プーチンだけが悪なのか?元国連紛争調停官が読むウクライナ危機の真実

 

地政学大国・ロシアは健在か?ロシアに挑戦するトルコ

アルメニアとアゼルバイジャンの間で長年争われてきたナゴルノ・カラバフの帰属問題に“答え”が出ました。ソビエト連邦崩壊の直前、1989年に両国間で争われた際にはアルメニアが勝利し、アルメニア系の人々が移り住み、ナゴルノ・カラバフを実効支配しました。

そのデリケートなバランスが崩れたのが、今回のナゴルノ・カラバフ紛争ですが、今ラウンドは、最新鋭兵器の供与と軍の派遣を迅速に行ったトルコを後ろ盾にしたアゼルバイジャンが、自国領内の戦略的拠点であるナゴルノ・カラバフ一帯を“取戻し”ました。

ロシアから欧州につながる天然ガスとオイルのパイプラインが通るナゴルノ・カラバフを握ることは、アゼルバイジャンはもちろん、エネルギー需要の高まりに応えられなくなってきていたトルコにとっても重要で、同じトルコ系の同胞の国であるアゼルバイジャンへの重厚な肩入れに踏み切りました。

この戦略の転換は、ロシアの裏庭ともいえる中央アジア・コーカサス地方へのトルコの伸長をも意味し、それを許したロシアの退潮を印象付ける事案として認識されました。その後、トルコは“トルコ系”民族の国々への影響力を高め、中央アジアにおいてロシアと中国との三つ巴の戦いをし、覇権の拡大を狙っているようです。

そのトルコはまた、リビア、シリア、エチオピアなどのアフリカの紛争にドローン兵器を供与し、東アフリカから北アフリカに伸びる諸国への肩入れも本格化しています。

ロシアとしては今、トルコに対してあからさまに反抗することなく、エルドアン大統領の行き過ぎた行動には警告を発するものの、対欧米の戦いの大事な“パートナー”として慎重に扱っています。

そのロシアは、夏ごろからの天然ガス価格の異常なまでの高騰を受け、欧州向けの天然ガスパイプラインという戦略的なカードを通じて、地政学大国として息を吹き返しました。ウクライナ問題に対してロシア批判を繰り返す欧州各国ののど元に、エネルギー供給のコントロールというナイフを突きつけて、対ロ制裁を無力化する狙いがあります。

それを可能にしているもう一つの大きな要因は、中国との戦略的な接近でしょう。反米という旗印の下、中国との協力を深め、シベリアにおいては天然ガスおよび原油の供給を通じて、経済的な利益を中国から得る仕組みを確立し、また外交フロントにおいて、共同歩調をとる状況を作り出しています。ロシアを再度地政学大国として強気にさせている要因がここにあると言えるでしょう。

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