文春オンラインの記事により発覚した、旭川女子中学生いじめ凍死事件。その後の報道で学校や教育委員会の「異常性」が次々と明らかになっていますが、市長の一声で設置された第三者委員会にも相当の問題があるようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では、現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、そのあまりに酷い実態を誌面で暴露。さらに市教委に対しては「恥の上塗りを重ねている」と強く批判した上で、機能しているとは思えぬ第三者委の早急な解散を求めています。
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なぜ旭川いじめ凍死事件の第三者委員会は苦言を呈されるのか?
旭川凍死事件の概要
今年の3月に旭川市の公園で、凍死しているのが見つかった中学2年生の廣瀬爽彩さんは、それ以前から性的ないじめを受けていたと報じられている。
詳しくは、文春オンラインの特集を読んだ方が良いだろう。
さて、この事件、異例中の異例として、前述の文春特集班が突如取り上げ、実名報道で、その凄惨ないじめの様子を連日報じたわけだが、加害側が全く反省していないことや学校側がいじめを隠ぺいしたことなど多くの問題が噴出している。
記事などを読んだ多くの人が問題意識を持ったことであろう。およそ、管轄の旭川市には相当な非難の電話が鳴ったことに違いない。
結果、旭川市の西川市長は第三者委員会を設置することを明言し、第三者委員会が現在調査中となったとのことだが、ここでも問題が噴出することになったわけだ。
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旭川市凍死いじめ事件の第三者委員会における問題点
そもそも第三者委員会の設置経緯を考えれば、一般週刊誌による報道が発端だ。これは、異例中の異例と言える。学校も旭川市教委も「いじめはなかった」「重大事態でもない」と判断していたわけだ。だからこそ、市長が思いつきに近い状況で「第三者委員会だ!」と言ってから「重大事態いじめ」を認定したのである。
重大事態いじめとは、「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」事態のことである。
これには明確な基準があり、ご遺族は報道前でもしっかりと学校や教委に情報を伝えていたはずだから、こうした情報と学校からの情報を勘案した上で、調査をしない決定をしていたはずなのだ。
つまり、市長がやると言った瞬間でやる方向に決まること自体、この市教育委員会には明確な基準も何もないということが明白なわけだ。
さらに現地報道によれば、当初は旭川市が第三者委員会を設置したと報じられている。
これは現地報道にいじめ問題に詳しい人がいないことを露呈しているのだ。
いじめ防止対策推進法をしっかり読めばわかることだが、第三者委員会を設置する権限があるのは、「学校」「学校の設置者」「首長」のいずれかである。学校の設置者とは、公立校の場合は教育委員会を指し、私立校の場合は学校法人を指すと考えればまず間違いはない。
旭川市の中学校となると、小中学校は市の管轄であるから、旭川市教育委員会となる。
今回の報道では、市長が「第三者委員会を設置するぞ」と言ったわけだが、市長つまり首長が第三者委員会をいきなり設置することはなく、基本は、市教育委員会が設置する運びとなる。
だからこそ、市長は総合教育会議を開き、教育委員会などの委員を招集し、第三者委員会を設置を決めたことになるのだが、結局そのあとは、教育長が出てきて記者のぶら下がりに答えたわけだ。
ただ、この当時は相変わらず、地元報道は「旭川市が設置」と見出しを出しアナウンスしていた。そこで、この経緯について、旭川市教育委員会に電話をして確認した。
「阿部さんの仰る通り、設置は市教育委員会です」
─── ということは、正確性のためにも、旭川市ではなく旭川市教育委員会と言ってもらうべきではないですか?教育委員会は、独立した行政機関なわけですから、旭川市役所にもあっても、正確には、旭川市とは異なるわけですよね?
