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【人質事件の裏】軍事技術協力も!安易すぎたイスラエルへの接近

「集団的自衛権国会」を痛撃する日本人人質事件

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.170より一部抜粋

安倍晋三首相のイスラエル訪問を狙い澄ましたかのように、イスラム国が20日、日本人の人質2人を盾に2億ドルの身代金を要求し、その後2人のうち1人をすでに殺害したと公表した事件は、安倍のいわゆる「積極的平和主義」とそのための「集団的自衛権解禁」による対米軍事協力の拡大がどれほどの危険を招き寄せることになるのかを端的に示した。中東から帰国後、今週からまさにその集団的自衛権解禁の法制化を最大焦点とする通常国会に臨もうとした安倍は、出鼻を挫かれてハンカチで鼻血を抑えながら演壇に登るような格好となってしまった。

このようなテロリストによる卑劣な脅迫に直面した場合、どんな政府も対応に苦しみ、人命尊重を優先して闇取引も含めた条件交渉に応じるのか、それともあくまで法治主義に立って毅然として撥ね付けるのか、政府内部からマスコミ・世論までが張り裂けて、1つ対処を誤れば内閣が危機に瀕することもある。38年前の日本赤軍派によるダッカ・ハイジャック事件では、時の福田赳夫内閣は、揺れに揺れた挙げ句、福田が「人命は地球より重い」との名セリフを吐いて身代金の支払いと服役中の赤軍派メンバーの釈放を決断し、それに最後まで反対した福田一法相が辞任する形で落着した。今回の事件がどういう結末を迎えるかは定かではないが、安倍政権にとって大きな勝負の山場となる今国会は波乱の中で不吉な幕開けを迎えることになった。

●余りに安易なイスラエルへの接近

安倍は、イスラエル訪問に先立つエジプト訪問の際の記者会見で「イスラム国対策」としてイラクやレバノンなどに2億ドルの支援を行うと発表した。それを捉えてテロリスト側は、「日本はイスラム国に対する十字軍に進んで参加した。我々の女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを支援した。……それから、イスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した」と言い、よってこの2人の釈放には2億ドルかかると声明した。

もちろんこれは言いがかりのようなもので、日本政府は慌ててその2億ドルが難民対策など人道的な援助にすぎないと説明したけれども、そんな弁解が通じる相手ではない。しかも重要なことは、彼らはこの2億ドルの支援表明だけを以て日本が十字軍に参加したと言っているのではないということである。

それこそ戦後70年、絶えることなく戦乱と殺戮を繰り返してきた中東で、日本はアラブ世界・イスラム圏では長く「同じアジアの一員」「米欧とは一線を画した友好国」という評価を得てきた。故アラファト=パレスチナ議長が「私が一番尊敬するのは、アジアで初めて白人を打ち破った(日露戦争の)東郷元帥」を口癖にしていたように(これは歴史の評価として私は余り賛成しないのだが)、尊敬の念さえ抱かれる存在であったのだが、それが変わり始めたのが2003年のイラク戦争に日本が自衛隊を派遣した時からで、さっそく03年から04年にかけて、奥克彦参事官らの爆殺、高藤菜穂子らの誘拐、香田誕生の殺害など、日本人をターゲットにした事件が相次いだ。その多くは、イスラム国の原初であるヨルダン人テロリスト=故ザルカウィが率いる「メソポタミアのアルカイーダ」の犯行だった。香田の場合は、ザルカウィは「自衛隊撤退」を要求し、小泉純一郎首相が拒絶したので、彼は星条旗の旗の上に正座させられて首を掻き切られた。

このザルカウィの組織がシリア内戦で反体制側に参加して、米国やサウジアラビアはじめアラブ富裕国の武器・資金援助を吸収して「イスラム国」を名乗るまでに増長した時に、何が起こりうるかは想像力の範囲に収めておかなければならなかったろう。しかし、安倍はそれを怠って極めて安易に、イスラム国絶滅のための有志連合に名を連ねたばかりでなく、こともあろうにイスラエルに急接近し、さらに軍事技術協力を深めることまでを選択した。

●F35戦闘機の共同開発という武器輸出

第1に、13年3月に日本は米ロッキード・マーティン社が中心となって開発中の次世代ステルス戦闘機F35の国際共同開発体制に参加することを表明した。この第5世代と呼ばれる次期戦闘機は、余りにも高性能で開発費が膨大になるため、米国のみならず欧州主要国、日本、豪州、イスラエルなどに開発計画の段階から参加を求める形で進められているものの、技術的難問も多く、完成は遅れに遅れているが、ともかくも日本は、それこそ国会での議論もないまま閣議決定だけで、従来の「武器輸出(原則禁止の)3原則」を廃棄して、これに参入した。それを衝き動かしたのは、経団連防衛生産委員会を牛耳っている三菱重工業で、実際に、日本がこの計画に参加することにより同機の部品の40%は三菱はじめ日本が供給することになった。

イスラエルは、この計画に投資面・技術面からは参加しておらず、出来たものを購入する「特別顧客」という資格で参画していて、当初購入確約19機、将来見込み90機を表明している。ということは、アラブ側から見ればどう映るだろうか。米国が主導した新型戦闘機の開発に日本がその部品の4割までもを製造して参加し、それを真っ先にイスラエルが買って、パレスチナやイスラム国を爆撃したりするのに使われる──米イスラエル連合プラス日本でイスラム世界への攻撃を強化しようとしている、と受け止められても仕方がない。それが彼らが「我々の女性と子どもを殺害し」と言っている意味である。

第2に、それ以外にも日本とイスラエルの軍事協力が目覚ましく進展している。昨年5月にはイスラエルのナタニエフ首相が来日し、「新たな包括的パートナーシップの構築に関する共同声明」という大仰な文書が発表され、出来たばかりの日本の国家安全保障局とイスラエルの国家安全保障会議、防衛当局同士の交流、企業や研究機関による共同の研究・開発が進められることが合意されたが、その下で特にサイバー兵器や無人攻撃機についての技術交流が重視されていると指摘されてきた。

こうして、安倍政権は日本の伝統的な「アラブ寄り」という中東政策の基調を捨てて「イスラエル寄り」に転換し、イスラエルがイスラム世界に対して国家的テロを遂行するための兵器技術開発に協力するところまで踏み込んだ。その姿勢がこの事件を招いたのである。

この状況で、さらに集団的自衛権を解禁し自衛隊の海外での武力行使を含む活動に道を拓くということは、例えばイスラム国に対する有志連合の末席に名を連ねているだけでは済まなくなって、米英仏の爆撃作戦の“後方支援”などに積極的に参加することを意味する。そうなれば日本はいよいよイスラム世界の“敵”と位置づけられて過激派による国内テロを含めありとあらゆる危険に直面することを覚悟しなければならない。安倍はこの国をとんでもない道筋に引きずり込もうとしている。

 

『高野孟のTHE JOURNAL』Vol.170より一部抜粋
著者/高野孟(ジャーナリスト)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。2002年に早稲田大学客員教授に就任。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。
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