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韓国で36日間の「監禁」生活。修学能力試験作成に関わった日本人

韓国で毎年11月に行われる、大学修学能力試験。その出来不出来で人生が変わるとも言われ、受験生本人はもちろん家族をも巻き込んだ過熱ぶりが日本でも伝えられていますが、問題作成にも大変な時間と労力が費やされているようです。今回の無料メルマガ『キムチパワー』では、かつて問題作成委員を努めたという日本人著者が、36日間にも及んだ「監禁生活」の全貌を綴っています。

監禁生活、ご苦労様でした

コロナ禍の続く中、今年も韓国では「修学能力試験」当日を迎えた。日本の大学入試センター試験に似たもので、高校3年生が大学入学を目指して受ける試験だ。大体50万人くらいが受けるようだ。

私事のことで恐縮だが、この時期になるといつも思い出す。2003年の10月から11月にかけて、筆者も「缶詰」状態で試験問題作成にいそしんだなあと。

国語(韓国の国語)、数学、英語を基本に社会(歴史、地理、公民など)、科学(物理、化学、生物、地学)、第2外国語(日本語、中国語、ドイツ語など数十の言語が対象)漢文などの科目において、数十人単位で作成委員(大学教授らがメイン。高校教師も各科目に1、2人ずつ入る。高校範囲をはみ出していないかなどを確認するため)が募集されるから、その年度の作成関係者は500人単位になる(勿論給食料理チームも含む)。しかもこの試験は最重要の試験の一つであるため、修能出題と関連した事項は国(担当部署は教育評価院というところ)の機密となっており、合宿所と人員などは公式には発表されない。

ちなみに筆者の担当した2003年の場合は、カンウォンドにあるコンドミニアムを建物ごと貸し切りにして使っていた。いつもだいたいどこかのコンドミニアムなどをつかっているはずだ。

2003年の10月初旬のある日、突然筆者の研究室に一人の男が入って来て韓国教育評価院の者ですけど、と挨拶をするのだが、筆者にはなんの連絡も入っていなかったから、なんのことかわからずにぽかんとしていたものだ。彼が一から懇切寧体に説明してくたおかげで、全体像はつかめた。しかし40日近くも仕事場にいられなくなる。それをどうするのか。彼の言うには、「これは国の仕事なので、代講の教授を立てたり費用を賄うのはこちらですべてやりますので、先生にはただOKさえをいただければ万事オーケーなんです」という。

そういうことなら、即OKだ。30分の話のあとすぐに学校の教務室にいっしょに行き、教務処長と5分の会話がもたれ、学校からの許可もすんなりととれた。このあたりのことは以前『アンニョンお隣さん』などに書いてあるので詳しいことはそちらに譲ることにしたい(筆者は、第2外国語・日本語の作成委員として行った)。

2022年度の大学修学能力試験(韓国では略してスヌン試験)が、これを書いている現在全国各地の会場で行われている。受験生が主人公で一番大変なのも彼らなのだが、問題作成委員として働いたことのある筆者としては、こっちの裏方さんらの苦労もよくわかり、「お疲れ様でした」と言ってあげたい心情でいっぱいなのだ。

作成のための「合宿」が始まれば、委員らは外出が不可となり、通信機器も使用できなくなる。筆者のときのコンドミニアムは、目の前がスキー場になっていたが、広く大きなガラス窓は四隅が全部めばりがされていて開けることができなかった(窓をあけて、問題を書いた紙などをポーンと捨てれば、問題が流出する可能性があるから)。直系家族が死亡した場合、保安要員や警察官と同行して葬儀場に数時間行ってくることだけが許される。つまりこのときだけ外部との接触が例外的に許されるほどに厳しいものだ。生ゴミさえ保安要員の点検を経る。インターネットは、出題に必要な情報を探す時、セキュリティ要員の監視の下、制限的に使用することができる。

委員らはこのような物々しい雰囲気の中で問題を作成し、繰り返される討論を経て問題を作成する。過去問とのダブりはないか、難易度は適当か、ある種の分野に偏っていないかなどなど、検討する部分は山ほどあり、討論のたびに問題点が出てくるという感じだ。

俗に「監禁生活」などとも言われるスヌン試験問題作成の合宿生活。これも11月18日、修能5時間目に「第2外国語漢文」試験が始まれば、36日間の監禁状態から解放される。午後5時5分から「第2外国語・漢文」試験が始まる。その時間がどれほど待ち遠しいか。大の大人たちではあるが、今か今かと待っている彼らの気持ちは、幼子が大好きなニンテンドーのスイッチを買いに親の手をつないでお店に向かうようなものといったらご理解いただけるだろうか。

受験生には幸運を祈り、「監禁生活者」の方々には労をねぎらい気持ちでいっぱいだ。お疲れ様でした。シャバの空気を存分に吸ってください。(無料メルマガ『キムチパワー』2021年11月18日号)

image by: KIM JIHYUN / Shutterstock.com

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韓国暮らし4分1世紀オーバー。そんな筆者のエッセイ+韓国語講座。折々のエッセイに加えて、韓国語の勉強もやってます。韓国語の勉強のほうは、面白い漢字語とか独特な韓国語などをモチーフにやさしく解説しております。発酵食品「キムチ」にあやかりキムチパワーと名づけました。熟成した文章をお届けしたいと考えております。

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【著者】 キムチパワー 【発行周期】 ほぼ 月刊

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