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ホテルに連れ込まれる女子高生を救助。探偵が遭遇した性的いじめの一部始終

これまで数々のいじめ問題を解決に導き多くの子供たちを救ってきた、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さん。そんな阿部さんの下には、全国から助けを求める声が引きも切らないと言います。今回阿部さんは自身のメルマガ『伝説の探偵』で、1本の電話から始まったとあるいじめ事件の一部始終を紹介。張り込み現場で展開されたのは、壮絶と言っても過言ではない光景でした。

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久しぶりに連絡があった元いじめ被害者のケース

「たすけて」

一昨年、高校2年生になる女子生徒からの電話の第一声は、聞き取れないくらい声で「たすけて」の一言であった。

その後の言葉はなく、沈黙状態であった。

いろいろと質問をしようと思うが、非通知ということもあり、電話を切られてしまったらその先が続かないため、スピーカーを大きくして、耳で何か周囲の音を聞き取れないか探った。

電車の音、車の音、コンビニなどのお店特有の音、音は何かの手掛かりになる。場所さえ特定できれば、スタッフに行ってもらうこともできる。

しばらくしてから、「おじさんはテレビに出ていた人ですか?」というのが次の言葉だった。「そうだと思う」と答えると、「最後の方で、何か必死に、いいから相談してこいって言ってましたよね」と言われた。

確かに番組の中には、意見の平等性を意識し過ぎて、「いじめはいけない」というメッセージを結果的に薄めてしまうコメンテーターを私にぶつけてくるものがある。それはそれでいいのだが、ゲストで一見の私と、番組慣れしたコメンテーターとでは発言量や発言していいタイミングなどで大きな差があり、アナウンサーなどが、話を均等には振ってこない場面に遭遇すれば、私は反論の機会を失ってしまう。

多くのコメンテーターのやり口は問題のすり替えだ。いじめ問題の場合は「教員の忙しさ」「学校こそがブラック労働だ」というすり替えを巧みにやってくる。

いつの間にか、いじめの問題点ではなくて、学校の教員労働の問題にすり替えられてしまうのである。こういう番組を見て、どれだけの被害者が落胆するか、その落胆が「もう生きててても…」という諦めに繋がるかもしれないということに、誰も目がいかない。

番組は、両者の意見がぶつかってよかったねとなり、当のコメンテーターは、論破したと意気揚々となるだけなのだ。

そうではない番組多くあるし、強い信念を持っている人がいることは確かだが、あの時は確かにそうだった。

私は残り何秒というカンペが出て、焦って吠えたのだ。

「いじめは絶対にダメだ、教師なんて関係ない、困ったら俺のところにこい、来たらいい」

そんな言葉で一旦CMというやつだった。

たいてい、いつもはそのあと、番組の人が来て、色々とお話しするのだが、あの時は、「何やってんだ、こいつ」という目で追い出されるように、スタジオを出た。

私は「ああいう感じで番組しめられても、嫌だからね。そんな簡単な問題じゃないって知っているからね」と答えた。

そこから、彼女(以下「A子さん」という)は安心したのか、話し始めた。

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いじめの内容

A子さんは、中学から大学までがある学校に、受験をして高校から入学した。すでに人間関係ができている中であったが、高校1年生は平和に過ごしていた。ただ、別のクラスにいじめがあって、退学した子や不登校状態になっている子がいることは知っていたが、他人事であった。

しかし、高校2年生に上がり、クラス替えがあってその加害グループと同じクラスになって状況は一変した。

加害グループに目をつけられたA子さんは、その中心人物の誕生会だと呼び出されたが、誰もいないところに呼び出され「ボッチA子」というLINEグループを作られたりした。

リアルには無視があり、1年生の時の友達や部活の友達と話したり、お弁当を食べていると、その友達が加害グループに呼び出されて、孤立させるようにしかけられたりした。

追い打ちはさらにあり、A子さんの家庭事情にも及んだ。

A子さんは兄とは10歳違いで、保護者は他の保護者より年齢が高い。ただし、A子さんの母親は若作りで年齢が若く見られることがあり、それを加害グループが、あたかもA子さんに相談されたように装って、「略奪婚で生まれた子」というように噂を立てたのだ。

これについては、保護者から学校に相談があり、学校側は対処するとしたが、結局、有耶無耶になって終わってしまったそうだ。

その次は、なりすましの被害だった。

SNSでA子さんのなりすましがあり、人の悪口を書き込んでいたり、明らかに嘘という投稿が次々とされていた。A子さんがそれに気が付いた時には、完全に学校では浮いた存在なっていたそうだ。

