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「会社で働き詰めは嫌」という人間にフリーランスは務まるのか?

若かりし頃に持ち合わせていた出世欲が無くなったどころか、家族や自分の時間を犠牲にしてまで責任ある立場に就きたくないと思うに至ったとき、真面目な人ほどその後の身の振り方を考えてしまうものなのかもしれません。今回、iU情報経営イノベーション専門職大学教授を務める久米信行さんのメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』に届いたのも、そんな方からのご相談。出世を目指さない自分は会社を去ってフリーランスになるべきなのか、そもそもフリーランスに向いているのかというお悩みに対して久米さんが、まさにフリー稼業を長く続けられてきたからこそのアドバイスを送っています。

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オトナの放課後相談室「会社員としての出世意欲が乏しい私はフリーランスに向いているのでしょうか?」

Question

20年近く会社員生活をしてきましたが、43歳の現在、平社員です。

若い頃は、出世することも目標に入っていましたが、最近はめっきり出世欲がわいてきません。

会社の年下の上司たちを見ると、毎日遅くまで働いているし、やることも責任も多いし、その分、桁違いの給料をもらっているかというとそうではなく、出世した先に待ち受けているのは、「苦痛」しかないのではないかと思えて萎えます。

管理職に限らず、会社で重用されている人たちはみんな疲弊しているし、経営陣すら大変そうです。

そういう姿を見ると、「出世」するために自分の時間を大量に犠牲にするくらいなら、今のまま、家族や趣味に時間を費やしたいと思ってしまいます。

とはいえ、歳を重ねるごとに会社から求めらる部分が多くなり、いつまでもマイペースではいられない空気も感じます。

単純に今の会社が大変過ぎるだけなのかもしれないと「転職」もよぎりますが、どこの会社も概ねそんな感じかなと思うと、会社を辞める時は「フリーランス」になる時なのかなと思っています。

ただ、プライベートを犠牲にして、いっぱい働きたくないから「フリー」になるというのも、「逃げ」のようだし、フリーになっても頑張らなきゃいけない局面は来ると思うので、モヤモヤしています。

こんなマインドの私でも、フリーとしてやっていくための心構えを教えて頂ければ幸いです。(東京都・43歳、男性)

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久米さんからの回答

ほどほどに会社で働きつつ、空き時間にちょっぴりフリーランスがよろしいのでは?

まず最初に申し上げたいのは、「出世欲」が無いことは、決して特別なことでも、悪い事でもないということです。

日本の多くの企業では、出世した結果どうなるかというと、管理職になるケースがほとんどです。たしかに給料は上がるかもしれませんが、非組合員になって残業手当も出なくなりますし、日本的で冗長な会議の数々への出席も求められます(中には一日中何かの会議ということも=実質仕事可能時間が減る=残業が増える)。また自分の成績のみならず部下を含む業務目標が与えられ管理や評価が必要になります。

こうした細々としたマネジメントが好きで、やりがいを感じるなら良いのですが、現場の仕事が好きな人、実際に取引先やお客様と会うのが好きな人には苦痛かもしれません。

例えば、かつて、リクルートで数々の新規事業を立ち上げ三羽ガラスとまで言われた藤原和博さんは、こうした会議、業績管理、部下の評価などに忙殺されるマネジメント職はやりたくないと、会社を飛び出したのです。

「提案だけでは何も起こらない」 リクルートを退社し、中学校の校長となった藤原和博氏

ましてや、今は管理職になった瞬間に、パワハラ研修を受けさせられ、かつて自分たちが上司にされてきた方法を、ほとんど否定されてしまいます。いわゆる体育会的根性論や強い言葉での叱咤激励でもしようものなら、たちまち若手社員は会社に出てこなくなるか、どこかに訴えるでしょう。

ですから、もしも今の現場の仕事が面白く、そこそこの成績で会社に貢献できているのであれば、ずっと現場の専門職を究めていく道もあるのです。海外では、管理職になりたくない技術専門職の優秀な人向けに、フェローという仕組みがありますが、日本でもフェロー制度のある会社が出てきています。しかし、フェローまでならなくとも、日本の会社では、不祥事などでも起こさない限り、ちゃんと仕事をしている人を一方的に辞めさせることはできません(だからこそ、閑職に追いやり、精神的においつめて、自発的にやめさせるという、半沢直樹的ワールドがあるわけです)。

