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中国が目論む「台湾撹乱戦争」6年以内に勃発も?戦狼外交の生みの親を駐米大使に任じた習近平の狙いとは

先日掲載の「『台湾危機』勃発なら中国の攻撃で必ず巻き込まれる日本の都市名」でもお伝えしたとおり、米軍司令官が6年以内に起こる可能性を示唆した中国による台湾侵攻。7月末に実現した米国務副長官の訪中でも両国の融和が図られることはありませんでしたが、果たして中国は2027年までに台湾に対して軍事的なアクションを起こすのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、「6年以内の中国による台湾の武力統一は非常に困難」としてその理由を解説。さらに戦狼外交の生みの親を駐米大使としてワシントンに送り込む習近平政権の意図についても考察を巡らせています。

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米中対立の狭間で揺れる台湾

「台湾の“再統一”は中国、そして中華民族にとっての宿願であり、中国政府が成し遂げるべき最後のピース」

習近平国家主席が就任して以来、常に語られてきたのが、台湾の再統一です。毛沢東の成し遂げたカリスマ的な実績、そして一度は否定された実績を自らに重ね合わせ、中国を次の段階に押し上げ、新たなカリスマを目指す習近平国家主席にとって、香港の中国化、新疆ウイグル自治区およびチベットの中国化というピースを埋めた後に残る最後の、そして最も重要なピースこそが台湾です。

それは、習近平国家主席が2期目の任期をスタートさせる際に掲げた”One China and One Asia”構想にも表れています。側近と思われる方たち曰く、「台湾の再統一こそがOne Chinaのlast pieceであり、One Asiaのための不可欠なcritical pieceなのだ」とのこと。

ニクソン政権時に台湾を“見捨て”、中国共産党が統治する中国を外交相手として選んだアメリカとしては、そのパートナーである中国の望みに介入するようなことはないはずですが、冷戦時代に語られたドミノ理論の名残でしょうか。

中国共産党への対抗軸として、杭として存続し、また米国経済と不可分の関係を築いた台湾を“紅い波“から守るのは、自由民主主義の雄としての役割との考えから、アメリカ政府と軍は、象徴的な意味合いも込めて台湾の“現状維持“を、共産主義・全体主義との闘いの最前線に位置付けているように思われます。

それは南シナ海、ASEAN、東シナ海などに広がるアメリカと同盟国の権益と安全と並び、アメリカのアジア戦略にとって失うことのできない権益に位置付けられています。

トランプ大統領以前の政権では、時折、台湾を挟んだ米中の対峙はありましたが、あくまでも双方の覇権の分岐点としての位置づけを持っていたように思いますが、トランプ政権、そしてバイデン政権と、米中間の競争と対立が鮮明化してくるにつれ、台湾海峡のコントロールこそが、その対立の勝者のシンボルととらえられる向きがあるように思われます。

今年2月に行われた米中外交トップによる会談(@アラスカ)での意見の激しい対立は、米中の関係回復のチャンスをつぶし、対立・確執の図式が固定化されたようにも思われます。

それがはっきりしたのが、7月25日から26日のウェンディ・シャーマン米国務副長官の訪中時のやり取りでしょう。彼女は2月のアラスカでの会談にも同席していましたが、今回、バイデン政権の高官として初めて中国を訪問するということで、何らかの融和の機会を探るのかと期待されましたが、その期待は王毅外相が示した激しい対立姿勢で完全否定されました。

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王毅外相は何をアメリカサイドに突き付けたのでしょうか。1つ目は、中国の転覆を企てるなとの批判です。これは、クワッドや自由で開かれたインド太平洋地域(FOIP)に代表される対中包囲網形成に対しての中国からの猛烈な批判を指します。「中国はそのような圧力に屈しない」とのメッセージが表れています。

2つ目は、一方的なすべての対中制裁を解除せよとの要求です。これは、トランプ政権時代から課されている関税措置やハイテク企業のアメリカ市場での上場停止や、米国内での操業禁止という措置を指しています。このメッセージに込められた中国政府の思いは、「米国内でのいざこざのフラストレーションを中国に押し付けるな」とのメッセージではないかと思われます。

中国や韓国にとって、内政状態が芳しくない場合に、一番手っ取り早い解決策は、日本バッシングであるというポイントと似ているのかもしれません。「中国バッシングで、米国内に蔓延る諸悪を覆い隠すのはやめろ」とのメッセージです。

そして3つ目で、かつ最も強調されたのが「領土や主権に決して介入するな」とのメッセージです。香港や新疆ウイグル自治区をめぐる人権問題に対する欧米の批判はもちろんのことながら、王毅外相が最もハイライトしたのが台湾に対するアメリカ(と日本)の肩入れです。