しかも、そこには、缶酎ハイを飲んだ後の写真も投稿されており、それが原因で担任から指導が入ったということもあった。

結局、なりすましだということは信じてもらえなかったが、教師からは「なりすましとも、なりすましではないとも言えないから、とにかく気を付けるように」というあいまいな言葉をかけられ、A子さんは学校を完全に信用できなくなってしまった。

そこで、A子さんは加害グループと話をつけようと考えたのだが、加害グループが出した条件は、なりすましのアカウントでやり取りしている男に会うことであった。

そのやり取りをチラ見した限り、性的関係を求められることは明らかであった。

そんな時に、母親と何となく見ていた番組を思い出し、あの必死な人と話してみたいと思ったというのが電話の真相であった。

電話は結局3時間ほどかかった。

対面

翌日、私はA子さん保護者に同席してもらい、さらに詳しい状況を確認した。

そこで、わかったことは、「学校は全く関知してこない」ということであった。保護者が学校と話した際の録音を聴くと

副校長 「正直、問題は収めてもらいです。私どもは私立ですから」

簡単に解釈すれば、いじめ被害者1人が退学するのと、加害グループに処分を出すのでは、加害グループの方が数が多くて損害が大きいという意味だろう。

私は何度かこの地域の私学部に当たっているが、どこか上の空というのが特徴であり、私学の自由を理由に動かないことはわかっている。

ちなみに、私立校は教育委員会管轄ではなく、私学部や私学振興課という部署が担当になるが、ここでまともな部や課に当たったことは、私はまだない。たいていは、「いじめ問題を持ってこられても困るという対応」なのだ。

ただ、今ある証拠類から再度交渉をかけることは正攻法でもあるため、私は一度持ち帰って問題についての意見書を作ることにした。

また、本人からSNS運営サイドに「なりすまし」の報告をしてもらい、保護者には警察への相談をしてもらうようにして一旦解散となった。

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急転する問題

翌日の夕方、A子さんから連絡が入った。

「加害グループから呼び出されたから、とりあえず会ってくる」というものだった。

録音機は持たせているので、必ず録音を取って、自白の証拠に使うと息巻いていたが、スタッフが確認したところによると、なりすましのSNSアカウントは消えたが、すぐに類似のアカウントが鍵付きでできているとのことであった。

そこで、私は、その日調査を終えて、たまたま調査機材の充電をするために戻ってきていたスタッフ1名を連れて、A子さんが待ち合わせをしたという場所へ向かった。

現地のファーストフード店に行くと、A子さんはすでに5人の加害グループに囲まれており、肩に腕を巻き付けられて、何やらひそひそと耳打ちされていた。時間を追うごとに、A子さんの顔色が悪くなっていくのが分かった。

ただ、事前に決めていたA子さんからの「GOサイン」が出ない。私に気が付いているはずなのだが、A子さんは目を伏せたまま、店を出てしまった。

店を出たところを追うと、A子さんのあとから加害グループも出てくるのが確認できた。私はスタッフに加害グループの監視を任せ、A子さんの近くを離れないようについていった。

A子さんに近づいてきた男性は2人組であった。

その男たちはA子さんを知っているようで(偽カウントには顔も出ていた)なれなれしく声をかけていた。二言三言という感じで、駅からしばらく歩いたところのラブホテル街に進んでいき、派手な看板のラブホテルに男の1人とA子さんは入っていった。道すがら聞こえてきた話では、ホテルはカップルでしか入れないから、先に入る方がどっちかを男らは話していた。

そのホテルの入り口で、A子さんはやっと私に合図を出してくれた。

私はすぐに後追い、A子さんに「未成年でしょ?」「ちょっと話を聴かせてくれる?」と声をかけたのだ。

男は目を白黒させて、周囲を見てから、私しかいないことを確認したところで、一目散に走って逃げて行った。

その様子は、加害グループに張り付いていたスタッフも確認していた。

ホテルから走り出てきた男は、まさに追われている犯人そのものであり、その様子を「援交現場─」とスマホのカメラを向けている加害グループにも、同様に伝わっていた。

異変があったことがわかった加害グループも「やばい」と言って、逃げ出したのだ。

走り出た男も外で待つもう一人の男に、「警〇、たぶん、やばい」と言って一緒に走って逃げて行ったものだから、加害グループはさらに混乱したようだ。散り散りに逃げたが、スタッフが中心人物らしき子を追うと、しばらくして他の加害者が合流してきたそうだ。

