東京大学が2021年2月に実施した調査で、「保護者の学歴」が「子供の学習環境」の違いを生むことが明らかになりました。学歴は「賃金格差」にもつながっていて、親の貧困すなわち非正規の低賃金問題が議論されないことには解決しないと語るのは、健康社会学者の河合薫さん。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、子供政策の司令塔となるべく新設される「こども家庭庁」が、「子供の問題=親の問題」として、賃金格差や先進国最低レベルの最低賃金問題にも踏み込むような組織になるのか、注目していく必要があると訴えています。
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「こども家庭庁」の光と闇
「保護者の学歴」の違いで、子供の学習環境に大きな違いがあることが、東京大学大学院教授らの研究グループの調査で明らかになりました。2020年4月に文科省が実施した調査で、一斉休校中にオンライン学習に取り組めた公立学校はたったの5%だったことがわかっていますが、親の学歴によっても子供の学びに影響が出ていたのです。
冒頭の調査は、2021年2月に文科省の委託で実施され、小学5年・中学2年の計約1万8千人と保護者約1万7千人から得た回答を分析。その結果、大学を卒業していない保護者の子どもや、ひとり親の家庭では、大卒者の子どもに比べて、“不利な学習環境”に置かれる傾向が認められたそうです。
具体的には、
- 休校中、「シングルマザー・非大卒」世帯では、28.6%の子供(中2)が「週1回以上、勉強を手伝ってくれる人がいなかった」と回答。「両親とも非大卒」では23.3%、「シングルマザー・大卒」20.6%。一方、「両親とも大卒」では13.9%だった。
- 保護者に「オンラインの学習教材を使えるようにした頻度」を尋ねたところ、「両親とも大卒・在宅勤務」層では、7割以上が「あった」としたのに対し(小5)、「両親とも非大卒・非在宅」の層では3割だった。
- 一方、配布されたプリント学習を「きちんとやった」と回答した中2のうち、「両親とも大卒」の層は78.9%、「シングルマザー・非大卒」は62.3%だった。
これらの結果は、概ね予想通りです。だって、2020年2月27日に安倍晋三首相が、突然表明した「全国すべての小学校、中学校、高校、特別支援学校への臨時休校要請」で、共働き世帯、シングルマザーやシングルファザーはプチパニックになったし、その要請自体、「男性=会社員、女性=主婦」という昭和モデルに基づくものだったのですから。
非大卒の場合、正社員につける割合は低くなりがちだし、親の雇用形態の違いは賃金格差に直結します。シングルマザーの就業率は先進国でもっとも高い84.5%なのに、3人に2人が貧困、すなわち「ワーキンプア」です。
つまり、「子供の学習環境」の差異は、親の「賃金格差」を媒介して存在している。この部分に、国はどう向き合うつもりなのでしょうか?子供の貧困への取り組みは進みましたが、親の貧困=非正規の低賃金問題は議論さえ行われていません。
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昨年12月末に、政府は23年度に新設する、子ども政策を一元的に担う新組織の名称を当初予定していた「こども庁」から「こども家庭庁」に変更する方向で調整に入ったと報じられました。
子供の問題=親の問題と考えれば、「こども家庭庁」とするのは至極当然なこと。「こども家庭庁」で、雇用形態の違いによる賃金差や、世界最低レベルの最低賃金問題まで言及するのでしょうか?あるいは、他の省庁と連携できるのでしょうか。
もし、本当にもし、子供を通じて、「親の問題」が解決される方向に進めばいいのですが、これまでの国の動きを鑑みると期待するのは…難しいです。
いずれにせよ、今回の調査が文科省の委託で実施されたならば、そこにどのような問題意識があるのか?おそらく正式な報告書が明らかになると思いますので、続報を期待したいと思います。
その一方で、「シングルマザー・非大卒」世帯の62.3%が、プリント学習を「きちんとやった」と回答したことには、微かな光も感じました。
教育問題を扱ってきた苅谷剛彦さんが行った調査では、両親の学歴や職業の違いが子どもの「学習への意欲」に影響することがわかっていました。階層下位の子どもたちほど「学習への意欲」が低く、少人数授業を取り入れ、熱心に取り組んでいる地域でさえ、階層格差に起因する「学習意欲差」を縮小するのは難しかったとされていたのです。
しかし、今回の調査では「両親とも大卒」より劣るものの、「シングルマザー・非大卒」世帯の6割以上の子供が、プリント学習をきちんとやっていた。「子供の放課後の学習支援」に取り組む学校や、団体が近年増えていましたので、その成果が出ているかもしれません。
私自身、微力ではありますが、学習意欲を失った子供の支援に協力させていただいているので、ちょっとだけ嬉しくなりました。みなさまのご意見、お聞かせください。
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