「台湾独立勢力が挑発するなら、中国は必要なあらゆる手段を取り、それを阻止する」というメッセージは、「え、もしかして米中が台湾海峡を舞台に本当に戦火を交えるの?」という懸念を生じさせます。

それに現実味を帯びさせるのが、米軍の前インド太平洋軍司令官であるDavidson総司令官が3月9日に議会で語った「2027年までに中国は台湾に侵攻する可能性が高い」という内容です。

この発言と見解については、様々な意見があります。以前お話ししたように「軍事費再拡大のための誇張ではないか」との見方もあれば、「いやいや、これは昨今の中国の急速な軍拡と性能アップによって、インド太平洋地域における米中の軍事的なバランスが逆転したため、あながち誇張とは言えず、現実的な脅威に違いない」とする意見です。

中長期的にみれば、おそらく後者だと私は思いますが、ここでのミソは「2027年までに」という時限の存在です。

2027年までにとするならば、アメリカのCSISを含む各国の研究機関の見立てを見てみたところ、中国による台湾の武力による統一は非常に困難ではないかと考えます。

台湾は物理的には小さいですが、台湾を武力で統一する場合、少なくとも数週間、おそらく数か月というタイムスパンで、台湾海峡を完全に支配し、台湾を紅く染めるための作戦実行能力(兵站を含む)はないと思われます。

次に、仮に初戦でアメリカと台湾のサイドが負けたとしても、世界中に展開する米軍と核・宇宙・サイバー部隊などを含む戦力が結集して、沽券にかけて反撃に臨むものと思われます。そこに英国・フランス・ドイツという欧州勢と、クアッドが介入することが予想できますので、台湾の占領はかなり難しいでしょう。

恐らくその状況を習近平国家主席も中国の人民解放軍も理解しており、習近平国家主席の当面の狙いは【台湾の独立阻止】であり、中期的には、平和的な統一の道も選択肢としてまだ残していると思われます。

ただし、これらの理由とシナリオの大前提は【アメリカとその同盟国が、中国による台湾への攻撃に対して、介入すること】であり、もし積極的な介入がない場合は、案外容易に習近平国家主席はその宿願を叶えることになるかもしれません。

ただ、これまでのアメリカ政府の台湾問題への介入度合いから判断すると、中国が台湾に武力行使した場合に座視していることは、アメリカの沽券にかかわるため、まずありえないとは考えますが。

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では、中国にとってより現実的な2027年までの戦略はどのようなものが考えられるでしょうか。

1つ目は、以前にも脅威として指摘しましたが、台湾の離島への武力行使を行い、占拠することで台湾とその同盟国にプレッシャーをかけるという戦略です。

台湾領の離島とは、台湾の南西に位置する東沙諸島、南シナ海に位置する大平島と馬祖列島を指しますが、東沙諸島を除き、台湾から物理的に離れているため、南シナ海にも戦略的な軍事展開をしている中国の人民解放軍にとっては、作戦的には実行可能だと考えられます。

しかし、実行した暁には、確実にアメリカをはじめ、同盟国に介入の口実を与え、台湾への防衛支援が急増するだけでなく、国際的な対中批判の激化は避けられないでしょう。

そして、一気に米中間の緊張は高まり、一触即発状態に陥ります。その場合、偶発的な衝突は米中間での武力衝突につながり、これまでに蓄えてきた中国の軍事的な能力をそぐことになり、短中期的な再統一はかなり困難になるでしょう。

可能性はゼロではないと考えますが、この戦略を選択することは考えづらいと思います。

では他にはどのような戦略があるでしょうか。考えうる現実的な戦略は【中国による官民挙げての台湾かく乱戦争】です。これは、中国が能力を著しく向上させてきたサイバー攻撃や、メディアや外交の舞台、そしてフェイクニュースの流布などによる情報操作という、中国にとっては大の得意技です。

それを対台湾で仕掛け、市民の不満や不安を煽り、それに対応できない台湾政府当局への反抗を誘導すると同時に、台湾政府内の親中派を投資などのチャイナマネーで取り込んで、政府内の独立派と台湾の現在の統治体制を弱体化させようとの企てが考えられます。

これはロシアがとても得意とし、クリミア半島併合の際に用いたハイブリッド戦争の典型例と言え、中国独特の情報戦略と諜報戦略と相まって、中国がもつ情報操作能力を格段に上げています。

あまり報じられませんが、一帯一路政策の影にもしっかりと組み込まれている戦略です。

このような攪乱戦争を実施している間に、まだ実行能力が出来上がっていないと指摘した軍事能力も向上・ブラッシュアップし続けて、全面的な台湾進攻を準備するものと考えられます。

