MAG2 NEWS MENU

中国に世界の常識は通じない。日本企業は「政経分離」の餌食になる

何よりもメンツを重んじるとも言われる中国にとって、これ以上広がることはなんとしてでも避けたい北京冬季五輪への外交的ボイコット。岸田首相も閣僚の派遣を見送る方向で調整しているとされますが、日本政府が苦しい立場に置かれていることは間違いないようです。今回、外務省や国連機関とも繋がりを持ち国際政治を熟知するアッズーリ氏は、実例を挙げつつ習近平政権のもとで政経分離が揺らぎ始めている実態を紹介。さらに岸田政権の対中姿勢如何では、日本企業が政教分離崩壊の餌食になる恐れも十分あり得るとしています。

習政権で揺らぐ政経分離と日本への影響

欧米と中国との関係が先鋭化するなか、岸田政権の外交的立ち位置は困難になるばかりだ。バイデン政権は発足当初から、来年2月の北京五輪の外交的ボイコットをちらつかせてきたが、それに向けて本格的に乗り出した。米国議会下院では5月、中国政府によるウイグル人権侵害などを背景に外交的ボイコットを行うよう呼び掛けられ、欧州議会では7月、それを実行する加盟国に求める決議が採択された。英国のタイムズ紙やオーストラリアのシドニー・モーニング・ヘラルド紙も11月、ジョンソン政権とモリソン政権が集団的ボイコットを実行するよう検討に入ったと報道しており、外交ボイコット論は岸田政権が初めに直面する大きな分岐点になりそうだ。

欧米との対立が激しくなればなるほど、中国は日本の選択をより見極めることになる。安全保障的に考え、日本が米国陣営をキープにすることは間違いないので、その中でどうやって安定的かつ建設的な日中関係を維持できるかが実際の問題となる。しかし、習政権の力が肥大化するにつれ、中国では軍民融合が進み、政経分離が揺らいで来ているように映る。

最近、それを臭わせる出来事が報道された。中国の国営新華社通信は11月22日、中国当局が台湾企業「遠東集団(ファーイースタン・グループ)」が投資する国内の化学繊維企業やセメント企業において、環境保護や商品の品質などで法令違反があったとして、遠東集団に対して総額8,862万元(約16億円)の罰金を科したと報道した。遠東集団は1949年に設立され、現在では240社あまりを構成する台湾を代表する企業である。新華社通信によると、罰金の理由として法令違反を強調したが、同時に中国政府は、遠東集団が去年の台湾立法委員選挙の際に、民進党(中国と対立する蔡英文政権)から出馬した候補者たちに5,800万台湾元(約2億4,000万円)もの金額を寄付したことを挙げ、中国で展開する台湾企業は独立勢力と関係を断つ必要があり、そういった者が大陸で金を稼ぐことは絶対に認めないと強く牽制したのだ。

この出来事のポイントは、習政権が政治的に不快に感じる事をすれば、経済的制裁が加えられるというリスクである。中国は以前の中国ではない。昔は米国や日本からの経済援助を必要としていたが、今日では米国に経済的に迫る大国である。色々と反発や抵抗に遭っているものの、巨大経済圏構想一帯一路を着実に進め、ワクチン外交の展開もあり、中国による支援なしには国家発展が見込めない中小国も増加の一途を辿っている。要は、それだけ中国は二国間関係において“政治的余裕”を獲得しているのである。おそらく、今日の習政権は米国以外の国に対しては、“どのような選択をするのもあなた方の自由だが、我々はそれ相応の対応を取りますよ”と思っているだろう。

政治と経済は別問題と捉える日本経済界の旧態依然

そして、これを現在の日中関係に落とし込めると、中国に展開する日本企業には大きなリスクが生じていると言える。日本は最近、半導体誘致で熊本県に工場を作る動きを進めているが、それは、経済安全保障上、台湾と関係を強化していることを意味する。よって、習政権は対中で日本が半導体サプライチェーンを強化していると認識し、それによって中国に展開する日本企業に金銭的な罰金を科してきても不思議ではない。日本政府が台湾独立を支持するというような発言をしなくても、それに見合う姿勢を示せば、よりその可能性は高まるだろう。

しかし、それでも中国は日本企業にとって重要な市場であることに変わりがなく、依然として日本企業の中国進出は勢いを持っている。将来的なチャイナリスクを考え、ベトナムやタイなどASEANへのシェアを拡大し、リスク最小化を検討する企業も増えてはいるだろうが、日本経済界の中にはまだまだ政治と経済は別問題と捉える伝統的考えが根強い。だが、それは時代とともに変化するものであり、日本企業はこれまで以上に政経分離が中国で揺らいできていることを一日も早く認識するべきだ。それは、欧米と中国との対立が先鋭化すればするほどリスクは上昇する。

また、日本の高度経済成長の時代、米国では日米貿易摩擦が発生したが、米国の保護主義的な動きも強まるなか、仮に米国が対中政策で日本が同調しないなどとの認識を強めれば、日米貿易摩擦の再来は考えにくいにしても、小規模ながらも日米間で摩擦が生じてくる可能性もある。

いずれにせよ、中国は岸田政権の対中姿勢を注視している。それによって政経分離のハードルも上げ下げが生じ、場合によって日本企業が政経分離の崩壊の餌食になってしまう恐れがあろう。

image by: lessia Pierdomenico / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け