同じようなことは、別の北朝鮮の後ろ盾であるロシアに対するメッセージとも取れるでしょう。そして、国連を始めとする国際社会からの関心の薄れへの挑戦だったとも言えます。
ご存じの通り、最近のUN安全保障理事会でのテーマは、ミャンマー情勢、エチオピアにおけるティグレイ紛争と地域の安定を脅かしかねないルネッサンスダム問題、そしてカブール陥落を受けてタリバンが実権を取り戻したアフガニスタン、そしてもちろん、コロナがらみの話題です。ライシ大統領が誕生したイラン情勢も、時折、安保理や国際政治の場で語られますが、不思議と北朝鮮情勢への関心は、このところ薄かったように思われます。
金与正氏が非常に辛辣な非難を米韓に行ったとか、軍の人事体制が変わったとか、そして時には、ワイドショー的に金正恩氏の健康問題への懸念や、髪型を祖父である金日成氏に似せてきたらしい、といった話題が出ても、国際情勢においてはほぼ無視されていたと思われます。
別の見方をすると、無視をされていたがゆえに、禁じられていたはずの軍拡、特にミサイル開発と核開発を進める時間稼ぎが出来た、とも言えますが、関心が薄れたとはいえ、確実に米中ロからは常時監視下にあったはずですから、いろいろと見ていても「北朝鮮、恐れるに足らず」ぐらいにとらえていたのかもしれません。
そこに強烈なブローを与えたのが、ここ数日の動きでしょう。とはいえ、まだアメリカが動く気配はないのですが…。
今、この時点でこのような賭けに出た主な理由は、先ほども少し触れましたが、【国内での金王朝、金正恩氏への求心力回復のための術】だったのではないかと考えます。
最近、国民に寄り添う姿勢を示し、時には自らの失敗にも触れて涙し、国民からの愛着を得ようとしている戦略が目立っていましたが、コロナ感染の拡大によってより苦境に立たされる北朝鮮国民の不満を押さえ込み、不満の矛先を、再度、アメリカや国際社会に向けさせるための煽動だったのではないでしょうか。
アメリカなどから攻撃される可能性がゼロとは言えない中、【リーダーはアメリカなどからの挑発には決して屈しないのだ】という“いつもの決意”を見せることで、国内の引き締めにかかったのではないかとも思います。その実効性については、以前ほどはないと思われますが…。
しかし、国際情勢という観点からは、それでも北朝鮮が望むようなレベルの注目は集められていないようです。
14日から始まった国連総会でも、北朝鮮のミサイル開発問題と核開発問題についての懸念の声は出たものの、あくまでも安保理決議に基づいて判断されるべき問題で、その評価と対策は専門家に委ねるべきとの結論に出て、新たな安保理マターともならず、アメリカ、中国、欧州各国、そしてロシアにも、懸念は表明させても、大きなショックを与えることはできなかったようです。
恐らく唯一の例外は、お隣韓国と日本でしょうか。
そのような状況を受けて、北朝鮮が次にどのような手段を選ぶのか。
各国の動静を読み違えて誤った行動を取った場合、もしかしたら北朝鮮という国の存続を左右するような事態が、さほど遠くないうちに起こるかもしれません。
国際社会、特に安全保障コミュニティでは、台湾を舞台にした米中の直接開戦を懸念する声が高いですが、もしかしたら北朝鮮有事が起こることで、逆に台湾をめぐって起きかねないと思われている緊張が、ガス抜きになるのかもしれません。
ちなみに私が懸念するのは、北朝鮮が一か八かで暴発し、北東アジア地域を巻き添えにするような事態です。もしかしたら北朝鮮の動きを無視しようとする各国の思惑は、北朝鮮をさらなる孤立に追いやり、自爆的な選択肢しか与えないまでに追い詰めてしまうかもしれません。
現在起こっている挑発行為が、北朝鮮の金王朝が行うお馴染みの瀬戸際外交なのか。それとも…。
皆さんはどうお考えになりますか?
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image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト