プーチンだけが悪なのか?元国連紛争調停官が読むウクライナ危機の真実

 

コロナのパンデミックは国際紛争を減少させたり、一時的な停戦をもたらしたりするかと思われたが、実際には増加した

実際には、コロナ禍に世界が苦しむ中、紛争は著しく増加しました。ナゴルノ・カラバフ紛争、ミャンマーやスーダンでのクーデター、エチオピアのティグレイ紛争、タイ深南部のポンドュック紛争、ベラルーシ問題…。そして、アメリカ・バイデン政権によるアフガニスタンからの米軍の撤退は、アフガニスタンをまた混乱の渦に叩き落としました。

ISIS-Kによるアフガニスタンでのテロ攻撃の激化、タリバン勢力による不安定な支配と終わらない北部同盟との闘いは、国民をまた恐怖に陥れています。アメリカが去り、欧州各国も去り、その力の空白に中国とロシアが入り込み、アフガニスタンを国家資本主義体制に引きずり込むための企てを連発しています。

アフガニスタンからの撤退は失敗だと思われますが、同時に撤退を強行しなければ、いつまでもアメリカとその同盟国は、アフガニスタンの泥沼にどっぷりと浸かり、“アフガニスタンの民主化”という見果てぬ夢を追い求め、抜け出すタイミングを失っただろうとも評価しています。

そしてまた12月、アメリカはイラクから戦闘部隊を完全撤退させました。一応、イラク軍を訓練する人員は残していますが、実質的には“イラクをめちゃくちゃに、見捨てた”と言えるかもしれません。内政は混乱し、権力闘争を再燃させ、まだISを元気づけるだけの基礎を与えました。アフガニスタン情勢にも、イラク紛争にも関わった身としては、かなり寂しい結果だったと思います。

そしてこのアメリカ軍の撤退は、アメリカの国際社会における影響力の低下と限界を鮮明にし、同盟国を不安にさせる要因にもなったと思われます。アメリカの弱体化と捉えられるかもしれません。

国内でシェール革命が起きて、エネルギー安全保障上、中東地域への依存度が著しく低下したこととも合わせ、アメリカの中東への関心は薄れ、中東離れが一気に加速しました。これまでサウジアラビア王国を軸に中東諸国に同盟国・友好関係を築いてきましたが、アメリカの外交・安全保障政策の転換は、中東情勢の不安定化を招くきっかけになるかもしれません。

アメリカという錘がなきアラビア半島は、中国やロシアへの傾倒を招くか、中東のリシャッフルを招くか、今、今後が読めない状況になっています。それゆえでしょうか。ずっと敵対関係にあり、緊張関係を保ってきたイランとサウジアラビア、UAEが、一旦、敵対関係を棚上げし、協議を通して、中東情勢の不安定化を未然に防ぐべく、協力する方向に傾いています。

協力すること自体はいいことだとは思うのですが、このunified中東の背後に中ロの影響がべったりとくっつき、欧米vs.中ロの対立の最前線になるような事態になれば、かつてアラビア半島に悲劇をもたらしたサイクスピコ協定のような状況が待っているかもしれません。

イラン情勢、そしてイスラエルとアラブ諸国との関係、いろいろな不確定要素は存在しますが、今後、中東・アラビア半島情勢がどうなっていくのか、とても注目しています。

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