そうすると、1つ目の戦略同様、時期こそずれるかと思われますが、偶発的な米中間の出来事(衝突)が、中国にとっては意図しない戦争へと一気にエスカレートするかもしれません。もしその時、まだ中国側が台湾への軍事侵攻と統一を可能にするレベルまでキャパシティーが伴っていない場合、この偶発的な戦争で仮に中国が敗れたら、それはすぐに、習近平体制と中国共産党支配の終わりを意味することになるでしょう。

そのリスクを、どこまで習近平体制が取る覚悟があるかによって、台湾をめぐる緊張の行方が変わってくるでしょう。もちろん、ほかの因数は、アメリカの台湾防衛に対する本気度ですが。

ただ、この問題を考える際、大きな懸念材料は、【米中間の軍事的なパイプ・チャンネルが、トランプ政権以降、失われていること】です。

オースティン国防長官との協議もできておらず、かつこれまで存在した米軍と中国の人民解放軍の幹部間の定期的な協議も、もう長く行われていません。

それはつまり、偶発的な衝突が起きてしまい、戦争やむなしとなった際に、水面下で交渉して、何とか戦争を回避するという機会がないことを意味します。

インド太平洋地域における物理的な軍備は、Davidson前司令官が証言したように、海軍力ではすでにアメリカを凌駕し、空軍ほかの戦力も近々アメリカの規模を超えると思われますが、問題は、それらの肥大化し、最先端と思われる軍備のキャパシティーを存分に引き出し、自軍の被害を最小限に抑えるという、運用能力や作戦実行能力という総合的な力がまだ、アメリカに比べると整っていないことでしょうか。

ゆえに、もしアメリカが総力を結集して、対中戦争を戦うことにしたとしたら、しばらくの間、勝ち目はないと思われます。

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そのような状況を打開するであろう人事が今回発表されました。それは、前外務次官(儀典担当)で元外務省報道官の泰剛氏(チン・ガン氏)を、習近平国家主席の切り札として、駐米大使に任命し、ワシントンDCに送り込むという人事です。

これまで8年間にわたる役目を負ってきた崔天凱大使(実は私の大学院の大先輩で、元駐日大使)の後を受けての登板となりますが、秦大使はこれまで米国赴任経験はなく、主に欧州の専門家と見られ、また外務省報道官時代には、日米に対して歯に衣着せぬ発言で、現在の中国の戦狼外交の生みの親と言われて、対米超ハードライナーのイメージです。

このような人材をワシントンDCに送り込むのは、アメリカへのさらなる挑戦的な態度と表面的には受け取られかねませんが、実際の秦大使は、二国間外交および多国間外交のスペシャリストで、外交における利害調整の達人という評判で、外国語の能力にも秀でて、ずば抜けたコミュニケーション能力を有する方だと聞いています。

ゆえに、習近平国家主席の信頼も厚いこともあり、実際には、外交の表舞台ではなかなか融和の機会が見当たらない米中関係において、習近平国家主席の意をくむDirectなパイプの存在として、米中間の表舞台と裏舞台における外交チャンネルとして橋渡しを行うことが期待されているのではないかと思われます。

王毅外相、および実質的な外交のトップとされる楊国務委員(じつはこの2人の関係はさほど良くないとのうわさだが)からの評価も非常に高いため、非常に中身の濃い外交ができるだろうと期待されています。

中国政府としては、表面的には国内対策もあり、対米強硬派・姿勢を強めておく必要がありますが、対立のエスカレーションは、中国の力の根源になっている経済力と発展に対して大きなマイナス要因になりうるとの懸念から、秦大使を水面下での折衝のチャンネルとして、米国政府との緊張緩和に尽力する特命を受けているのではないかと推測します。

中国政府の台湾に賭ける本気度は疑う余地がないところですが、今後、米中戦争の狭間で台湾が本当に戦地になるか否かは、実際にはアメリカ政府がどこまで本気に台湾を守る気があるかにかかっていると言えるかもしれません。

もし、実を伴わない口先だけの対中強硬論であれば、その材料として使われた台湾が、中国による武力行使で堕ち、ついに統一されるような可能性も高まってしまうでしょう。

その場合、私たちが暮らすこの北東アジアをめぐる情勢は、想像がつかないほど大きく、かつ劇的に変化することになりますし、アメリカは本格的にインド太平洋地域における威信を失うことになるでしょう。

さあ実際にはどうなるでしょうか。非常に高い関心を持って、今後もいろいろな角度から見てみたいと思います。

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image by: 360b / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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