ミラノ・コルティナオリンピックで、選手たちのインタビューを聞いていて気になったことはありませんか。「本当に嬉しいです」「本当にありがとうございます」――アスリートだけでなく、解説者やアナウンサーまでもが「本当に」を連発していました。嘘だらけの社会への抵抗か、それとも別の理由があるのか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、著者で健康社会学者の河合薫さんが、言語心理学や対人コミュニケーション論の視点から、この現象の正体をゆる~く、しかし鋭く考察しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
五輪インタビューで気になった「本当に」
今回はいつもとちょっと違う切り口で、かなり”ゆる~いニュース”を取り上げます。
ミラノ・コルティナオリンピックでは、アスリートたちの活躍が素晴らしく、感動の嵐でした。ただ、一つだけ気になったのが、インタビューで選手たちが「本当に」をめったやたらに繰り返していた点です。
最初はアスリートたちの「本当に」だけが気になっていたのですが、解説者やアナウンサーの人たちも、「本当に」を連発していました。
なるほど・・・。今の日本は「嘘」だらけなわけか? 若者たち界隈は、無難・普通・共感の同調圧力が強すぎて、当たり障りのないことしか、日常で言わなくなってってことなのか?
などと、ゆる~く仮説を転がしていたところ、結構な数の人たちが「本当に」が気になっていることが発覚!
そこで「アスリートたちが『本当に』を連発する理由」を、言語心理学や対人コミュニケーション論から、考察しようと思った次第です。
脳が興奮すると強調語を繰り返す
まず、心理学的には、感情が爆発すると「本当に」といった強調語を繰り返すようになることがわかっています。英語の場合は、Literally、Actually、Honestlyなどです。脳が興奮しすぎると、難しい言葉を操る機能がストップし、次の言葉が出てこない。すると、その沈黙を埋めるために、強調語が繰り返されてしまうのです。
この沈黙を埋める現象は「フィラー」と呼ばれ、連発は「脳が処理しきれないほど感動している証拠」ということが、さまざまな調査からわかりました。「えーっと」「あのー」「ま、」「というか」などを連発するシーンもインタビューではよくありますが、これもフィラーによるものです。
また、アナウンサーや解説者が「本当に」を多用したのは「カメレオン効果」によるものです。
私たちには、無意識に会話相手の仕草、表情、話し方などの癖を真似してしまう心理現象があり、相手に親近感や好感、誠実な印象を与え、コミュニケーションを円滑にする適応行動として知られています。相手に強く共感する場合も、カメレオン効果が認められる研究もあるので、今回のケースでは、アスリートの熱量に、解説者やアナウンサーが心からシンクロしてしまうほど、感動的だったのでしょう。
なぜ数ある言葉から「本当に」が選ばれたのか
では、なぜ数ある言葉から「本当に」が選ばれたのか。それは、この言葉が感情の「純度」を証明する最短ルートだったと考察できます。
感情の極限状況で、アスリートは、真のナマの感情を、全身全霊で届けたかった。
そして、夢のような現実を前にして、「これはフェイクじゃない」と自分に言い聞かせる防衛本能も働いてのではないでしょうか。
マジでもなければ、メチャでもない。とことん「真実である」ことを強調するために、本当に、最善の単語だった。それほどまでに、4年間、アスリートたちはとことんがんばった。何度も折れそうになりながら、踏ん張った。自分を褒め、周りに感謝し、これまで感じたことのない「真実」を分かち合いたかった。
だから日本中が、感動の嵐に包まれたということなのでしょう。というわけで、「嘘」だらけの日本社会への抵抗ではなく、心の奥底から紡がれた「誠実さ」だったのですね。
みなさんのご意見もお聞かせください。
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