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技術力偏重時代は終わった。国内の縫製工場よ、「メーカー」になれ

我が国の縫製工場といえば世界に誇る高い技術力で知られていますが、もはやそれだけでは生き残りを賭けた戦いに勝利することは難しいようです。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、衣料業界を取り巻く環境を紹介するとともに、日本の縫製工場が今後進むべき方向を考察。人件費の高い先進国で製造業を成立させる方法を独自の目線で探っています。

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多くの日本の縫製工場はアパレルメーカーとは言えない。工場からメーカーへの途(みち)

1.縫製工場はOEMメーカーか?

現在、多くの日本の縫製工場はアパレルメーカーとは言えない。アパレルメーカーとは、生地や付属を仕入れ、それをアパレル製品に加工して販売する業態である。縫製工場は生地を仕入れていないし、アパレル製品の企画(デザイン、パターンメーキング、サンプル作成)も行っていないし、営業や販売も行っていない。

それなら、OEMメーカー(相手先ブランド商品の生産を請け負う業態)なのか。中国等でOEMメーカーと呼ばれているのは、サンプルを自社で作り、それを展示会等でブランド企業に提案し、受注生産する業態である。この業態は日本ではODMと呼ばれており、OEMとは区別されている。

しかし、日本の布帛(ふはく)の縫製工場は加工賃を受けとる加工業である。もし、生地を仕入れて、製品に加工し、製品を販売する業態ならば、OEMメーカーと呼ぶことができるだろう。その意味では、生地を自社で仕入れるカットソー工場、糸を自社で仕入れるニッターはOEMメーカーと呼ぶことができる。しかし、布帛の縫製工場は厳密に言えば、OEMメーカーではない。

したがって、現在の布帛の縫製工場がアパレルメーカーになるには、まずOEMメーカーになり、次にODMメーカーになり、最終的にアパレルメーカーになるというステップが必要になる。

2.テキスタイル調達でOEMメーカーに

縫製加工業からOEMメーカーへと脱皮するには、素材と付属の仕入れが条件になる。素材と付属を指定されたとしても、自社で仕入れるとなると、在庫管理、原価管理の業務が発生し、更には、先に仕入れが発生するので資金繰りも考えなければならない。資金力が問われるということだ。

縫製加工の仕事ならば、設備を揃え、技術を磨けば、資金力がなくても高額な商品にも対応できたが、自社で高額な生地を仕入れるには資金が必要だ。

必然的に取り扱い商品の絞り込みも必要になる。様々な素材を駆使した製品を作るには、それだけの資金と生地の在庫負担、そして、仕入れ先管理や在庫管理という業務も発生するからだ。

OEMメーカーを経営するには、素材の絞り込み、仕入れ先の絞り込みにより、仕入れの太いパイプを作ることが重要になる。逆に、販売先はある程度拡大しておかないと、リスクヘッジができない。

縫製加工ならば、その反対に得意先を絞り込んで太いパイプを構築しないと仕事が途切れてしまうだろう。それには、どんな素材でもデザインでも縫いこなす技術力と対応力が問われる。

つまり、縫製加工業とOEMメーカーとは経営に対する姿勢が全く異なるのである。

したがって、これまで技術力を訴求してきた縫製加工業はOEMメーカーに転身するのは非常に困難である。もし、許されるならば、縫製加工業として生き抜く方が有利だろう。しかし、肝心の得意先が淘汰されてしまえば、それで終わってしまうリスクも高いのである。

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3.ODMはサンプルを提示する

ODMメーカーになると、小売店と取引が可能になる。アパレル卸に納品するより、利益率は高くなる。

その代わり、自社が企画機能を持ち、得意先にサンプルを提示しなければならない。言われた通りに縫製する商売から、売れる商品を提案する商売への転換である。

「売れる商品とは何か」と考えることで、トレンド情報や店頭情報の収集や分析を意識するようになる。縫製加工業であれば、何が売れるかを考える必要もないし、トレンドを意識することもない。

