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日本の「第6波対策」は正解か?コロナ禍と闘う長尾和宏医師の著作を紐解く

先日公開の「『コロナ禍は今年中に収束』と断言する長尾和宏医師はオミクロン株をどう見るか」の記事中、「自分の思考のなかではパンデミックは終わっている」との大胆な見解を示した、メルマガ『長尾和宏の「痛くない死に方」』著者の長尾氏。とは言え国や自治体はコロナに対して今なお過剰な警戒心を解くに至っておらず、第6波対策へも各方面から疑問の声が上がっているのも事実だ。そこで今回は、長尾氏の著書『ひとりも、死なせへん コロナ禍と闘う町医者、551日の壮絶日記』を引きながら、最適解探りを試みる。

【関連】「コロナ禍は今年中に収束」と断言する長尾和宏医師はオミクロン株をどう見るか

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「第6波対策」への疑問

オミクロン株による感染例が全世界で数多く報告されるなか、新型コロナの第6波がいよいよ訪れるのではと、昨年から噂されていた日本国内。

案の定、年明け早々から感染者の数は倍々ゲームのように増えていき、沖縄、山口、広島の各県では、9日からまん延防止等重点措置が適用される事態に。このままでは2022年もやはり、新型コロナに振り回される1年となっていきそうである。

重症化リスクの高低はさておき、とにかく感染力に関しては従来のもの以上に強いとされるオミクロン株。そのため年始からの感染急拡大を受け、各都道府県はこれまでのオミクロン株感染者の“全員入院”方針をあっさりと諦め、“宿泊・自宅療養”への転換を進める流れに。毎度毎度感染者の数が増えだすごとに、パニックに陥ったかのようにドタバタな対応に終始するという、今のコロナ禍になってから何度も見た光景に、もはや辟易といった方も相当多いことだろう。

なぜか立ち消えとなった“2類から5類への格下げ”

このように感染者の扱いに関しての右往左往が展開されるいっぽうで、ここに来て議論が再燃する格好となっているのが、新型コロナの“2類から5類への格下げ”に関する是非である。

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律、いわゆる「感染症法」では、数々ある感染症を、罹患時の重篤性を勘案したうえで、危険性が高い順に1類から5類に分類しており、またそれらとは別に、「新型インフルエンザ等感染症」などが含まれるカテゴリーも存在する。

新型コロナは現在、新型インフルエンザ等感染症の類型に位置づけされているが、その対応レベルは“2類相当”とされている。2類といえば、結核や重症急性呼吸器症候群(SARS)などと同じカテゴライズで、自治体や医療機関としては症状の有無に関わらずの入院勧告や就業制限、さらに濃厚接触者や感染経路の調査等といった相当に厳格な対応が求められるのだ。

そのため、2類感染症に罹患した者の治療や入院といった差配は、すべて公の保健所を通す必要が出てくる訳だが、今回のコロナ禍においてはあまりにも感染者が増えすぎたために、各地の保健所で業務がパンクしてしまうという事態に。そのため、明らかに感染が疑われる人でも入院等の手配がされずに、自宅療養という名の“放置”をされてしまうケースが相次ぎ、その間に不運にも症状が悪化してしまい……といった悲しい出来事も頻発した。

さらに“2類相当”として扱われたことで、町の開業医や診療所はコロナ患者の診療からは外される格好となり、大病院などといった一部の感染症指定の医療機関などがそれを担うことに。ただ、これも感染者数の急激な増加による病床の逼迫、またコロナ禍の長期化による現場の疲弊を招き、果ては医療崩壊といった状況に繋がっていった。

もしも新型コロナを2類から5類へ、普通のインフルエンザや風疹、破傷風等と同じレベルに扱いを格下げすれば、上記のような保健所のパンクが起こることがなくなり、さらに様々な医療機関でコロナ患者を診療できるようになるため、その分散化も図れるというのだ。

実際、2021年の8月には新型コロナに対するこれまでの厳格な措置・対応に関して、厚生労働省が見直しに着手したという報道もあった。しかし、当時の菅義偉首相が5類格下げに難色を示したこともあり、その話はいつの間にか立ち消えに。その不自然な顛末にSNS上からは、新型コロナを2類のままにしておくことで、何かしらの利益を得ることができる、あるいはその面目が保つことができるといった勢力が、5類への格下げを妨げているのではないか……そんな見方も一部からは浮上したほどだ。

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町医者にもかかわらずコロナ患者を診つづけた長尾医師

ただ、新型コロナの“2類から5類への格下げ”を求める声は、医療の現場からも早い段階からあがっていた。兵庫県尼崎市にて長尾クリニックを営む長尾和宏氏も、そのひとりである。

自らを“けったいな町医者”だと標榜する長尾氏は、地域医療の担い手としてこれまで2,000人以上の患者の在宅死を看取ってきた人物。その経験をもとに数々の著作やメルマガ『長尾和宏の「痛くない死に方」』などを通じ、家族など大切な人の死や、やがてやってくる自らの死にどう受け止め備えていくかを、広く世に問いかけてきた。

そんな長尾氏による著作『ひとりも、死なせへん コロナ禍と闘う町医者、551日の壮絶日記』は、中国・武漢で新型コロナの感染拡大が報じられ、日本でも「指定感染症」に指定された2020年1月末から、長尾氏自身がコロナ医療の最前線に身を投じていった日々の記録を綴った一冊である。

