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スポーツ指導の現場で「罰」を求める保護者たち。どう対応すべき?

時代とともに変化する、子供や若者の指導法。しかしながら教える立場の人間や指導を受ける側の保護者の中には、その流れに乗り切れない向きも多いようです。今回のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』に読者の方から届いたのは、厳しい指導を求める親御さんへの対応に悩む少年野球チームのコーチからのご相談。iU情報経営イノベーション専門職大学教授を務める久米さんは、複数の大学で教鞭を執った経験から得た若者を伸ばす指導法を伝授するとともに、「罰的指導」を求める保護者へかけてみるべき言葉を紹介しています。

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オトナの放課後相談室:「罰」はスポーツ指導の現場で本当に必要か?

Question

近所の少年野球チームでコーチをしています。自分が子供の頃は、試合に負けると罰として走らせたり、ノックしたりと、何かにつけて「罰」を与える指導が当たり前でしたが、うちのチームは監督の方針で勝っても負けても、行うのは反省会のみで「罰」的な練習は一切ありません。

確かに試合で疲れ、集中力が切れた後にもう1回練習をさせるのは非効率な気もしますし、何より「負ける」と罰を与えるというのも、変な話だと気付いたワケです。

ただ、そのやり方に不満を持つ保護者もいて、「そんなに甘いやり方じゃ勝負の厳しさが学べない」と、監督がいないところで陰口を聞くことも少なくありません。

ちなみに監督は、「一生懸命練習して負ければ、子供だって悔しいはずだから、必要なのは罰じゃなく、うまくなるための反省とそれを踏まえた課題克服だ」と以前に話していたので、私はそれに共感しています。

何とか監督をフォローしたいのですが、不満を抱える保護者を納得させるいいアプローチはないでしょうか?(神奈川県・45歳、男性)

久米さんからの回答

罰よりも褒めて自発性と創意工夫を育むことが大切。監督も他の保護者に変わって褒めましょう

一応、私も子どもたち(といっても大学生ですが)の指導者の端くれで、日々、試行錯誤を続けております。

そんな私にとって、今年は「大いなる気づき」がありました。

簡単に言うなら「イマドキの子供に一方的で強圧的な指導は効かない。自分で体や心を動かすキッカケを作って、その行動を指導者と仲間とが一体になって褒め続けて、初めて学び始める」ということです。

私は、もともと大学で教え始める前から、経営者向けの講師を25年近く続けてきました。振り返ってみれば、自分自身も中小企業経営者でしたから指導するのは楽だったのです。

経営者のみなさんは、どんな聴衆だったかというと

  1. 誰もが危機に晒され将来に不安を抱いているので命がけで学びに来ている
  2. 自分のお金と時間を使ってきているので一つでも多く学ぼうとしている
  3. どんなことでも言われたことは自分で「すぐやる」覚悟ができている
  4. その新行動が社外や社内から批判され笑われることでも意に介さない
  5. 一度良いと思って始めたら、成果が出るまで「やり抜く」根性がある

経営者向けの講演で話すのは、どこかの教科書に書いていることではなく、すべて私自身が試して成果を出したこと、やろうと思えば今日からお金をかけずに始められる実践的なことばかりでした。だからこそ、誰もが真剣に聴いてくれて、眠る人などいませんし、講演後も 私のブログやSNSなど真剣に読み続けてくれる人がほとんどでした。

つまり、私が2006年に明治大学で教え始めて以来、3つの大学で顔を合わせる学生たちとは、ほぼ真逆と言ってもいい「意識高い系」で「前のめりな人」たちばかりだったのです。

明治大学は今や人気大学で偏差値も高いはずです。しかも私の授業は夜だった上、ベンチャービジネス論というテーマからして、意識高い系しか集まらないような選択科目でした。それなのに、私やゲスト講師が熱く語る授業に参加し続けてくれる学生は最終的に半分ぐらいに減り、レポート提出を続けられず単位を取得できない学生が半分近く出てしまうのです。