「仰る通りです。確かに報道には明確に分けてもらう必要があると思います。まあ同じ役場にあるので、その辺は…」
この後、報道では「市の教育委員会が設置した」といちいち言うようになったのだが、本当に大丈夫なのだろうかという印象が強く残る。
第三者委員会設置の当初、ご遺族は委員として不適格な人がいるとした問題が勃発したが、これは、旭川市はかなり雑ないじめ条例を設置していて、第三者委員会を設置する場合は、この条例に基づく対応をするのだ。
旭川市いじめ防止等連絡協議会等条例
(設置)第10条 法第14条第3項の規定に基づき、旭川市いじめ防止等対策委員会(以下この章において「対策委員会」という)を置く。
この第10条が根拠法となって第三者委員会を設置したわけだが、ここでいう「法第14条第3項」とはいじめ防止対策推進法のことであり、
(いじめ問題対策連絡協議会)
第14条 地方公共団体は、いじめの防止等に関係する機関及び団体の連携を図るため、条例の定めるところにより、学校、教育委員会、児童相談所、法務局又は地方法務局、都道府県警察その他の関係者により構成されるいじめ問題対策連絡協議会を置くことができる。
2 都道府県は、前項のいじめ問題対策連絡協議会を置いた場合には、当該いじめ問題対策連絡協議会におけるいじめの防止等に関係する機関及び団体の連携が当該都道府県の区域内の市町村が設置する学校におけるいじめの防止等に活用されるよう、当該いじめ問題対策連絡協議会と当該市町村の教育委員会との連携を図るために必要な措置を講ずるものとする。
3 前二項の規定を踏まえ、教育委員会といじめ問題対策連絡協議会との円滑な連携の下に、地方いじめ防止基本方針に基づく地域におけるいじめの防止等のための対策を実効的に行うようにするため必要があるときは、教育委員会に附属機関として必要な組織を置くことができるものとする。
簡単に言えば、今回の第三者委員会とは、旭川市教育委員会の付属機関として設置された調査委員会のことであり、「第三者」とは「教育委員会の教育委員ではなく、本業が職員でもない人たち」の意で考えるとわかりやすいわけだ。
便宜上、「第三者委員会」と呼び続けるが、世間一般からして、それって第三者委員会なの?と思うところはあるだろう。そもそも、ご遺族と市教委の主張は対立していたわけだ。
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さらに、旭川市教育委員会はとんでもない問題を露呈している
旭川弁護士会のホームページには、「会長表明・意見書等」との表記で、第三者委員会の委員になる弁護士に対する報酬があまりに安価で、その一方でその業務は多岐に及んで他業務を行うことができず、事務所の維持に問題が生じ得るという内容が書かれている。
簡単にいえば、法の番人であり唯一の専門家であろう弁護士は社会的な意義から、このような委員会に召集されればその役割を果たさなければならない立場であるが、ここまで重要な問題に対して、ほぼボランティアに近い状態でやるのはさすがに厳しい。
ということだ。
旭川弁護士会は、日弁連の報酬基準と旭川市が基準とする報酬の差額を会が負担して、委員となる弁護士に支給するという。
正直なところ、市長がやると言ったんだから、「予算くらい用意しておけ!」というところだろう。
8月中の報道では、廣瀬爽彩さんが性的な被害を受けている事実を知りながらも、教頭は「加害者10人の将来と被害者1人の将来、どっちが大切か?」などと母親に言ったということが報じられているが、教育と言えないバカなスキャンダルを垂れ流す恥の上塗りをし続けた上、さらには、本来最後の砦となるべき、第三者委員会においてもケチのレッテルが付く。恥の上塗りを続けているわけだ。
まともに動かない典型的パターン
第三者委員会を設置してもまともに動かないパターンはいくつかあるが、その多くは下記のような特徴がある。
- 委員会形成に問題が生じている
- 情報が少ない
- 何やっているかわからない
- 誰が委員か公表すらされてない
- 設置要項が不明
さらに、重要な共通項がある。
- いじめ防止対策推進法第14条第3項に基づく教育委員会の付属委員会であり、問題となっている教育委員会が事務局を担う第三者委員会
旭川市いじめ凍死事件の第三者委員会は、上記のすべての条件を満たしている。
例えば、ご遺族側に情報が全く入っていないとして、当の西川市長が市教育委員会に「調査の進捗情報を伝えて」と申し入れをしているのだ。
その前には、ご遺族側についている気鋭の弁護士である石田弁護士が記者会見を開いている。
石田弁護士はいじめ防止対策推進法のきっかけとなった大津いじめ事件で代理人弁護士を務めた「いじめ界隈」では知識も実績もずば抜けているとされる弁護士である。
こうした弁護士が、ご遺族の手記を公開し、ここで「あまりに情報が少ない」としたことは、他と比較してもこの第三者委員会はその機能が果たされていないと思えるということだろう。私も色々な弁護士さんと問題に当たることがあるが、調査中の段階で申し入れをすることはあっても記者会見を開いてという場合は、相当怒っていると考えていいだろう。
