首都直下地震「被害想定額95兆円」に日本は耐えられるか?発生率70%の重大リスク

 

「もう一つの首都」という代替機能

Q:甚大な被害が生じる恐れのある首都直下型地震に対して、小川さんは「もう一つの首都」構想を2004年ころから打ち出された。どういうことですか?

小川:「一つのきっかけは、ミュンヘン再保険会社が2002年に保険業界の国際会議で公表した『世界大都市圏の自然災害リスク指数』で、東京が『世界でもっとも危険な都市』と指摘されたことでした。これによると、世界でもっとも危険な大都市圏は東京・横浜圏で指数710。2位サンフランシスコ湾地域(167)の4倍、3位ロサンゼルス圏(100)の7倍というハイリスク評価が下されました」

「このリスク指数は、世界の金融・保険業界に〝災害危険大国・日本〟を強く印象づけ、国内の防災関係者や金融・保険業界にも大きな衝撃を与えました。これを見て日本から脱出する外資も出たのです」

「その後、私たちは日本の首都・東京の機能を代替するもう一つの首都が必要であると考え、これを『国家危機管理国際都市』、英語でNEMIC(=National Emergency Management International City ネミック)と名づけました。2004年秋には民主党の石井一さんが中心となって構想を打ち出し、国会には超党派の『危機管理都市推進議員連盟』も誕生しました。これは2005年4月に参加議員が360人以上と過去最大の議員連盟になりました。2011年の東日本大震災で、東京の代替機能の必要性がより切実に意識されるようになったことは、いうまでもありません」

「もう一つ、この代替機能の構築はリスク分散の考え方に基づき重層的に行う点がポイントです」

「アメリカには『一つのバスケットに卵を入れるな』(Don’t put all your eggs in one basket.)という格言があり、典型的なアングロサクソンの家庭教育とされています」

「親から手伝うようにいわれた子どもは、鶏小屋を回って卵を集めるとき、早く卵を集め終わって遊びたいと思うでしょう。そこで、運ぶのを1回で済ませようと大量の卵を一つのバスケットに詰め込めば、運悪く途中で転んでしまい、全部が割れてしまうかもしれません。でも、手間ひまを惜しまず、何回かに小分けして卵を運べば、1回転んだくらいなら大部分の卵は助かります」

「これはリスクを分散して被害を局限しようという危機管理の発想です。この考え方がアメリカ大統領の職務権限継承順位や米国政府存続計画で徹底的に貫かれていることは、当メルマガで繰り返しお伝えしているとおりです」

「首都直下型地震の危機に直面している東京が、政府機能や防災都市計画などを徹底的に見直して抗堪性《こうたんせい》(攻撃や災害などに耐えて機能を維持する能力)を向上させることは当然です。それと同時に、リスク分散の考え方によって、首都機能を副首都ともいうべき『もう一つの首都』(NEMIC)と、『衛星都市群』(その代表的な都市が『危機管理拠点都市』)によって、重層的な代替機能を構築すべきです。構想の詳細は、ちょうど10年前のメルマガをお読みください。後半の見出し『これが国家危機管理国際都市NEMICの全貌だ』以下に、具体的に触れています。構想の進め方については、9年前のメルマガ後半でお話ししています」

『NEWSを疑え!』第24号(2011年6月23日号) なぜ「もう一つの首都」が必要なのか──「副首都・NEMIC」とは 

『NEWSを疑え!』第96号(2012年3月8日号) 東日本大震災1年──日本は副首都を建設せよ! 

(本記事は有料メルマガ『NEWSを疑え!』2021年7月15日号の一部抜粋です。続きは『NEWSを疑え!』をご登録手続きの上、2021年7月分のバックナンバーをご購入いただくと読むことができます。また、2021年8月中のお試し購読スタートで、8月分の全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます)

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image by: ETOPO1, Global Relief Model / public domain

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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