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ブーム再来。世界的なアナログ・レコード人気で懸念される「3つの問題点」

CDに置き換わる形で一時は消滅の危機に瀕していたアナログ・レコードですが、昨今は国内でも専門店がオープンするなど、人気に再び火が付き始めています。なぜ今、アナログ・レコードは世界的なブームとなっているのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住作家の冷泉彰彦さんが、3つの観点からその人気復活の理由を解説。さらにアナログ・レコードが抱える問題を指摘するとともに、扱いやコレクションする際にケアすべき点を記しています。

※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2021年11月23日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。

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世界的なアナログ・レコード人気、気になる3つの点とは?

オーディオの世界は、1982年にCD(コンパクトディスク)が導入されて以来、一気にデジタル化が進みました。それまで長い歴史を誇っていた「アナログ・レコード(レコード)」は衰退を始めて、わずか4年後の1986年には世界での販売枚数でCDに抜かれたとされています。

その後、CDが普及する中で1990年代になると一旦はレコードは生産されなくなっていきました。ところが、その後、90年代後半にはDJ人気のためにレコードが部分的に復活、そして2010年前後からは世界的にジワジワと人気が拡大しています。ちなみに、英語圏では「バイナル(ビニール製のレコードという意味)」と言われています。

どうしてレコード人気が復活したのでしょうか?

まずDJ人気ですが、何台かのレコードプレーヤを駆使し、特に素手でレコード盤を早回ししたり、巻き戻したりするパフォーマンスが格好良いということ、その際のキュリキュルという音が面白いことなどから、一種のファッションとして、クラブなどで定着したということがあります。

そして、DJ以外でも「30センチ四方の大きなジャケットが、それ自体アートになる」ということがあります。1980年代以前のレコード時代には、それこそロック喫茶やジャズ喫茶では、レコードジャケットが重要なインテリア小物になっていたり、その時に「演奏しているディスク」をジャケットを掲示して示すことが多くありました。とにかく、CDではジャケットが小さすぎるし、ストリーミングだと物理的なジャケットはないわけですから、レコードの「大きくてかっこいいジャケット」は魅力というわけです。

さらに言えば「音が良い」ということはあります。1980年代にCDの規格を決める際に、本当か嘘かは分かりませんが、当時のソニーの社長だった大賀典雄氏が、世界的な指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤンに「CDは70分強の音楽が入るにようにして、ベートーベンの『交響曲第9番』が1枚に収まるようにして欲しい」と言われたことで、最終的なスペックが決まったという伝説があります。

問題はそのスペックで、CDは実はレコードより若干音が悪いのです。特にダイナミックレンジ(音の大小の幅)が狭く、それが細かい部分での音の解像度に影響しています。ですから、反対にレコードについては、確かにCDより音がいいし、例えばですが、良い真空管のアンプなどを使って再生してやると、気分的なものを含めて「温かみのある良い音」という印象を与えることがあります。

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そんなわけで、人気化しているアナログ・レコードですが、問題がないわけではありません。大きく3つの問題があると思います。

1つは、デジタルと違って、ケアが必要だということです。まず、レコードは針を落として「物理的にこすって」音を拾います。ですから、レコードにホコリやゴミがついていると「プチッ」というノイズになります。ですから、再生の直前には盤面を掃除してやる必要があるし、再生が終わったらもう一度掃除をしてから袋にしまうなど、神経を使います。

また、レコードに落とす針も「接触してこすれる」ものですから、いくら人工的に作ったサファイヤとかダイヤなどの硬い素材でできていても磨耗します。仮に磨耗した針で再生すると、レコードの音を刻んだ溝が傷んでしまうのです。ですから、定期的に針を交換する必要があります。

一番大事なのは、再生中にプレーヤを揺らさないということです。再生中に振動を与えると、針が飛んで音楽が別の場所に行ってしまいます。そればかりか、硬い針が盤面をイレギュラーに動くことで、レコードに傷を作ってしまうのです。最悪なのは、中心から外側に向けて深い傷を作った場合で、その傷のところで音の溝にショートカットができてしまって、同じところをグルグル再生したり、そうはならなくても、レコードが一周するたびに定期的に「プチプチ」とノイズが入るようになるのです。では、盤面の円周に並行な傷なら良いかというと、それもダメで、音が直前や直後に飛んだりします。

とにかく、音楽の情報がファイルとして確定しており、それをCPUのクロックに従って整然と出力するだけのデジタルと違って、アナログレコードの場合は、本当に「リアルなモノ」が接触して「こすれた際の揺れ」を拡大して音楽として再生するということをやっているわけで、その接触面を傷つけないように、またきれいにしておくことには、大変な神経を使うわけです。

2つ目の問題は、いくらアナログ・レコードが「音が良い」からといっても、実は、「音の悪い暗黒時代」があるということです。この「暗黒時代」というのは、1980年前後から始まって2002年か2004年ごろまでの約25年間のデジタル録音の音源です。

その前は、レコードを作る際には、アナログのテープレコーダーを回して録音を行い、それを編集して作ったマスターから、溝を刻んでレコードを作っていました。実は、このアナログのマスターというのは、1秒間に38センチ(または76センチ)という高速で回る磁気テープであり、チャンネル数は2(2トラック)で、しかもテープの幅も広く、多くの情報量が記録できるものだったのです。

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ですが、先ほどの「ソニーとカラヤンの談合」の結果、1982年に発売されたCDでは、なんと「16ビット・44.1khz」という低スペックになってしまいました。本当に惜しい話で、とにかくサンプリング周波数は44.1で良いから、量子化は24ビットにしていれば、こんな問題は起きなかったのです。

恐ろしいことに、82年から2002年ごろまでは、最終的なデジタルマスターも、16ビットのままであり、この期間の録音は16ビットでしか残っていません。ということは、この時期の録音を今からアナログ・レコードにする場合には、結果的にCD以上の音質にはならず、反対にどうしても何らかのノイズが乗るということになってしまうのです。

仮に音の良さを求めてレコードにするのであれば、この時期のものは避けるべきと思います。また、それ以前のもので、本当のオリジナルは2トラック38とか76の高品質のものがあっても、それが散逸していて「今残っているマスターは16ビットのCDに焼くためのデジタルマスター」ということがあります。そうなると、音はやはりCDかそれ以下になってしまうのです。

反対に、2002年前後以降の録音で、デジタルマスターが24ビットとか、DSDであれば、そこからレコードのマスターを刻んだ場合には、CD以上の音質が期待できると思います(再生環境の良い場合)。

3つ目の問題は、レコードの大きさと重さです。アナログ時代に自分の好きな音楽を集めるというのは、PCやスマホにプレイリストを作るのではなく、本当にレコードという「モノ」を集める必要がありました。このレコードですが、大きさもさることながら、重さが問題です。

レコードの場合は、ディスクに加えてジャケットもあるので、大体1枚200グラムぐらいになります。1枚なら良いのですが、5枚でもう1キロ、50枚で10キロ、100枚で20キロということになります。アルバム100枚で20キロというのは大変で、当時のレコード収集家の間では「家の床が抜けるかも」という話が真剣に語られていました。

現在のレコードブームは、あくまで「シャレ」というか「オシャレ」という意味合いだけであり、基本的に自分のコレクションはプレイリストにあって、それに加えて、せいぜいが数十枚のレコードを集めるだけと思います。でしたら、心配はないのですが、仮に真剣に「コレクション」を始める場合には、その重さ対策は要注意と思います。

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image by: PhakornS / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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