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ちゃんと出来ないなら解散させるべき
私は数多くのいじめ第三者委員会を見てきた。時には記者レクに入り込んで、次やったら訴えるぞと怒られたこともあるし、加害者や学校と利害関係がズブズブの委員を徹底的に指摘して委員を辞めさせたこともある。
また、被害側の要請に従って適格性の高い委員候補を紹介したり、職能団体から推薦状を発行してもらったこともある。
そうした経験の中で、解散をまずは求めた第三者委員会は3つある。実際に1つは一旦解散し、その直後に話し合いをして再構成してもらった。ここは委員自体が紳士的であったが、市教委と教育長が横暴な態度であった。
もう1つは、解散こそしなかったが、別の第三者委員会が組織され直した。
あと1つは、未だに「第三者委員会は市がやってやっているのだから、時間が長引きけば不利になるのは遺族なんだ」と無視をしているが、こうした横柄な態度に出るのは、地方のまるで封建主義がそのまま残っているような田舎ばかりだ。公務員が特権階級を気取り、上下関係がない独立した組織である教育委員会が、独自の社会を形成し王国のようになっている。自分たちが常に正しく、間違っていても直そうともしない。むしろ誤りを指摘した者が悪者であるとするから、結局何の改善もなされない組織が出来上がってしまうわけだ。
そもそも、旭川いじめ凍死事件の問題は、市教育委員会の対応にも調査の範囲が向くのは当然だろう。この調査範囲も公表されていないが、少なからず学校長の発言や教頭の発言、深刻ないじめの対応よりデートを優先して被害者に勝ち誇ったようにしていたという教員については調査の対象となるはずだ。
その上で考えれば、その監督組織は教育委員会であるわけだから、当然に監督責任が伴うわけだ。そうした組織が設置者となっていいのだろうか。これは法の体系であるから、ここ自体は法改正をしなければ、今後もこうしたジレンマ的問題は伴うが、結局、正しく利害関係が全くない状態で進むことがそもそもの大前提とされる第三者委員会の原型とは異なるのが教育におけるいじめ第三者委員会なのである。
だからこそ、まともに機能するいじめ第三者委員会はごく少数となるわけだ。
現状で旭川の第三者委員会は問題が噴出しているところだろう。もしも、ご遺族らの求めに応じないのであれば、私は、「解散要求」一択であろうと思う。
西川市長は国政に出るようだが、「言い出しっぺ」として、ここはひとつ、市長直属でしっかり予算を持ち、独立した真の第三者委員会を形成してはどうだろうか。
今どきの国民は、御上の言うことがすべて正しいと思うほど馬鹿ではない。言葉よりも行動、経緯よりも結果と実績を重んじる。政治家とはそこに嘘があってはならないと思うのだ。やるならば最後までやってもらいたいものである。
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編集後記
過去、私は『伝説の探偵』でいじめ法改正頓挫についての内幕を書きました。それで、色々な人や権力組織、団体に嫌われ、学校系講演会がほぼキャンセルになりました。
まあ、全国校長会とかに、喧嘩を売ったと思われたわけですが、全く後悔していません。今後も間違っていると思えば、ハッキリと、言うのが私の流儀です。
旭川市の問題は、文春オンラインさんが一番情報を持っていると思うし、取材力と調査力は類似していて、そうした観点では、後発しても邪魔になるだけだと思って、この問題にはなるべく触れないようにしていました。
さらに、ご遺族の代理人弁護士はいじめ界隈では最も実績があるとされる石田弁護士ですから、ガンガン行くだろうと勝手に思っていました。
ところが、やはり一筋縄ではいかないようですし、相当旭川市自体の闇が深いと感じます。苦戦苦悩もあるでしょう。憶測や余計な諸問題も発生していると思いました。
ですので、今回は、「パラリンピック学校連携観戦問題」を取り上げようと思っていましたが、「旭川いじめ凍死事件」に言及しようと思いました(ちなみに、大型事案となるものがコロナ禍や各諸事情で、まだ出せず、9月以降となるというのもあります)。
文中にも書いたいじめ法第14条第3項は他の件でも問題になっていて、法改正するのであれば、ここはマストで変えなければならないと思います。
今後しばらくは不安定な政局となって法改正についての動きはなかなかでないところではあろうが、私があったているだけでもこの問題はかなり多いので、きっと同様の被害がある人も多いと思います。
これについては、個別に個々が当たってもそれぞれ一件で済まされやすいから、まとめて元気玉のように打ち込んだ方が効果的だと思います。
できれば、自分のケースも第14条の3だったという方、簡単にいえば、常任のいじめ調査委員会でパパっと処理されたという方は私にご一報いただきたいと思います。
国に元気玉を打ち込みましょう。
たぶん、私は磔にされるでしょうが、ここは誰かが出なければならぬところだと思います。
違うことは違うと、ハッキリ伝えたいと思います。
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