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プーチンだけが悪なのか?元国連紛争調停官が読むウクライナ危機の真実

2020年に引き続き、新型コロナウイルスに翻弄された2021年。コロナでほとんどの時期、国際的な移動には制約がある状態が続きました。それでも、争いの種がしぼむことはなく、それどころか紛争は増加したと見ているのは、元国連紛争調停官の島田久仁彦さんです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』は、2021年の国際情勢を総括。ここでは、米軍の撤退で変化の兆しがある中東情勢と、中央アジア・コーカサス地方でロシアに挑むトルコの動き、そのロシアと西側諸国が激しくせめぎ合うウクライナ情勢についての分析を試みています。

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混乱極まった2021年の国際情勢

今年もまたコロナに翻弄された1年でした。コロナは中国が感染源と言われていますが、その中国はいち早くコロナの波を乗り切って、予想よりも早く経済活動を再開することが出来たと“言われて”います。

しかし、オミクロン株が流行しだすと、国内での感染がまた広がっており、また予断を許さない状況に陥り、今後、習近平国家主席が推し進める言論の自由の抑圧、富裕層への抑圧、そして終わりの見えない米中対立などの影響と相まって、経済成長の鈍化が懸念されています。

欧米諸国はデルタ株の波が去ったと判断し、秋には規制をことごとく緩めましたが、今、オミクロン株感染が加速度的に増加しており、この年末年始の書き入れ時を打撃するという悩ましい状況になっています。しばらくはこの影響は続き、恐らく2022年前半の経済も打撃を受けることになると思われます。

そんな中、日本は、皆無ではないですが、オミクロン株の影響は“まだ”小さいと思われ、感染が抑えられている現況に対し、他国から良くも悪くも謎だと捉えられているようです。今後、帰省が本格化してくると、それもどうなるか分かりませんが。世界はまだしばらく、コロナの影響に翻弄されるようです。

ところで、コロナのパンデミックがWHOによって宣言された当初、安全保障コミュニティでは「恐らく国境を越えた紛争は、移動制限のおかげで、減るか一時休戦になるだろう」と考えられていました。私もいろいろな情報にアクセスできるにもかかわらず、そう信じていました。今となっては完全に希望的観測だったのだと思います。

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コロナのパンデミックは国際紛争を減少させたり、一時的な停戦をもたらしたりするかと思われたが、実際には増加した

実際には、コロナ禍に世界が苦しむ中、紛争は著しく増加しました。ナゴルノ・カラバフ紛争、ミャンマーやスーダンでのクーデター、エチオピアのティグレイ紛争、タイ深南部のポンドュック紛争、ベラルーシ問題…。そして、アメリカ・バイデン政権によるアフガニスタンからの米軍の撤退は、アフガニスタンをまた混乱の渦に叩き落としました。

ISIS-Kによるアフガニスタンでのテロ攻撃の激化、タリバン勢力による不安定な支配と終わらない北部同盟との闘いは、国民をまた恐怖に陥れています。アメリカが去り、欧州各国も去り、その力の空白に中国とロシアが入り込み、アフガニスタンを国家資本主義体制に引きずり込むための企てを連発しています。

アフガニスタンからの撤退は失敗だと思われますが、同時に撤退を強行しなければ、いつまでもアメリカとその同盟国は、アフガニスタンの泥沼にどっぷりと浸かり、“アフガニスタンの民主化”という見果てぬ夢を追い求め、抜け出すタイミングを失っただろうとも評価しています。

そしてまた12月、アメリカはイラクから戦闘部隊を完全撤退させました。一応、イラク軍を訓練する人員は残していますが、実質的には“イラクをめちゃくちゃに、見捨てた”と言えるかもしれません。内政は混乱し、権力闘争を再燃させ、まだISを元気づけるだけの基礎を与えました。アフガニスタン情勢にも、イラク紛争にも関わった身としては、かなり寂しい結果だったと思います。

そしてこのアメリカ軍の撤退は、アメリカの国際社会における影響力の低下と限界を鮮明にし、同盟国を不安にさせる要因にもなったと思われます。アメリカの弱体化と捉えられるかもしれません。

国内でシェール革命が起きて、エネルギー安全保障上、中東地域への依存度が著しく低下したこととも合わせ、アメリカの中東への関心は薄れ、中東離れが一気に加速しました。これまでサウジアラビア王国を軸に中東諸国に同盟国・友好関係を築いてきましたが、アメリカの外交・安全保障政策の転換は、中東情勢の不安定化を招くきっかけになるかもしれません。

アメリカという錘がなきアラビア半島は、中国やロシアへの傾倒を招くか、中東のリシャッフルを招くか、今、今後が読めない状況になっています。それゆえでしょうか。ずっと敵対関係にあり、緊張関係を保ってきたイランとサウジアラビア、UAEが、一旦、敵対関係を棚上げし、協議を通して、中東情勢の不安定化を未然に防ぐべく、協力する方向に傾いています。

協力すること自体はいいことだとは思うのですが、このunified中東の背後に中ロの影響がべったりとくっつき、欧米vs.中ロの対立の最前線になるような事態になれば、かつてアラビア半島に悲劇をもたらしたサイクスピコ協定のような状況が待っているかもしれません。

イラン情勢、そしてイスラエルとアラブ諸国との関係、いろいろな不確定要素は存在しますが、今後、中東・アラビア半島情勢がどうなっていくのか、とても注目しています。

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地政学大国・ロシアは健在か?ロシアに挑戦するトルコ

アルメニアとアゼルバイジャンの間で長年争われてきたナゴルノ・カラバフの帰属問題に“答え”が出ました。ソビエト連邦崩壊の直前、1989年に両国間で争われた際にはアルメニアが勝利し、アルメニア系の人々が移り住み、ナゴルノ・カラバフを実効支配しました。

