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ホンマでっか池田教授が暴露。「種の保存法」は「絶滅促進法」だった

国の天然記念物で小笠原諸島だけに生息していた蝶「オガサワラシジミ」は、昨年、島外飼育されていた個体がすべて死亡し絶滅してしまったと考えられているようです。となればすぐにでも「種の保存法」の指定を解除し、標本を譲渡できるようにすべきと訴えるのは、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみの池田清彦教授です。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』で池田教授は、「種の保存法」により市井の飼育名人の活動が制限され、昆虫に限っては「絶滅促進法」となっている一面を暴露。指定されている種の成体も標本もやりとりできないことで起こる問題を明らかにしています。

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絶滅した日本固有種の蝶、オガサワラシジミ

2019年に出版した『もうすぐいなくなります─絶滅の生物学』(新潮社)の文庫化が決まって、最新のデータを盛り込むべく読み直している。最近明らかになったのは、小笠原諸島固有種の蝶、オガサワラシジミが絶滅したらしいことだ。絶滅した最初の日本産の蝶である。小笠原諸島は絶滅種と絶滅危惧種の“宝庫”であるが、なぜか、2019年時点で、昆虫に関しては、環境省のレッドリストを見る限り、絶滅した種はいないという事になっていた。

小笠原で最も絶滅種と絶滅危惧種が多い動物のグループは貝類で、環境省のレッドリストに掲載されている19種の国内の絶滅種の内、実に18種は小笠原の固有種である。小笠原には100種近い陸産貝類が生息している(いた)がそのほとんどが絶滅または絶滅に瀕している。個々の種の個体数が少なく、生息環境も極めて限定されているので、少しの環境変動で絶滅した種が多かったのだろう。

もう一つ大きな原因は、沖縄から恐らく非意図的に父島に入ってきたニューギニアヤリガタウズムシが、固有種の陸産貝類を捕食したことにある。小笠原にはアフリカマイマイという外来種の大型の陸貝がいて、かつては食用として重宝されたらしいが、食料事情が良くなって食べる人がいなくなり、一転、作物を食い荒らす邪魔者となった。ニューギニアヤリガタウズムシは、当初こそ、アフリカマイマイを食べる良い奴として歓迎されたが、アフリカマイマイのみならず、固有種の貝類も食い荒らしたのである。不幸中の幸いと言うべきか、今のところ父島以外には分布していないようだ。

ところで、環境省のレッドリストに載っている日本産の昆虫類の絶滅種は4種。カドタメクラチビゴミムシ、コゾノメクラチビゴミムシ、スジゲンゴロウ、キイロネクイハムシである。前二者は洞窟性の昆虫であるが、石灰岩の採掘によって棲息地の洞窟もろとも消滅してしまった。後二者の絶滅原因は定かでないが、生息環境の悪化が主たる原因であろう。

小笠原で、間違いなく絶滅したと思われる昆虫は少なくとも3種ある。そのうち2種はカミキリムシで、1915年採集のただ1頭の標本に基づいて、槇原寛氏によって記載されたオガサワラゴマダラカミキリと、高桑正敏博士が1976年に採集して、草間慶一博士によって記載されたミイロトラカミキリで、これも1頭しか採れていない。環境省のレッドリストにはミイロトラは絶滅危惧IA類として記載されているが、オガサワラゴマダラカミキリはなぜか記載されていない。東京都のレッドリストには両種とも絶滅にカテゴライズされている。

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3種目のオガサワラシジミは、私が小笠原の昆虫相の調査をしていた1970年代の後半には父島、母島両島には豊産し、小笠原で最も普通の蝶であった。それが、1980年代に入って、ペットとして導入されたグリーンアノールが分布を拡げ始めた頃から、徐々に数を減らしていった。1992年に小笠原を訪れた頃は、父島ではほとんど絶滅状態で、母島の猪熊谷や石門周辺に僅かな個体が飛んでいただけであった。グリーンアノールは昼行性の小昆虫を片っ端から捕食していって、犠牲になったのはオガサワラシジミばかりではなかった。

このままでは絶滅は避けられなくなった2005年に、多摩動物公園とさらに2019年からは新宿御苑で累代飼育を開始したが、2020年の8月に飼育個体が全滅した。小笠原においても、何度かの調査の結果、棲息は確認できず、オガサワラシジミは地球上から姿を消した。

環境省は、2008年に本種を種の保存法に基づく、国内希少野生動植物種に指定して、標本の譲渡や生体の飼育を禁じるという、愚かな措置をおこなっているので、速やかに指定を解除しないと、標本所持者が亡くなると、売ることも無償譲渡もできない標本(博物館に寄付することはできるけれど、手続きが面倒で、寄付者にとっては何のメリットもない)は残された家族にとってはゴミなので、廃棄される運命にある。何度も指摘してきたように、種の保存法は昆虫類に限って言えば、貴重標本廃棄法なのである。

さらに、一般人が飼育できないので、公共機関のみでの累代飼育という事になるが、公共機関には必ずしも飼育の名人がいるとは限らず、多くの場合、今回のように失敗に終わる。昆虫愛好家の中には神様のように飼育の上手い人がいて、そういう人にも飼育の機会を与えておけば、絶滅は免れていた可能性が高い。

環境省は累代飼育の結果、近交弱勢が現れて絶滅したと言っているが、通常、近交弱勢は、5~6世代も経てば現れるので、20世代後に絶滅したのは、何かほかに原因があったのかもしれない。穿って考えると、民間にも飼育を許可した結果、環境省の管轄下での累代飼育は失敗したが、民間の中には首尾よく行っているところがあるとすると、メンツが丸つぶれになるので、累代飼育はすべて環境省の管轄下で行いたいと思っているのかもしれない。

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沖縄のやんばるの森に、オキナワマルバネクワガタという国内希少野生動植物種に指定されている種が棲息している。オガサワラシジミと同様に採集も飼育も生体や標本の譲渡も禁止というクワガタムシである。私の沖縄の友人で、この種を指定前から累代飼育している人がいる。環境省も指定前から飼育している人に限っては、累代飼育を認めているが、生体や標本の譲渡は禁止である。

ところが、この友人はクワガタ飼育の名人で、どんどん増えて困っているようだ。他人に譲渡できないので、どうしようもないのだ。この友人に何かあったら、この累代飼育系列は途絶えてしまう。希望者に配ってあちこちで飼育をしてもらえれば、絶滅リスクは回避できる。野外から採集してくるわけではないので、野外個体群に対する侵襲はない。

累代飼育している個体を譲渡できない理由が私には理解できない。もし、野外個体群が絶滅したら、種の絶滅を回避する頼みの綱は飼育個体だけだ。“種の保存法”というのは、名前とは裏腹に”種の絶滅促進法”だと思わざるを得ない。

(『池田清彦のやせ我慢日記』2021年11月26日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください)

 

image by: Shutterstock.com

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