北京五輪は巨大な「踏み絵」か?外国人選手団が中国の“人質”になる日

 

これで神経を尖らせているのは、北京政府でしょう。北京冬季五輪で「Where is Peng Shuai?」のTシャツを来てくる選手が出てくるかもしれないからです。彭帥氏の問題のみならず、香港やウイグルの人権問題などについて物申す選手が出てくる可能性もあります。

そのため、1月19日に北京冬季五輪の大会組織委員会は、選手が中国の人権問題などに言及した場合、処罰する方針を明らかにしています。CNNの報道によれば、大会組織委員会の国際関係部局の副責任者ヤン・シュウ氏は、「オリンピック精神に反した行動や発言、特に中国の法律や規制に違反するものは、いかなるものも特定の処罰の対象となる」と警告したそうです。

【北京冬季五輪】 選手が人権問題で発言なら処罰も 組織委が警告

この警告以前、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチも、中国のような監視国家では何をされるかわからないので、選手たちは人権問題について発言しないほうがいいと注意を促していました。大会組織委員会が処罰方針を表明したことで、北京五輪では人権問題を口に出せば、選手資格を剥奪されたり、最悪の場合は逮捕すらありうることとなったのです。

北京五輪で人権問題巡る発言自粛を、選手に専門家が警告

前回のメルマガでは、欧米各国が、北京冬季五輪で参加選手たちのスマートフォンやパソコンから情報が抜かれる危険性について警告していることを論じました。IOCは中国政府と交渉し、五輪に参加する外国人選手団や取材陣が選手村や競技場で自由にインターネットサービスが利用できるよう、約束を取り付けたと言われています。

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しかし、もしも選手団や報道陣が北京からSNSで中国の人権問題などについて発信した場合にはどうなるのでしょうか。大会組織委員会の警告によれば、もちろんそれも中国の法律に反したことになるでしょう。

先述したように、ヒューマン・ライツ・ウォッチは外国人選手団に対して、「人権問題について発言しないほうがいい」と注意を促しましたが、それだけでは危険です。中国では表立って発言してはいけないことが数多くあるからです。たとえば、台湾を国家として扱ったり、台湾独立に賛同したりすれば、逮捕される可能性があります。これは中国の反国家分裂法に違反しています。チベットやウイグルの独立についても同様です。

1989年の天安門事件のことを論じることもタブーです。中国の民主化を求めたことで「国家政権転覆煽動罪」に処せられ獄死した劉暁波氏のことを持ち出すのも危険でしょう。言うまでもなく、習近平政権の批判も「国家政権転覆煽動罪」に処せられる可能性があるので厳禁です。

中国に民主化を求めたり、民主主義のすばらしさを喧伝することも、処罰の対象となる危険性があります。香港の民主化運動に賛同や連帯の意思を示すのもリスクが高いといえるでしょう。

つまり、外国人選手団は言わば独裁国家の人質になるということなのです。中国共産党および習近平政権は、結果はどうあれ、北京冬季五輪の成功を大々的に喧伝するはずです。習近平の3期目を決める秋の共産党大会に向けて、失敗は許されないからです。

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