一例をご紹介しましょう。2004年10月、当時の小泉純一郎首相は中越地震に見舞われた新潟県と兵庫県豊岡市の水害被災地を1日で視察し、被災者を激励したいと考えていました。しかし、当日は大雨でした。飯島勲首相秘書官が午前4時に防衛省の北原巌男官房長に電話すると、雨なのでヘリコプターは飛べませんと返事がありました。北原官房長は部下の官僚に聞いたのでしょう。
しかし、どうしても現地で被災者を激励したいと思っていた小泉首相は新幹線と自動車で移動すると言いました。それでは新潟と豊岡を回ることなどできませんから、飯島秘書官は航空自衛隊に相談しました。
即答が返ってきました。首相官邸屋上のヘリポートから陸上自衛隊のヘリで羽田空港に飛び、羽田空港に回しておく航空自衛隊のU-4多用途支援機で新潟空港に飛び、そこからは陸上自衛隊のヘリで被災地に入る、というものでした。U-4はビジネスジェットのガルフストリームIVです。U-4なら雨雲を突き抜けて上空に出て30分ほどで新潟空港です。雨は問題ありません。
このときは、そこまでに時間を食っていたので実施されませんでしたが、予定通り朝から動いていれば、新潟空港に戻ったあと、U-4で兵庫県の但馬空港に飛び、同じように陸上自衛隊のヘリで現地入りすれば、夕方には首相官邸に戻ることができたのです。
これは北原官房長だけの問題ではなく、日本政府の大部分の官僚の姿なのです。基礎知識に欠ける官僚や官僚が選んだ「専門家」を頼りにしている限り、自衛隊機派遣だけでなく、コロナの問題についても的確な「決心」をすることはできません。これでは困ります。「決心」が必要な問題は、すべてが国民の生命財産に関わる重要なテーマなのです。
菅義偉さんが首相を続けるのか、あるいは違う首相になるのかわかりませんが、私が知る限り、下馬評に挙がっている政治家は全員、官僚頼みの顔ぶれです。よほど考えを改めてもらわない限り、「決心」できない日本国は続きそうです。(小川和久)
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