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消費時代は終わった。日本が江戸のライフスタイルで世界を牽引する日

大量消費を前提とし走り続けてきた人類ですが、もはやそれも限界を迎えてしまったと言っても過言ではない21世紀。私たちはこの先、どの方向に舵を切り進んでゆくべきなのでしょうか。そのヒントを「江戸」に求めるのは、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんはメルマガ『j-fashion journal』で今回、江戸時代のビジネスや文化を取り巻く環境、ライフスタイルがいかに優れていたかを改めて紹介するとともに、それらを今後の日本がどう生かしてゆくべきかについて、自身のアイディアを記しています。

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家内制手工業×デジタル革命

1.家内制手工業、問屋制手工業、工場制手工業

職人が自宅で手仕事をする。家族も仕事を手伝っているかもしれない。これが家内制手工業のイメージだ。

ある程度、余裕が出てくると、道具や材料を支給して、他の職人に仕事を委託し、その商品を仕入れてまとめて販売するようになる。ある意味の問屋機能を持つようになる業態なので、問屋制手工業と呼ばれる。

複数の職人に仕事を委託すると、どうしても品質や納期にバラツキが出る。そこで、工場に、職人を集めて働いてもらうようにする。これが工場制手工業である。

現在も、伝統工芸のほとんどは、いずれかの手工業によって作られている。

家内制手工業が残存する条件は、「地域性が高いこと」「機械化が困難なこと」「価格弾力性が低いこと」と言われている。これらは全て大量生産ができないことを意味している。

「価格弾力性が高い」とは、価格が安くなればその分大量に売れることである。価格が安くなっても売れる数量があまり変わらないものは「価格弾力性が低い」ということになる。価格弾力性が高ければ、設備投資して機械化し、大量生産によるコストダウンを図るが、価格弾力性が低ければ、大量生産する意味もない。

「地域性が高い」ということは、他の地域では生産が困難であるという意味だが、逆に言うと他の地域では真似ができないということでもある。

「機械化が困難」であれば、大量生産が難しいので、価格競争に陥ることもない。

これらの条件は、販売価格を維持し、生産数量は伸びないが、競合も起きないので、細く長い商売ができることを意味している。サスティナブルなのだ。

2.工場制機械工業、産業革命、グローバリゼーション

工場制手工業の工場に、機械設備が導入され、工場制機械工業になった。更に、蒸気機関で稼動する大型機械が導入され、産業革命が起きた。

それまでは各地域に分散していた工場は、一カ所に集中し、人口の集中と都市化が進んだ。貨幣経済の比率が高まり、貧富の差が拡大した。

産業革命は大量生産を可能にした。いかに安く、いかに大量に生産するかが命題だった。大量生産した商品を販売するには、大量販売が必要である。

やがてチェーンストア理論が提唱され、規格化店舗の多店舗展開が行われた。

この延長がグローバリズムである。グローバリズムにはデジタル技術が大きく貢献した。世界中インターネットでつながり、世界各地の情報を入手することが可能になった。世界中のどこからでも原材料や部品を調達し、世界中から最適な工場を探し、それを世界中で販売することが可能になったのだ。

やがて、グローバリズムは限界を迎えた。技術の進歩は世界中の需要を超える供給能力を生み出し、世界中の資源を消費する規模に達したのだ。そして、大量廃棄と環境汚染、資源の枯渇が始まっていたのである。

世界中がそんな現実と向き合ったのは、パンデミックのお蔭だった。惰性で動いていたグローバリズムが、一度完全に停止し、世界中が将来を考え始めたのである。

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3.デジタル革命は「脳と感覚器の革命」

世界を人体だとすると、産業革命は「筋肉と骨格の革命」だった。巨大なパワーを生み出し、工場や交通機関を動かした。巨大な筋肉を支えたのは、膨大なエネルギーを供給する化石燃料だった。

デジタル革命は、「脳と感覚器の革命」である。コンピュータは外部の脳であり、カメラやセンサーは感覚器である。そして、両者をつなぐ神経がインターネットだ。

世界という人体は巨大化しすぎた。最早、筋肉や脂肪により、内臓は押しつぶされそうだ。また、巨大な人体を保つためのエネルギーも足りない。大量のエネルギーを摂取し、大量の排泄物を放出するので、環境汚染も深刻になっている。

世界は代謝を下げて、ダイエットしなければならない。そして、肉体の活動を減らし、知的活動を増やすことだ。物質経済から情報経済へと転換し、我々人類の活動も頭脳的、精神的、感覚的な分野にシフトすることが求められているのである。

4.デジタルな江戸文化を再現できるか?