いわんや、新興勢力の多摩大学やiU情報経営イノベーション専門職大学では…。

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それでもあきらめず、「学歴や偏差値に関わらず、これさえ習慣化すればきっと役立つ」という具体的な手法など、ひたすら熱く語り続けておりました。

しかし、半分ぐらいの学生は寝ているか、スマホかPCで何か別のことをやっています。さすがにおしゃべりは他の学生の邪魔になるので怒って退出させるなどの罰を与えたこともありますが、さほど効果はありません。

「続ければきっといいことがある」という裏付けとして、私の成功体験なども交えつつ話すと、愚息の意見ではイマドキの若者には「何それ?自慢に見える」とのこと。社会人基礎力協議会代表理事で、私より大学教員経験の長い拓殖大学商学部・長尾素子教授のご意見では「久米さんのように成功したロールモデルを見ても、イマドキの学生は『あれは別の人。あの人だからできた』と冷めてしまう」そうです。

まさに「暖簾に腕押し」。「熱い人ほどウザい」と敬遠されてしまい。がんばればがんばるほど逆効果になる感覚なのです。

一番衝撃的だったのは、iUでは同大学で最重要の必修科目を教えているにも関わらず、しかもレポートさえ出せば単位を出すと言っているのに、提出してくれない学生が2割ほどいることです。私にも大学生の息子がいますので、高い学費を払っている親御さんの気持ちになってしまうと胸が痛くなります。この必修科目の単位を落とすと、進級できず、インターンにも行けないので、結構な「罰」が与えられるはずなのですが、効き目が無いのです。

そこで、今年から始めたことも含め、ここ数年の試行錯誤の結果、ちょっとだけ成果が出ている指導法をお話いたしましょう。

1.私の話は短く済ます。詳細な方法よりヒントだけを伝える

いくら企業経営者や団体のリーダーには役立つ話であろうが、長く話されるのは、もともとヒトの意見を聞いて試す習慣がなく、すぐ眠くなってしまう人には、逆に迷惑な話です。

そこで、私は、具体的なやり方を、事細かく教えるのはやめにして、これからやってもらう課題の説明と、ちょっとしたヒントだけ伝えることにしました。

より具体的なテクニックなどは、課題を学生が発表する時に、その作品を見ながら個別に教えるようにしたのです。そうすると、テクニック等を私が講義形式で一方的に話すよりも、耳を傾けてくれる ようです。

2.学生たちが制作→発表→評価をする時間に振り分ける

私が熱く語る時間を、学生たちが何かをする時間にシフトしました。事前の宿題や事後のレポートを課題にしても、やってくれない学生が多いので、授業時間内で課題制作、発表、評価をしてもらうようにしたのです。

経営者なら「教えない分だけカネを返せ」とクレームするところですが、授業中に時間を与えても課題をやってくれない学生がいるので仕方ありません。

そして、私のお手本披露は最小限にして、なるべく多くの学生に自分の作品を発表してもらいます。上手な学生、いつも課題をすばやく学生に偏らないように、まんべんなく発表してもらうようにしています。

3.私が褒めるだけではなく、クラス全体で褒め合う

イマドキの学生は自己肯定感が低くて自信がありません。人前で自分の意見を言うのも苦手です。でもそれは、オトナや仲間に褒められた経験が、あまりに少ないのだと気づきました。

おじいちゃん子、おばあちゃん子なおかつ、下町コミュニティ育ちで、小さい頃から、あらゆるオトナたちから実力と関係なく褒められてきた私とは大違い(例えば太っているのに体格がいいねえと褒められて自信を持つような)。

ヒトには時として、こうした根拠のない自信が必要なのですが、その大切さを私は今まで理解していませんでした。そこで、どんな作品であれ私は褒めて褒めて褒めまくります。

同時に、学生たちにも発表者へのレビューを書いてもらいます。そこでの注意点は「Yes But法」で、まずは褒めてからアドバイスすること。

これにより、発表者は教員からだけでなく、クラスの仲間から褒められ、認められていると感じることができる のです。

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4.みんな違って、みんないいことを伝える

私が担当している授業は、たった一つの答えを暗記して答えるものではありません。

といった課題を出すので、一人一人答えが違って当たり前なのです。

そこで、なるべく多種多様な発表をみんなの前でしてもらい、どの作品も良いところを探して褒めちぎります。すると学生もマネをして、どの作品にもいいところがあると気づき、積極的に褒めるようになるのです。