ODMメーカーとして実績を積むことは、何が売れるかを把握することである。ここまで来れば、「ファクトリーブランド」を売り出すことを考えるだろう。

ODMメーカーはサンプルを提案するが、基本的には工場である。工場の利益は設備の稼働率と人員の効率によって生み出される。工場を回すためにサンプル提案をしているのだ。サンプルを提案するための企画の経費は掛かるが、商品の在庫リスクを持つことはない。

ファクトリーブランドとは、あくまで本業は縫製業であり、売上の一部をファクトリーブランドで稼ぐという発想である。

大きな工場になるほど、その設備を全て自社ブランドで埋めることは不可能に近い。

アパレルメーカーは、利益率は高いが、商品が売れなければ在庫を抱え、損失が生じる。アパレルメーカーとして自社工場の稼働率を上げることを優先すれば、間違いなく在庫過多に陥り倒産してしまうだろう。もし、アパレルメーカーとして生きていくならば、自社工場を縮小し、生産量の変動を吸収するためにも、外部工場とも取引することになるはずだ。

4.業態により企画の方向性は異なる

ODMメーカーが提案するサンプルの品揃えは、ある程度の幅を持つ必要がある。得意先に幅があるからだ。ヤングを顧客に持つアパレルであっても、微妙に顧客層は異なるし、ブランドのテイストも異なる。フォーマルな服を求めるブランドもあれば、カジュアルな服を求めるブランドもある。幅広い顧客に対応しなければ、縫製設備をフル稼動することはできない。

一方、自社ブランドの商品を企画生産し、販売するアパレルメーカーになると、より商品の幅を絞り込み、他者との差別化を図ることが求められる。

商品企画をしてサンプルを作成することに変わりはないが、ODMメーカーが作るサンプルと、ファクトリーブランドが作るサンプルは異なるのである。

更に、自社工場と切り離されたアパレルメーカーでは、ファクトリーブランドのように、自社工場で生産できる商品を構成するという制約もなくなる。自社工場を持たないアパレルメーカーは、シーズンによって自由にアイテム構成を変更することができるのだ。

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5.価格競争からブランド競争へ

縫製工場が、アパレルメーカーへの変革を考えるのは、人件費の高い先進国に存在しており、価格競争力がないからである。

現在、アパレル企業の主流は小売店である。小売店がブランドを開発し、世界中のメーカーから商品を調達している。グローバルSPAと呼ばれる大型アパレル小売業は、人件費の低い国で生産し、人件費の高い国で販売している。人件費の高い先進国の縫製工場から調達することはほとんどない。

人件費の高い工場は価格競争力はない。勝負するのは、品質であり、デザインであり、ブランドである。大量生産ではなく、少量生産。数千人単位の大規模工場ではなく、10人単位の小規模な工場が基本になる。

先進国の工場の強みは、高額な商品を購入できる顧客が近くに存在していることだ。そして、顧客とコミュニケーションを取ることもできる。

その強みを活かし、付加価値の高いビジネスをするには、OEMメーカーではなく、ODMメーカーになる必要があるし、更には、自社の強みを活かしたファクトリーブランドを展開すべきである。

これを実現するには、価格訴求ではない、独自の魅力を直接顧客に届けなければならない。魅力は技術だけではないし、商品だけでもない。人の魅力も含まれる。素材の魅力も含まれる。情報発信の魅力も含まれる。全ての魅力が複合して初めて、ブランドの魅力になる。ブランドが確立してこそ、人件費の高い先進国の製造業が成立するのである。

編集後記「締めの都々逸」

「モノを作って 儲けた時代 今は昔と また作る」

国内縫製工場の自立とは何でしょう。縫製加工に専念したから、高度な技術が発達したとも言えます。しかし、仕事を出してくれるアパレルがいなくなれば、縫製工場も淘汰されます。

アパレルがなくなっても、生きていくには自立が必要です。ただし、そうなると、技術をだけを磨いているわけにはいきません。これまで関係がないと思っていた分野の仕事もしなければなりません。

それを選ぶか否かは自分で決めるしかありませんが、もし、自立しようという縫製工場がいるなら、手伝えることもあるかもしれないと思っています。

でも、難しいですよね。今回は、その難しさを整理したつもりです。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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