世界の44航空会社に対して「台湾」表記の中止を求めてきました。応じなければビジネス上の不利益を与えるという、暗黙の圧力があることは言うまでもありません。
各国の航空会社の多くがこれに応じ、「中国台北」といった表記にしましたが、日本航空と全日空は、東アジアなどの地域から直接、中国や台湾の「都市名」を選ぶ方式にして、国名を書かないというやり方で、乗り切りました。日本は台湾への配慮も欠かさなかったのです。
そして現在、NHKのメダル順位も「台湾」という表記になっており、先の開会式での台湾の扱いも含めて、中国側は「台湾が小細工している」と非難しているそうです。
● China calls NHK’s listing of Taiwan on Olympic medal table ‘little tricks’
現在のところ、中国は日本への批判を押さえているようです。ホスト国である日本を批判するのはさすがに非礼であり、また、欧米各国が来年の北京オリンピックへのボイコットする可能性があるため、日本を懐柔して先進国の団結を阻害したいという思いもあるからでしょう。
しかし、国際社会の台湾観は静かに変化しつつあります。武漢発のパンデミックも、その契機の一つだと思います。中国の情報隠蔽によって世界に大きな被害をもたらした新型コロナ問題は、中国という国の本質を暴きました。
それが国際的な中国への疑念と警戒心を高め、ウイグルでのジェノサイド批判につながっていったともいえます。アメリカ議会はIOCに対して北京五輪の開催地変更を求める書簡を送り、さらに7月27日には北京五輪のスポンサー企業に対する公聴会が開かれ、開催地を変えるようにIOCに圧力をかけるべきではないかと迫ったそうです。
● 米議会 北京五輪スポンサー企業公聴会「開催地変更すべきでは」
いくら習近平が中国国内で「偉大なる指導者」として自己の神格化を進めても、民主主義国には通用しません。世界で習近平を「偉大な指導者」と認める国はなく、むしろ「ジェノサイドの独裁者」というイメージが強まっていくばかりです。
そして国際社会は、自由主義の国・台湾を、専制国家と対峙する最前線として認知しつつあるのです。「台湾」が正式名称になることは、「一つの中国」の否定や脱却を意味します。香港が完全に中国の支配下に入ってしまった現在、この開会式で改めて「台湾」が強調されたことは、国際社会が改めて台湾を自由主義陣営として区分けしようということの現れのように思えて仕方ありません。
アメリカのNBCテレビは、五輪開会式の中継で、台湾を含まない中国の地図を画面に映し、これに対して中国の総領事館が「中国人民の尊厳と勘定を傷つけた」として抗議したそうです。開会式とあわせて、やはり偶然に起こったこととは思えません。中国も国際社会が「一つの中国」を事実上、否定し始めていることに、焦りを感じているようです。
いずれにせよ、日台の絆がより明確に現れた開会式だったと思います。日台選手の一層の活躍に期待しています。
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