ひとりも、死なせへん コロナ禍と闘う町医者、551日の壮絶日記
ブックマン社

それを紐解いていくと、長尾氏は豪華クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で集団感染が発覚するも、乗員乗客を船内に留め置く措置を取ったことで、陽性者がどんどん増えていく状況を受け、「すべては新型コロナ感染症が『感染症法2類』に指定されたことに起因する」と、2020年2月7日の記述のなかで指摘。この段階で早くも、新型コロナに対する“2類相当”の扱いに否定的なスタンスに立っていたのだ。

しかし“未知のものへの恐怖”を抱く一般大衆と、それを煽るマスコミによって、新型コロナに対して過度に厳格な対応することを支持する世論が、その後形成されていったのはご存じの通り。先述の通り“2類相当”だと、長尾氏が営むような町のクリニックは、コロナ患者の診察はできない。しかし長尾氏は、自身のクリニックで発熱外来を展開する形で、新型コロナと真正面から向き合っていくという道を選択。まさに寝食を忘れて医療活動に従事し、さらに自宅待機を余儀なくされた患者には、自らの携帯番号を渡して随時連絡できるようにするなど、24時間体制の戦いに身を投じていく。

長尾氏はそんな日々の記録のなかで、新型コロナの“5類格下げ”を徹頭徹尾、一貫して訴え続けている。5類にすることで、開業医による“早期診断”やイベルメクチンの投与といった“即治療”が実現し、重症化する患者を今までより減らすことができる。また入院が必要なほどの症状ならば、開業医から大病院に直接依頼することで、従来の保健所による差配で発生していたタイムラグもなくなる……長尾氏は“5類格下げ”の主なメリットをこう主張する。

日記のなかには、コロナ患者を積極的に受け入れる長尾氏に対しての嫌がらせか、クリニックの窓ガラスが割られてしまう被害を受けたという生々しい話も。さらに感染拡大の初期には、コロナ感染が疑われる患者へのPCR検査を求める長尾氏の要請を無碍に断っていた保健所が、その後さらに感染者数が増えだして対応が追い付かなくなると、逆に長尾氏のクリニックに患者をどんどんと回すようになったという、保健所の混乱や機能不全ぶりを表すエピソードも紹介される。

さらに本書では、新型コロナに感染をした高齢者の扱いに関する問題提起も多い。とりわけ最近は“認知症のおひとり様”が増えるなか、そういった方もコロナ陽性となるケースも多々あるようで、自身がコロナに罹っていることを説明した傍から忘れてノーマスクで振舞う患者と、近隣の民生委員や見守りの協力者の方たちをも巻き込んで繰り広げられるちょっとした騒動も取り上げられているが、そこには病院・ホテル・介護施設などが、同じ陽性者でも認知症の方は断るという背景があるとのこと。

長尾氏は「コロナ対策に認知症という視点がスッポリ欠落しているのだ」と述べているが、新型コロナへの対応にくわえ、従来から取り組んでいる地域のお年寄りなどへの訪問医療も並行して行ってきた長尾氏ならではの視点だろう。

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1年半に渡る日記、最後の記述は?

そんな長尾氏による約1年半に渡った日記だが、最後に綴られているのは2021年8月4日の記述。

そこには新型コロナの医療提供体制を巡り、重症患者などを除いて自宅療養を基本とする方針を政府が固め、今後与野党間で話し合われるというニュース記事が紹介され、これに対し長尾氏は「ようやく国が、重い腰を上げた」「僕がこの1年半言い続けたことが、ようやく実現に向けて動き出す」と、感慨を込めて述べている。しかしこの政府方針も、同時期に報じられた先述の厚労省による“格下げ検討”と同様、その後なんとなく話が立ち消えになってしまったのが、なんとも物悲しい。

とはいえ、最近のSNS上などの反応を見てみると、新型コロナの“5類格下げ”に関しては支持する声が市井で広がっている印象。さらに、21年12月に実施・公表されたという医師を対象としたアンケートの結果によると、新型コロナの感染症法上での位置づけに関して「今後状況の変化に応じて5類相当の位置付けに変更すべき」との回答が45%と最多を占めるなど、多くの医師の間でも現状を疑問視する見方が広がっているようだ。

また、新型コロナが感染症法上の指定感染症に位置づけられる期限が、2022年1月末までと迫っており、それ以降どのような扱いになるのかが未だ定まっていない状況。長尾氏が足かけ2年に渡って主張し続けてきた新型コロナの“5類格下げ”が、いよいよ実現する日も近いのか、否応無しに注目が集まるところである。

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image by: Rodrigo Reyes Marin / Shutterstock.com

長尾和宏この著者の記事一覧

町医者、「長尾クリニック」名誉院長。1958年香川県生まれ。高校時代に実の父親が自死をしたことをきっかけに医者を目指すことを決意し、苦学して東京医科大学に入学。学生時代に無医地区活動に邁進したことから、地域医療に目覚める。1984年、大阪大学第二内科入局。1995年、尼崎に「長尾クリニック」を開業。町医者という名前に誇りを持ち、外来と在宅医療に邁進。『平穏死10の条件』『痛くない死に方』等ベストセラー多数。

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