経営者になればわかるのですが、米国などに比べて、日本は働く人の権利がかなり守られています。終身雇用がよしとされたわが国では、原則として、会社都合で一方的に誰か社員を指名して辞めさせることは難しい仕組みになっています。また経営者にも、社員にやめてもらうのは最後の手段と思っている人が多いのです。先日も、コロナ禍で経営危機に苦しむ、あるホテルの支配人とお話した時に、「それでも社員は守る。申し訳ないが、社員のみなさんには一時的に社外に派遣や出向してもらいながらも雇用は守る」と話されていて感激しました。

もし社員を減らさないと会社が立ち行かない時には、先日、EVや新規事業シフトを急ぐホンダが行ったような公募制の早期退職制度が行われるのです。ただし、昔は、早期退職制度には、外でも活躍できる優秀な人から申し込んで会社に痛手を与えたようですが、最近は「妖精?」と呼ばれる存在感の薄い人が申し込むそうですが。

早期退職制度に2,000人が殺到したホンダの舞台裏

つまり、日本は、企業経営者にとっては大変でも、社員にとってはやるべきことさえやっていれば安心できる社会なのです。欧米に比べて経営者の報酬は圧倒的に少ないのに安易な解雇やレイオフ(一時帰休)ができないので、出世して経営者になっても、そこまで得なのかと、ふと考えることさえあります。

特にこれからは、DX革命による大失業時代の到来も予測されます。

ですから、私なら、よほど会社の将来性が危ういか、個人的に嫌なことがあるのでなければ、会社にしがみついておく時期だと考えるでしょう。

また、管理職でない組合員であれば、政府の肝いりで休日や残業の規制が厳しくなる中、会社に拘束される時間はどんどん短くなり、自由時間が増えていきます。さらに、副業規定も緩和されつつあるので、会社勤めをしながらフリーランスをする道も開かれつつあります。

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最後に、フリーランスの話です。私は中小企業経営者として忙殺されながらも、並行して20年以上フリーランスの仕事をしていきました。その経験から、フリーランスの良いところと辛いところをお話しましょう。

まずは、講師業から、私のフリーランス人生が始まりました。構造不況業種の中小企業経営者がネット通販をしているのが珍しいので、全国の商工団体に講師として呼ばれたのがきっかけで、年によって異なりますが、年間、数十回は講師依頼をいただいておりました。特に営業をしているわけではないのですが、クチコミ、ネットコミに加えて、今では「公益財団法人 内外情勢調査会」が全国の支部に声をかけてくださることで、ありがたいことに、ちょっとした副業になっています(といっても平均して月額に直せば、一般的な企業の初任給にもならないでしょう)。合わせて、全国を旅することもできますし、様々な地域のキーパーソン=政治家、官僚、経営者に出会って、ご縁を広げることもできます。

とは言え、経営者や大学教授といった肩書では、芸能人ではなく文化人枠なので、講師料もしれていますし、定期収入になるわけではありません。営業したからといって、仕事が取れるわけでもありません。あくまでも待ち受け型なのです。

そこにコロナウイルスが直撃です。入っていた講演予定は次々にキャンセルされ、毎年恒例の定期的な研修まで中止となりました。

気が付けば、執筆業も20年以上 続けています。まずは、日経情報ストラテジー、経営者会報などのビジネス誌や、日経パソコンなどのコンピュータ雑誌へのコラム連載が舞い込み、多い時は、月10本前後の連載を抱えていました。子育て真っ只中でもあったので、深夜はもちろん、休日のお稽古送迎や公園見守りの合間などに書いていましたが、よくぞ締め切りを守りつつ体を壊さなかったものだと思います。しかし、それだけ書いても、会社員の平均月収に届かせるのは至難の業。しかも、毎回違うテーマを考えなくてはならないですし、連載打ち切りの恐怖とも戦わなくてはなりません。これならどこかの企業に勤めていた方がラクだったと思うこともしばしばでした。今は、日経産業新聞のほぼ月1回連載に落ち着いていますが、それでもネタ探しに頭を使いますし、原稿料は知れていますので、商売にはならないでしょう。