いわゆる日本的同調圧力の呪縛を解いてあげることが大切です。

5.発表者との問答で、具体的なアドバイスを伝える

発表を聴いて褒めてイイ気分になってくれたところで、ちょっとした問答をします。それは、本当なら書いてもよいのに、遠慮してなのか書いていない、作者の本心に関わることです。

「この夕陽の写真を撮った時に、どんな気持ちになった?」
「自作のクリームシチューは、どこを工夫しているの?」
「自分の強みに書いていったプログラムってどんなものを作ったの?」

こうして質問すると、緊張がほぐれて笑顔になり、時には自慢気に話をしてくれるのです。

その時の気持ちを、もっと具体的に書いてみようよ。そうすれば、もっと読んだ人に伝わるよ。

そこで興味を示したところで初めて、「写真はこんな風に撮ったらいいよ」「文章はこうしたらどうだろう」と、本来なら講義で伝えたいことを、ワンポイントでアドバイスするのです。

具体的な事例があった方がわかりやすいので、ひとつご紹介しましょう。

多摩大学で「多摩のおすすめ動物」を探してfacebookに投稿する課題を出しました。その結果、こんな投稿記事が集まりました。

1点見つめの猿

学生たちの人気投票で一番人気 だったのは、この「猿」の作品です。

「何枚ぐらい写真を撮った?」と聴くと「この1枚だけ」。

「もっとたくさん撮ろうよ」と言いたい気持ちを押さえて「1枚だけでこの写真を撮れるのはすごいね」と褒めながらアドバイスします。

「他の動物の中で、この猿が一番良かった?」と聴くと「この猿だけ見て帰った」との答え。

「せっかく動物園に行ったんだから、もっとイロイロな動物を見ようよ」とハッパをかけたいところですが、それもガマン。

「すごいな。猿山のこの猿に注目するなんて」「題名もコピーライターのセンスがあるね」と褒めるのです。

こうして毎回数名の発表が終わった時点で、学生たちに一番好きな作品を選んでコメントを書くという課題を出します。

それを私が集計して、次の週の授業で、もう一度、各作品を紹介しながら、ひとつひとつコメントを読み上げるのです。

多摩動物園の多くの動物のなかからあえて1匹の猿を選んでいて興味深かったからです。

題名が面白くてセンスを感じた。

この猿は何を見てるのか、何を考えてるのか色々想像できる写真で面白いなと思いました。

普通の人と違う文章で個性が出ていてい良い投稿だと思った。

渋い顔をした猿が見れば見るほどじわじわきて面白かった。

キャッチコピーのように、猿が1点見つめをしていて可愛いなと感じたからです。そして、多摩動物公園に久々に行った際に猿を見ていなかったので、投稿で見れてよかったです。

写真が綺麗で1点見つめをしているサルをとっていて面白いと思いました。

1枚しか撮っていないのにこの猿の写真を撮れたのがすごいと思った。

猿の佇まいに注目し、その気持ちまで考えていて面白いと思った。

写真を撮ったのが1回にも関わらずすごい写真でした。文章を見て行ってみたいとも思いました。

多摩動物園の多くの動物のなかからあえて1匹の猿を選んでいて興味深かったからです。

こうして、様々な角度から褒められれば、当人も悪い気持ちはしないでしょうし、自信を深めることもできましょう。そして、もっとよくするためのアドバイスにも耳を傾けやすくなります。

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何より面白いのは、どんなに優れた作品があっても、必ず人気投票の結果が分散することです。つまり、一番心に響く作品は人それぞれということがわかるのです。

その上で、私は「一番人気を集めた作品を評価するわけではないこと」「みんな違ってみんないいこと」を強調するのです。

最大多数向けの最大公約数的な作品作りや作品評価は、AIにさせておけばいいのです。たった一人でも面白いと言ってくれる人がいたら、その人のために作品を創れば良い のです。いや、 誰一人面白いと思わなくとも、自分が面白いと感じたら、それだけで立派な作品 なのです。

