死者30万人と出費2兆ドル。大国アメリカが払った犠牲、失った信頼

 

政権内の安全保障担当の高官によると、「訓練要員を残すのが、アフガニスタンとの違いだが、恐らくこの決定により、中東地域におけるアメリカの影響力の低下は否めないだろう」とのことでした。一応、表向きには「サウジアラビア王国やUAEといったアラブ諸国の同盟国に、地域の安全保障を任せたい」というアラブのアメリカからの自立を促したと言われていますが、実際には地域の混乱を深める結果になってきているようです。

イエメンではサウジアラビア王国が軍事介入したことで戦争が泥沼化し、それがサウジアラビア王国の影響力を削ぐということになっていますし、アメリカの同盟国エジプトでは、民主主義どころかシシ大統領による独裁政治が伸長しています。そして、アラブ諸国が警戒を強めるイスラム教シーア派の雄、イランの影響力は高まるばかりです。

トランプ政権下で、対イランを念頭に、イスラエルとUAE、オマーンなどとの国交樹立というウルトラCが成立し、いずれはスンニ派の雄であるサウジアラビア王国も、パレスチナ問題に解決の兆しを感じるようなことがあれば、イスラエルとの和解に乗り出すかもしれないという期待が語られたこともありました。

しかし、この流れは今、米軍のイラクからの完全撤退を受けて、リバースしているようです。その例が、サウジアラビア王国やUAEといった反イラン国が、次々と対立を棚上げしてイランとの対話に乗り出しています。この背景には、隣国イラクに存在した米軍という、対イランの重しがなくなることで、一気にイランの影響力が高まるという、地域各国の読みがあるようです。

言い換えると、アメリカなき地域において、イランと本気で戦う気がある“敵”と言えばイスラエルくらいしかなく、イランの影響力の伸長により、これまで散発的にあった革命防衛隊によるサウジアラビア王国やUAEへの攻撃(ドローン)が日常化する恐れがあるという分析をしているようです。

こうなると打てる手は、イスラエルと手を結ぶか、それともイランと一時休戦するか、の2択になるかと考えますが、アラブ諸国は、まだ一枚岩でイスラエル支持はしておらず、国交樹立したUAEでさえも、安全保障面での協力には抵抗があるようです。しかし、イランとの一時的休戦もまた、これまでの反イランポジションから考えると非常に困難なチョイスです。

そこでUAEもサウジアラビア王国も、水面下でイランのライシ政権に接触し、イランがアラブ諸国との対立を同じく棚上げし、地域の安定化において協力できるか否か、確かめに行っているのだと考えられます。

いくつかの情報筋から聞くと、イラン側の反応は友好的で、地域の安全と安定のために手を携える用意があると答えたらしいのですが、イラン側の意図はどこにあるのでしょうか?

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