そのデリケートなバランスが崩れたのが、今回のナゴルノ・カラバフ紛争ですが、今ラウンドは、最新鋭兵器の供与と軍の派遣を迅速に行ったトルコを後ろ盾にしたアゼルバイジャンが、自国領内の戦略的拠点であるナゴルノ・カラバフ一帯を“取戻し”ました。

ロシアから欧州につながる天然ガスとオイルのパイプラインが通るナゴルノ・カラバフを握ることは、アゼルバイジャンはもちろん、エネルギー需要の高まりに応えられなくなってきていたトルコにとっても重要で、同じトルコ系の同胞の国であるアゼルバイジャンへの重厚な肩入れに踏み切りました。

この戦略の転換は、ロシアの裏庭ともいえる中央アジア・コーカサス地方へのトルコの伸長をも意味し、それを許したロシアの退潮を印象付ける事案として認識されました。その後、トルコは“トルコ系”民族の国々への影響力を高め、中央アジアにおいてロシアと中国との三つ巴の戦いをし、覇権の拡大を狙っているようです。

そのトルコはまた、リビア、シリア、エチオピアなどのアフリカの紛争にドローン兵器を供与し、東アフリカから北アフリカに伸びる諸国への肩入れも本格化しています。

ロシアとしては今、トルコに対してあからさまに反抗することなく、エルドアン大統領の行き過ぎた行動には警告を発するものの、対欧米の戦いの大事な“パートナー”として慎重に扱っています。

そのロシアは、夏ごろからの天然ガス価格の異常なまでの高騰を受け、欧州向けの天然ガスパイプラインという戦略的なカードを通じて、地政学大国として息を吹き返しました。ウクライナ問題に対してロシア批判を繰り返す欧州各国ののど元に、エネルギー供給のコントロールというナイフを突きつけて、対ロ制裁を無力化する狙いがあります。

それを可能にしているもう一つの大きな要因は、中国との戦略的な接近でしょう。反米という旗印の下、中国との協力を深め、シベリアにおいては天然ガスおよび原油の供給を通じて、経済的な利益を中国から得る仕組みを確立し、また外交フロントにおいて、共同歩調をとる状況を作り出しています。ロシアを再度地政学大国として強気にさせている要因がここにあると言えるでしょう。

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ウクライナ問題をめぐる攻防

ウクライナ情勢が秋以降、一気に緊迫化し、今は国境地帯に10万人を超えるロシア軍が展開されており、一触即発の緊張感が漂っています。

欧米諸国は挙ってロシアの行動を非難し、武力行使に至った場合には“重大な状況”に直面すると脅しています。バイデン政権は、武力行使の可能性も排除しないとの姿勢を明確にしておくべきかと思いますが、実際には経済制裁の強化くらいしか、その“重大な状況”を示す脅しは効いていません。しかし、対ロ経済制裁は、ロシア国内の対政府(対プーチン)感情を悪化させているとはいえ、中国などからの協力の存在ゆえに、さほど効いていないと言えます。

ゆえに、プーチン大統領は対欧米で強硬姿勢を継続し、NATO勢力の中東欧からの撤退や“スタン系”への影響力の排除といった、すでに経済的な利権を有する(注:ソ連崩壊後の10年間に欧米諸国が隙を狙って獲得した権益)欧米諸国が受け入れることがない条件を突き付けてもやっていける理由になっています。

ところでこのウクライナ情勢ですが、本当にロシアが一方的に悪いのでしょうか?実際にはウクライナ軍はいたるところで攻撃を加えていますし、2014年にロシアが影響力を拡大したクリミア半島周辺に対しても、継続的な攻撃と圧力を加えています。つまり、ロシアの脅威にウクライナが何もせずに怯えているのではなく、実際にはすでにロシアとの緊張状態を自らも作り出している状況です。

とはいえ、あくまでも国内の話ですので、正当な防衛とも理解できますが、2014年にロシアが侵攻して迅速に影響力を獲得したエリアは、基本的にロシア人が大多数を占めるエリアで、彼らは自らをロシア人と認識し、ウクライナ人とは考えていないようなエリアです。

ロシア人の権利を守るという名目のもとに介入したプーチン大統領としては、ウクライナ、そして欧米諸国からの批判や圧力に屈してロシア人を見捨てるような事態は、政権と権力の維持の観点から、到底受け入れられない条件です。

しかし、ロシアが圧力をかけても、ウクライナに侵攻して領土拡大を画策するような事態も考えづらいのも事実でしょう。クリミア半島およびウクライナ東部を除き(どちらもすでにプレゼンスを回復)、ウクライナにロシアを解放者と見なす勢力は存在しないため、圧倒的な武力で制圧したとしても、非常に反抗的な人たちを押さえつけて服従させる力は、経済的な観点からはもうロシアにはないと言えます。

それをプーチン大統領も、クレムリンの周辺も、しっかりと認識していますが、果たして国境線に展開中の部隊にまでその意識が共有されているかは未知数であると言え、一触即発の危機は存在すると言えます。

ロシアとしては地政学大国としての復興をイメージづけるためには退くことのできない戦いと言えますし、欧米諸国にとってもロシアの勢力の伸長を許すわけにはいかないとの事情から、退くことのできない戦いと認識されています。今後の展開が気になるところです。

(メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』2021年12月24日号より一部抜粋。この続きをお読みになりたい方はご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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image by: Sergey Bezgodov / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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