スポーツの話からは、ちょっと離れてしまったように聞こえるかもしれませんが、実は同じことだと思うのです。

大好きなNHKの番組『奇跡のレッスン』で、タイガー・ウッズを育てたルディ・ディラン氏が、公立中学のゴルフ部員へのレッスンをした時に、似たようなことをアドバイスしていました。「失敗は忘れ、良い記憶だけ残そう」。即ち、多くの人が、うまく出来なかったことを反省ノートに書くが、それをやめて、うまく出来たことだけノートに書きなさい と、中学生に伝えたのです。

NHK – 奇跡のレッスン世界の最強コーチと子どもたち~「ゴルフ」(前編)Facebook
奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち~「ゴルフ」(前編)Dailymotion
奇跡のレッスン~世界の最強コーチと子どもたち~「ゴルフ」(後編)Dailymotion 

しかし、自分のどこかがいいところなのか、どこがうまくできたかは、自分ではわからないもの。そこで、教員の私が率先して褒め、さらには、各学生が「みんな違ってみんないい」視点から褒める意味があります。「これから何をすれば良いのか」が自覚できる のです。

さて、最後にお悩みの点にお答えします、かつてのスポ根ドラマに出てくるような厳しい指導を望む親を、どう説得したらいいかというご相談ですが、なかなか難しいと思います。

やはり、私を含めて、過去の自分の体験、それも成功体験を捨て去ることは難しいからです。それに、2:6:2の法則で、どんな素晴らしい方法でも、2割の人は拒絶するものだからです。

もし私だったらまず試してみるのは、その人にさりげなく「自分がコーチの新しいやり方に共感し、それによってわが子が変わった」ことを伝えることです。

「最初は、このやり方甘すぎるんじゃないかと思ったけれど」

と、相手に共感する姿勢を示しながらも、

「最近、うちの子が変わってきたんですよ」

と切り出します。

「以前は、私が厳しく言わないと、何もやらない子だったのに、最近は、自分から自主練習なんかやっているんですよね」
「それから、やり方も自分で工夫しているみたいで、私にもよく見てくれとかアドバイスを求めるようになって驚いています」
「うちの子も最初は、あのコーチのやり方がわからないって言ってましたが、今では私よりも大好きみたいで、ちょっと嫉妬しちゃいます」

とこんな感じで話されてはいかがでしょう?

もちろん、コーチにも同じように感謝の気持ちをこめて伝えましょう。

おそらくコーチ自身も迷いながら試行錯誤しているはず。こうした心温まるエールを送れば、さらに良い指導をしてくれる ことでしょう。

※ 大好評「オトナの放課後相談室」の他にも久米さんのコラム、さらに「毎月のお題」やなんでも歓迎「フツーのおたよりコーナー」に寄せられた読者の声に対する久米さんのお返事等々、圧倒的ボリュームでお届けする「読者参加型サロン」的メルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』は初月無料! ぜひこの機会にお申込いただき無料サンプルをご覧ください。

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image by: Shutterstock.com

久米信行この著者の記事一覧

1963年東京墨田区出身。87年慶応大経済卒。イマジニア新卒一期で飛込営業と株式投資ゲーム開発。88年日興證券でAI相続診断システム開発研修統括。91年家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業入社。94年三代目社長就任(現相談役)。97年日経インターネットアワード、05年経産省IT経営百選、09年東商勇気ある経営大賞等受賞。10年APEC中小企業サミット日本代表。20年開学の新大学iUでは起業家教育・地域創生担当教授。明治大、多摩大の授業や企業団体研修に即した25万部超の「すぐやる技術」シリーズ等著書15冊。内外情勢調査会等で毎年数千人に講師。東京商工会議所墨田支部副会長、墨田区観光協会理事、墨田区文化振興財団 評議員として地元振興。新日本フィルハーモニー交響楽団・NBS日本舞台芸術振興会・日本吟剣詩舞振興会 各評議員として文化芸術振興。

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