また、2004年の「メール道」に始まり、「すぐやる技術」などの、自己啓発系のビジネス実用書を書く機会に恵まれましたが、これまた大変です。たまたま売れた本もあり、そんな時は増刷の印税で潤いますが、多くの本は初版止まりで、収入は1冊で数十万といったところ。とても本を書く苦労に見合うと思えませんし、これだけで生活が成り立つとは思えません。何が売れるか全くわかりませんし、自分が力作だと思っても評価されないことも多いので、落ち込みます。

続いて、大学講師業も始めました。最初は明治大学の講師となり、続いて多摩大学の客員教授になって、前期は明大、後期は多摩大で、週1コマ教えています。これは、毎月の定期収入になりますし、ありがたいことにコロナ禍でも、オンラインを活用しながら仕事は続きました。しかし、これが驚くほど低報酬なのです。金額は言えませんが、経営者向けの90分講演料より月額報酬の方が少ない上、15回分の教材づくりと採点までしなくてはなりません。名誉なことですし、やりがいはありますが、生活の支えにはならないでしょう。

去年からは、久米繊維の会長職を退いて、iU情報経営イノベーション専門職大学の専任教員になり、こちらでは企業勤め並みの報酬をいただいております。しかし、忙しさや責任は、ほぼ企業のプレイングマネージャー並みなので、これはフリーランスというより会社勤めですね。企業経営者から企業の中間管理職兼専門職に変わった感じです。決して楽な仕事ではありませんし、自分の思い通りにできないストレスはあります。しかし、一方で、給料を払う立場から、給料をもらう立場になるのは、どれだけ気楽か実感しているところです。

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講師にせよ、執筆にせよ、傍で見るほど楽ではありませんし、それで食べていくのは大変です。しかし、このフリーランス的副業があったおかげで良かったことも多々あります。

本業以外のことを考える時間とアタマを創ったことで、不思議なことに本業のストレスが減りました。良い意味で、その時間は本業のことを考えないで済みますし、逆に、本業に役立つアイディアを思いついたり、本業につながる出会いに恵まれたりしました。そして、もう一つの自分の仕事を磨くことで、自分が特別な人間に思えるようになり、自己肯定感も高まりました。なにより、会社に頼らずとも、生涯かけて続けていけるライフワークが見つかったことが嬉しいのです。

ですから、いきなりフリーランスになるのではなく、まずは「両刀使い」を目指されてはいかがでしょう?

会社では、期待されている以上の仕事を要領よくこなして生活の不安をなくしつつ、自分の時間では、収入や一般受けなど気にせずに、好きな仕事=ライフワークを趣味半分で追求する「両刀使い」の人生を満喫するのです。

もちろん副業が十分に稼げて安定収入が見込め、時間が足りなくなったら、その時初めてフリーランスになることを考えても良いのです。ひょっとしたら、そんなタイミングで、お得な早期退職制度が始まるかもしれません?!

思い返せば、厄年明けの頃は、新しいことを始めるチャンスです。私にとっても、フリーランス副業が始まった人生の転機でした。人生百年時代に向けて、楽しい後半生へのスタートダッシュを、無理せず、助走をつけながら始めてください。

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image by: Shutterstock.com

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1963年東京墨田区出身。87年慶応大経済卒。イマジニア新卒一期で飛込営業と株式投資ゲーム開発。88年日興證券でAI相続診断システム開発研修統括。91年家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業入社。94年三代目社長就任(現相談役)。97年日経インターネットアワード、05年経産省IT経営百選、09年東商勇気ある経営大賞等受賞。10年APEC中小企業サミット日本代表。20年開学の新大学iUでは起業家教育・地域創生担当教授。明治大、多摩大の授業や企業団体研修に即した25万部超の「すぐやる技術」シリーズ等著書15冊。内外情勢調査会等で毎年数千人に講師。東京商工会議所墨田支部副会長、墨田区観光協会理事、墨田区文化振興財団 評議員として地元振興。新日本フィルハーモニー交響楽団・NBS日本舞台芸術振興会・日本吟剣詩舞振興会 各評議員として文化芸術振興。

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