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軍事アナリストが仰天。前統合幕僚長「台湾有事」言及の認識不足

メディアによる「台湾有事」を懸念し危機を煽るような報道について、これまでにも「マスコミは「台湾有事」の空騒ぎを止めよ。軍事アナリストが警告する最悪シナリオ」、「軍事アナリストが憂慮。「有事」を煽る朝日エース記者の勉強不足」など、再三警鐘を鳴らしてきた軍事アナリストの小川和久さん。今回のメルマガ『NEWSを疑え!』では、自衛隊の前統合幕僚長までもが、予算目当てのインド太平洋軍司令官の発言や米国防総省のアンフェアな報告書を元に、中国軍の戦力を過大評価していることを問題視。いま一度、米軍トップのミリー陸軍大将の発言を引き、まだ中国軍には台湾侵攻の能力が備わっておらず、誤った認識で国民を煽ってはならないと訴えています。

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台湾有事への米海軍の見積もりは疑問

ツイッターに次の見出しを見つけてびっくり仰天、早速目を通してみました。

「中国は確実に台湾に侵攻する」前統合幕僚長が警鐘 沖縄の海が戦場と化す?(デイリー新潮)

河野克俊前統合幕僚長と知り合って20年、いまも防衛省・自衛隊のOB組織・隊友会の理事会などで顔を合わせる関係です。自衛隊関係者の間では河野さんは鼻っ柱の強いことで知られているそうですが、私にはこちらが9歳もジイサマということもあって、そういう顔は見せません(笑)。

そういう河野さんの顔を思い浮かべながら、私は記事を読んだ感想をツイートしました。

「日本が中国に備えるのは当然だが、この論考は河野氏らしくない。中国の軍事インフラの立ち後れ、海上輸送能力の欠如、そして中国が国家目標とする2049年まで「安全運転」中というファクターを無視した議論」

中国に対する危機感は私も河野さんと共有しているつもりですが、根拠のひとつに今年3月のデビッドソン・インド太平洋軍司令官(当時)の「台湾への脅威は6年以内に明らかになると思う」という発言を示している一方、それを否定した6月のミリー統合参謀本部議長の次の発言に言及していない点が気になりました。

「中国が台湾全体を掌握する軍事作戦を遂行するだけの本当の能力を持つまでには、まだ道のりは長い」

「(中国による台湾の武力統一が)近い将来、起きる可能性は低い」

「中国には現時点で(武力統一するという)意図や動機もほとんどないし、理由もない」

いやしくも、ミリー陸軍大将は米軍のトップでもあります。その重要な発言に触れないというのは、記事が牽強付会なものという印象を振りまいています。

まず、ミリー発言の根底にあるのは中国の海上輸送力の不在です。また、ハイテク化された軍事組織を運用する前提となるデータ中継衛星などの軍事インフラの立ち後れもあるでしょう。

そうした点に触れず、デビッドソン発言に乗る形で米国防総省の報告書を引用するというのは、予算獲得に躍起になっている米海軍の思惑に同調していると言われても仕方ありません。昔から、海軍とカトリックと梅毒はインターナショナルだと言われますが、海軍つながりという印象も感じられます(笑)。

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また、往々にして海軍には陸上戦力を海上輸送する能力について知識が欠けていることもあります。河野さんに限って、そんなことはないと思いますが、米国の陸軍と海兵隊、そして陸上自衛隊の高級幹部なら中国が台湾侵攻に必要な海上輸送能力をほとんど備えていないというのは常識なのです。

中国の海軍力が米国を凌駕したとする米国防総省の報告書を引用している点も気になりました。

昨年公表された米国防総省の年次報告書によれば、米海軍が保有する艦艇の数は約290隻。それに対して中国海軍の艦艇保有数はおよそ350隻に達しており、報告書は中国を「世界最大の海軍」と指摘している。

これまでにも西恭之さん(静岡県立大学特任准教授)が指摘してきたように、米国防総省の『中華人民共和国が関与する軍事および安全保障の進展に関する報告書2020年版』はアンフェアなものなのです。

報告書は、「中国人民解放軍海軍は世界最大の海軍であり、約350隻のバトルフォースは主要水上戦闘艦、潜水艦、外洋航行可能な揚陸艦艇、機雷戦艦艇、補助艦艇を含む」と述べています。しかし、そこに自分たち米海軍がバトルフォースに含めていないサイクロン級哨戒艇(336トン)より小型の中国艦艇である86隻のミサイル哨戒艇や、中国沿岸の哨戒以外の能力が低い49隻の056/056A型コルベット(護衛艦)まで含めて350隻としているのです。これでは、数字だけを見ると中国の方が米国より大きなバトルフォースを持っていることになり、中国海軍を実態より誇大に見せることになってしまいます。

このデイリー新潮の記事の通りの主張を河野さんが繰り返すとすれば、単に危機をあおっている、危機を演出しているとして、記事で触れているハイブリッド戦の脅威や中距離弾道ミサイルの日本配備の問題も、眉に唾をつけて扱われる可能性があります。機会を見て、河野さんが必要なファクターを踏まえた記事を国民に示すことを望んでやみません。(小川和久)

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image by:BiksuTong / Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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