もし、家内制手工業の時代に、産業革命より前にデジタル革命が起きたら世界はどのように変わっていたのだろうか。もっと具体的に言うと、江戸時代にいきなりデジタル革命が起きたらどうなっていたのか。

江戸時代は幕藩体制であり、各藩は現金収入を得ようと特産品の開発を競い合っていた。しかし、化石燃料も使わず、エネルギーは完全に国内の薪炭、植物油等で賄っていた。そして、ほぼ全ての商品は家内制手工業で生産され、高度な問屋流通によって、全国に流通していた。

実は、大量生産の商品がないというだけで、実は高度なビジネスが行われていたのだ。

例えば、当時の吉原は、単なる色街ではなく、江戸で最高の格式を持つ芸者が在籍していた。そして夜毎、江戸中の大店の主人、大名、僧侶、役者、絵師、作家等が集まる文化人サロンの機能を備えていた。

そんな交流の中で歌舞伎役者は錦絵となり、背景には当時の大店の店頭が紹介され、役者が着る衣装には最新の流行柄が描かれていた。つまり、様々なタイアップやマーケティング活動が行われていたのである。

また、江戸市中の一般人の中から美人を見つけ出し、それを美人画の錦絵として販売し、現在のアイドルのような大ブームを起こしていた。

世の中に事件が起きれば、それをアレンジして歌舞伎の演目として上演する。その度に、長唄や清元、常磐津の名人達が新曲を書き下ろし、役者は振りをつけて踊り、新しいデザインの舞台衣装を誂えていたのだ。

こうした活動は、現代のエンタメと比較しても勝るとも劣らないだろう。これがもし、インターネットで世界に配信されていたら、パリでは数十年早くジャポニズムブームが起き、ヨーロッパに大きな影響を与えたと思う。

また、当時の高度な工芸品もまた、世界的注目を集めたに違いない。

日本にとっての産業革命は、富国強兵に多大な貢献をした。しかし、経済的成長の裏側では、日本は独自の文化を捨て、西欧文化の植民地となったのである。

グローバリズムが行き詰まった現在、我々はデジタルな江戸文化、江戸ライフスタイルを再現すべきなのかもしれない。完全なリサイクル社会とエネルギーの国産化によるサスティナブルな社会とライフスタイル。それを世界に発信することこそ、脳の時代の新たな産業になるのではないか。

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編集後記「締めの都々逸」

「見栄えばかりを 競ってみても 中身がなければ 捨てるだけ」

いかに安く大量に。この考え方を追求しても幸せにはなりません。

むしろ、いかに高く売れるものを工夫するのか。生産は少ない方が付加価値が高まるし、市場が飽和することもないので、サスティナブルです。

産業革命は、最初から欠陥がありました。供給ばかりを考え、重要を考えなかったし、度を越した大量生産の弊害も考えなかった。

どうも、西欧人は「身の丈にあった」という概念がないようです。そして自然を単なる資源だと思っている。とことん自分の利益を追求し、とことん自然を開発し尽くす。

日本人は、狭い国土で多くの人が生きていくための現状維持の再生産を常に考えてきたように思います。

江戸時代で人口が増えたのは、新田開発により食料生産が増えたためで、それ以前は人口も横ばいでした。

畑を耕し、そこで育てた野菜を食べる。その場合も、常に土を肥やすことを考える。だから、持続可能なんですね。極端に言えば、物理的な成長を目指してはいけない。目指すべきは文化の成長、技術の成長、精神の成長です。我々は自然の中で生きているんですから。(坂口昌章)

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image by: Matt Yamaguchi / Shutterstock.com

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