前回の記事『国民が注目。フィリピン大統領選でドゥテルテの娘が使う大胆裏技』で「フィリピンのトランプ」の異名を持つドゥテルテ氏の一族のドタバタ劇を紹介した、フィリピン中部のセブに住む日本人・トム爺さん。自身の無料メルマガ『出たっきり邦人【アジア編】』の中で、ドゥテルテ父娘が用意した周到なプロジェクトなのかもしれないと危惧しています。
ドゥテちゃんの秘策 奇策2
前回の続編かな
【関連】国民が注目。フィリピン大統領選でドゥテルテの娘が使う大胆裏技
来年2022年5月に行われる大統領選挙立候補は一度締め切られた。
再選が憲法で認められていないため、「よし副大統領に立候補しちゃおう!」などと画策したドゥテルテ大統領。皆からの批判バッシングにあえなく断念。すねて「政界を引退してやる!」とまで発言(まあこれは誰も信じちゃいなかった)。
大統領選に当初意欲を見せていたドゥテルテ大統領の娘・サラちゃん。父ちゃんが突然副大統領に立候補すると言った途端、「父娘で立候補はありえない。ドゥテルテ家からは1人しかでない!」と言ったっきりだんまり。結果サラちゃんは期限までに立候補しなかった(まあこれも誰も信じちゃいなかったんだけど。)
立候補が締め切られてからも世論の一番人気は相変わらずサラちゃん。
フィリピンではすでに立候補している人間と差し替わるという嘘のような裏技があり、その締め切りの11月15日までに彼女が立候補するだろうと皆が思ってた。
と、ここまでが前回のお話。
サラちゃんはダバオ市長再選を目指すと言っていたのだが、11月9日突然市長立候補の座を弟に譲り父ちゃんとは別の政党ラカスに入党。立候補したのは何と「副大統領選」。
ドゥテちゃんのほうは副大統領選に立候補させていた側近のゴー上院議員を、大統領選に鞍替えさせ自分が副大統領選に立候補すると匂わせておきながら結局上院議員に立候補した。
ドゥテちゃんアンタ政界引退するって言ってたよね…。
そんなドゥテちゃんはサラちゃんについて。
「立候補するなんぞ聞いとらん。そもそも最近話もしとらん。あいつは何で世論調査で一番人気だったのに副大統領なんだ?マルコス陣営が何か動いてんじゃねえか!?」
などと不快感まるだし、自分はマルコス元大統領息子のボンボン(これは通称)マルコスではなくゴー氏を応援すると表明。
「ボンボンマルコスなんてやつは甘やかされた息子(まさにボンボン)で危機対応もできない弱いリーダーだ!」~とさ。相変わらずだね
とまあ、これだけ見ると「ドゥテルテ家 マイペース父娘のドタバタ喜劇」だが恐らくうまーく世論を煙に巻いた周到なプロジェクトが繰り広げられている気がする。
まずドゥテちゃん。政界引退なんぞしないしない。フィリピンでは歴代大統領が任期後、次の政権から追訴、投獄されることが多いエストラーダやアロヨちゃんもそうだな。
ドゥテちゃんも過激麻薬撲滅政策によりかなりの人間が司法手続き無しで殺害されたことが世界的にバッシングされ、国内だけでなくすでに国際刑事裁判所が捜査を開始していると言われている。引退した途端に数々の裁判が待っていることになる。
次にボンボンマルコス上院議員。はっきり言って彼自身の政治的手腕、指導力、説得力、カリスマ性すべてにおいてま~ったくといって目立たない人だ。残念ながら。
彼の父はいわずと知れたマルコス元大統領。何十年にもわたり独裁政治を続け政敵アキノ氏の暗殺にもかかわったとされた。アキノ氏の妻(後のアキノ大統領)を中心湧き上がったピープルパワー革命により贅沢三昧の奥さんイメルダ婦人と共にマラカニアン宮殿から追い出されハワイに亡命。
対外的には悪政とされていたマルコス政権だが、実は結構「あの頃は良かった」という国民も多い。インフラ整備とか結構すごいことやってたしと。あれほど革命だ革命だと駆り立てられて誕生した政権も、結局貧富の差が縮まることなく今にいたってるじゃねえかという意見もある。
実はドゥテルテ大統領もマルコス政権大絶賛派である。戒厳令を敷いてまで反政府運動を弾圧した独裁マルコス大統領の遺体を反対派を押し切ってマニラの英雄墓碑に埋葬することを認めたのが何を隠そうドゥテちゃんだった。
歴代大統領の誰もが決して許さなかったことをあっさりと。マルコス一家とドゥテルテ一家の親交はここで深まったといえる。
そしてサラちゃん。迫力、人気はピカ一。でもまだそれはやっぱり父ちゃんの七光りが否めない。本人はとってもアグレッシブ。独立心旺盛。トップになる気満々。
が、ちょっと待てよ。同家族から続けて大統領が誕生しては、反対勢力がこぞって彼女をつぶしにかかる。父ちゃんの影がチラチラしている今は時期早々?彼女が父に従順でないことは十分アピールできた。ここは副大統領で、時期大統領選に華々しく登場した方がよくない?
長々と書いてきたが何となーく見えてこない?
マルコス前政権が倒れてから30年以上。今やマルコス前政権の悪評なぞ知らない世代がメインになってきた。元々旧マルコス政権を絶賛する一派がいるのに加えサラちゃんが副大統領選に鞍替えしたことで、ドゥテルテ派のファンが一斉にマルコス上院議員に流れたことは想像通り。
ボンボンマルコス大統領、サラドゥテルテ副大統領、ドゥテルテ上院議員とくればドゥテちゃん一家は磐石ドゥテちゃんが刑事訴追されることはほぼない。少なくとも6年は。次の大統領選でサラちゃんが大統領に出れば更に6年。
その頃には世間はドゥテちゃんの麻薬撲滅政策が何だかも忘れてしまうんじゃないか。
まああくまでも仮説だけどね。
そこまで見越してのこのドタバタ喜劇としたら、妙に納得させられる。うまいね。なんだかんだ言って、マルコス家もドゥテルテ家も根っからの政治家一家だ。
今や世論は「大統領マルコス&副大統領サラドゥテルテ!」このコンビが一番人気。
まんまとしてやられている感が否めない…。
可哀想なのはドゥテちゃん側近のゴーさんよ。ドゥテちゃんに促されてサラちゃんと差し替わる風に副大統領に立候補させられるもサラちゃんの副大統領立候補と同時に大統領選に鞍替えさせられる。しかし彼が当選するとはだ~れも思っていないという…。何とも気の毒だ…。
著者/トム爺(「ビサヤン天国 ―体力と忍耐と―」連載。フィリピン・セブ在住)
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