しかし、ゆみ子さんにはブランクがあるため、夫と同じようにはできませんでした。そこで、わからないことはすべて夫に聞くことに。病室の夫の横に座り、メモを取りながら、レシピを習得していきました。病室が講義の会場となったのです。
不安がるゆみ子さんに、夫はこう言います。
「母さんの料理は美味しいから大丈夫だよ」。
この言葉に勇気づけられ、娘と一緒に頑張ることができたのです。
しかし、「夫と同じ味を出せなければ、お客さまが離れてしまう」という恐怖心もありました。自分の味ではダメ。夫の味でなければ、常連さんに認めてもらえない。夫にも褒めてもらいたい。そんな想いを胸に、さらなる努力を重ねます。
夫が入院してから、一時的に離れていたお客さまも徐々に戻って来てくれました。
お客さまは言います。
「ちゃんとお父さんの味です」
「他のハンバーグはイヤ」
「圧倒的に1位です」
夫の築いた洋食屋さんを潰すことなく、守ることができたのです。
夫が戻って来るまで頑張るつもりでしたが、夫は帰らぬ人となったので、これからは母と娘のお店として、お客さまに満足を提供し続けることでしょう。
創業10年の町の小さな洋食屋さんですが、そこには、老舗を守る人たちにも似た、物語があったのです。
image by: Shutterstock.com
ページ: 1 2