ウクライナ問題をめぐる攻防
ウクライナ情勢が秋以降、一気に緊迫化し、今は国境地帯に10万人を超えるロシア軍が展開されており、一触即発の緊張感が漂っています。
欧米諸国は挙ってロシアの行動を非難し、武力行使に至った場合には“重大な状況”に直面すると脅しています。バイデン政権は、武力行使の可能性も排除しないとの姿勢を明確にしておくべきかと思いますが、実際には経済制裁の強化くらいしか、その“重大な状況”を示す脅しは効いていません。しかし、対ロ経済制裁は、ロシア国内の対政府(対プーチン)感情を悪化させているとはいえ、中国などからの協力の存在ゆえに、さほど効いていないと言えます。
ゆえに、プーチン大統領は対欧米で強硬姿勢を継続し、NATO勢力の中東欧からの撤退や“スタン系”への影響力の排除といった、すでに経済的な利権を有する(注:ソ連崩壊後の10年間に欧米諸国が隙を狙って獲得した権益)欧米諸国が受け入れることがない条件を突き付けてもやっていける理由になっています。
ところでこのウクライナ情勢ですが、本当にロシアが一方的に悪いのでしょうか?実際にはウクライナ軍はいたるところで攻撃を加えていますし、2014年にロシアが影響力を拡大したクリミア半島周辺に対しても、継続的な攻撃と圧力を加えています。つまり、ロシアの脅威にウクライナが何もせずに怯えているのではなく、実際にはすでにロシアとの緊張状態を自らも作り出している状況です。
とはいえ、あくまでも国内の話ですので、正当な防衛とも理解できますが、2014年にロシアが侵攻して迅速に影響力を獲得したエリアは、基本的にロシア人が大多数を占めるエリアで、彼らは自らをロシア人と認識し、ウクライナ人とは考えていないようなエリアです。
ロシア人の権利を守るという名目のもとに介入したプーチン大統領としては、ウクライナ、そして欧米諸国からの批判や圧力に屈してロシア人を見捨てるような事態は、政権と権力の維持の観点から、到底受け入れられない条件です。
しかし、ロシアが圧力をかけても、ウクライナに侵攻して領土拡大を画策するような事態も考えづらいのも事実でしょう。クリミア半島およびウクライナ東部を除き(どちらもすでにプレゼンスを回復)、ウクライナにロシアを解放者と見なす勢力は存在しないため、圧倒的な武力で制圧したとしても、非常に反抗的な人たちを押さえつけて服従させる力は、経済的な観点からはもうロシアにはないと言えます。
それをプーチン大統領も、クレムリンの周辺も、しっかりと認識していますが、果たして国境線に展開中の部隊にまでその意識が共有されているかは未知数であると言え、一触即発の危機は存在すると言えます。
ロシアとしては地政学大国としての復興をイメージづけるためには退くことのできない戦いと言えますし、欧米諸国にとってもロシアの勢力の伸長を許すわけにはいかないとの事情から、退くことのできない戦いと認識されています。今後の展開が気になるところです。
(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2021年12月24日号より一部抜粋。この続きをお読みになりたい方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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