それとほぼ同時期に、この時やり取りしていたA子さんと加害グループのLINEグループは、加害グループが全員が「退出」し、「メンバーがいません」と表記されるようになった。

スタッフがそこで耳にした話によると、私が付けていた無線機用のイヤホンマイクが、どうやら勘違いした理由であったようで、私は加害グループのカメラにしっかり記録されているということであった。

愛用しているイヤホンマイク

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急展開からその後

翌日はA子さんには学校を休んでもらい、その間に特急で調書を仕上げて、私は学校に向かった。学校は生徒らが帰ってから来てくださいということであったので、下校時に敢えて目立つように校門の前に立ってみた。すぐに教職員が来たが、自己紹介をして、早めに着いてしまったからと話してその場で30分ほど立ち話をした。

学校は午後4時には生徒の追い出しをするそうで、その中には加害グループの生徒ももちろんいたが、わかりやすいほど動揺し、顔を隠して逃げるように通り過ぎて行った。

学校はその後の私の説明と、当日取られた録音のテープ起こしを見て、私に「どうか穏便に」と土下座をする勢いで懇願してきた。

そこで、加害グループには相応の処分を求め、その日の話し合いは終了した。

学校からはその後、A子さんの保護者に対して、加害グループの反省文で手を打ってほしいとか、異例のクラス替えをするので、そこで手を打ってもらえないかなどを話してきたそうだが、結果としては、加害グループの中心人物2人が学校に来なくなってしまい、話し合いが長引く中、進級する際に自主退学をしたことで話し合いは事実上立ち消えるようになってしまった。

また、A子さんからは、確かにそれ以降いじめはなくなり、それなりに過ごせているから平気だよという話もあった。

「クラスの人とは距離を持つようになったし、元通りにはならないし、もう深く立ち入ることもないけど、それなりに笑ったり、音楽シェアしたりもするから。嫌がらせもないし、あの人たち(残った加害グループ)は、逃げるし。バカなんじゃないしか思わないよ」

「それより今は、ちゃんと大学入って、自分の将来を考えないと」

A子さんが、2021年になって、大学に推薦で合格したということは私にとってすごくうれしい報告だった。いつか真実を暴くジャーナリストになって、私を取材してくれるそうだ。

今では、「あのホテルに助けに行ったとき、男の顔が間抜け過ぎたね」という話が笑い話になっている。未だに深く人とは関わりたくない衝動があるとのことだが、少なからず、私にはいろいろな話をしてくれるようになった。彼女はもう乗り切ったのかもしれない。

なにせ、あの男の間抜け顔の真似をするくらいなのだから。

編集後記

今日8月9日更新の『いじめ探偵』(やわらかスピリッツ)の題材の一部となった子の話を今回は書きました。

『いじめ探偵』は、いくつかの事案を構成しています。そのため、今日のものが、ちょっと違うじゃんと思う方もいるとは思いますが、それはそれということでご容赦ください。

何より、学生にとっての夏休みは、1年の中で最も気が緩みやすくなる期間で、このコロナ禍で遊ぶ場も特になく、ネットでウロウロする子は、そうした子を狙う人らのターゲットになりやすい傾向が強くあります。

被害なしは本当に運がよいだけであり、被害を受ければ一生ものです。

保護者に当たる人には特に注意してもらいたいし、学生には「絶対大丈夫!」ということはないと考えてほしいです。また、何か困っている子を見掛けた人には、声をかけてあげて欲しいと思います。

相談を受ける方法や解決する方法を私に質問する人が多くいますが、コツもテクニックも基本はあるけど、付け焼刃が通じるほど甘くありません。

ちょっと習ったテクニックを使うよりも、とにかく徹底的に向き合う強い気持ちの方が、絶対に役立ちます。

道で見かけた困っている人に、「俺は貴方を助けたいのだ!」という真っ直ぐな気持ちで対応すればよいです。「お節介」と言われても、「お節介、上等だよ」でいいのです。

いじめも含めて、その他の問題もしっかり向き合う、行動で示す。私はこれでよいと思います。

一番大事なのは、やっぱり気持ちなんだと思います。

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image by: dekitateyo / Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
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