トランプ政権下にあった際と同じく、核開発再開の兆しを見せつつ、国連安保理決議違反すれすれのミサイル発射実験を強行することで、「どこまでがバイデン政権の許容範囲か」というアメリカのred lineの見極めという危険な賭けであったと考えられます。
寧辺周辺での核開発の再開を匂わせ(衛星で探知させ)、並行して新型のミサイル発射実験を行うことで、アメリカおよび韓国などの周辺国に対して、軍事技術、特にミサイル技術の進歩状況を匂わす狙いがあったと思われます。
例えば、今回2発発射された“短距離”弾道ミサイルは、低高度を迎撃が非常に困難と言われる変則軌道を描く形で750キロメートル余りを飛行し、日本の排他的経済水域に落下したことが確認されていますし、同ミサイルが実際には、鉄道・列車から発射されたとの事実も明らかになり、日米韓(そして中ロ)の安全保障・軍事関係者を驚かせたとの報告もあります。
一歩間違えれば、「ゆえに、北朝鮮をこれ以上、野放しにしておくことはできない。のらりくらりと対応をかわす姿勢を許容できず、北東アジア地域の安全保障の観点から攻撃すべき」という結論を招きかねない事態ですが、ここでもまだアメリカ政府は、懸念は一応表明しつつも、戦略的にでしょうか、無視の姿勢を貫き、相手にしていません。
とはいえ、すでに北朝鮮への攻撃のシナリオは出来上がっているともいわれており、その気になればいつでも攻撃できるというのも、どうも本当のようです。
ただ、バイデン政権の方針としては、アメリカが直接的にコミットするよりは、韓国の防衛力、軍事力の強化を容認して、朝鮮半島内で対処させようという内容のようです。
それを察知してか、北朝鮮政府は米韓(そして日本)の安全保障・軍事的な結束に楔を打つ狙いも見え隠れします。
その狙いが表れたのが、意外なことに、王毅外相が韓国を公式訪問している折に、北朝鮮がミサイル発射実験を強行したという事実です。
普通に考えると、北朝鮮の金王朝の後ろ盾とも言える中国の外務大臣が韓国を訪れている際に、その頭上を飛び越す形でミサイル発射という、威嚇行為・敵対行為にも取られかねないことを強行するのは考えづらいのですが、中国政府も懸念を示していた韓国によるSLBM発射実験の直前に巡航ミサイル発射実験を強行することで、「我々も心は同じ。それを阻止するべく、韓国に抗議の姿勢を示す」とでもいうかのように行動したのではないかと推測できます。
では、当の中国政府、そして王毅外相の反応はどうだったか?
実際の発言は聞いていませんが、周辺からの情報によると(中韓双方)、王毅外相は呆れていたようです。すぐに懸念を表明していますし、朝鮮半島、そして北東アジア地域における平和と安定を損なうものとして不快感も表明したようです。
しかし、北朝鮮はその2日後の9月15日に、今度は2発の弾道ミサイルを発射しています。落下したのが日本のEEZというのもまたミソなのでしょうが、どうして中国政府が不快感を示したにもかかわらず、そのような行動を追加したのでしょうか?
理由の一つには、「後ろ盾を自任している中国だが、このところ、コロナ禍における物理的な接触の機会がなかったことも影響し、北朝鮮へのバックアップがおろそかになっているのではないか」との思いから、「中国を振り向かせるための仕掛け」というものがあるのかもしれません。
それには、国内での困窮状況を踏まえ、中国からの支援を引き出そうとしたのか?それとも「ちゃんと中国は有事の際、北朝鮮を守ってくれるのか?」という保護を確認するためのwake-up callだったのか。
または、中国に追随しているにもかかわらず、未だに中ロが中心になって形成・拡大に動く国家資本主義陣営(別名 Red Team)に加えてもらえていないことへのフラストレーションの現れなのか。
それとも、あまり考えられませんが、中国と北朝鮮を同等に並べようとの苦し紛れの国内対策だったのか?
どれが真意だったとしても、共通することは、【最近、こちらに向いてこない中国の眼を、また北朝鮮に向かせたい】という切ない思いがあったように思います。
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