安倍晋三氏“右翼ぶりっ子”の浅知恵。林外相を忌み嫌う男の幼稚な悪あがき

 

茂木を怒らせた高市の振る舞い

この安倍の反中国・韓国=反岸田・林工作の先兵となることでポスト岸田への切符を手にしたいと目論むのが高市早苗政調会長で、彼女は昨年12月の臨時国会中に「対中非難決議」を実現すべく働いたが茂木敏充幹事長に阻止され、そのため1月半ばには茂木の頭越しに岸田との会食の場で何とかゴーサインを得た。こんな場で、日中国交50年の記念すべき今年をどうデザインするのかの考慮もなしにこれを受け入れたのは、岸田の優柔不断の現れ以外の何物でもないが、激怒したのは茂木で、「高市はこんな無理筋を通して倒閣運動をするつもりか」とまで言い放ったと言う。

実際、この決議そのものは「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」と題し、新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港などでの信教の自由への侵害や深刻な人権状況への懸念を表したものだが、自公間の調整の過程で右翼ぶりっ子たちが狙った挑発的な文言はだいぶ削られたとかで、ずれにせよ日中関係や国際政治の行方に影響を与えるようなものとはならなかった。それは当たり前で、元々が安倍の反林感情に発していることが見え見えであるものを、自民党議員といえども真面目に取り扱うわけがない。

茂木は単なる日和見主義者で何の定見も持ち合わせてはいないが、平成研究会の会長の座を手に入れてからは政権戦略を真剣に考えるようになっていて、その基本はどうも、田中角栄から竹下登、橋本龍太郎、小渕恵三まで繋がって後は断たれている田中派路線を復活させ、岸田=林の宏池会路線との戦略的同盟関係を編もうとしているのだと言われる。

二階は林を「後継指名」?

さて、そこで注目されるのが二階俊博前幹事長の動向である。二階は長く自民党幹事長として君臨し、先の衆院選で13回目の当選を果たしたものの、今年2月で83歳になる超高齢で、昨年9月の自民党総裁選でも結局何をどうしたいのかはっきりさせて派と党を導くことができないボケ状態を演じた。しかし、習近平主席との個人的な信頼関係を軸とした日中間のパイプ役として役割は依然として重要で、本人も日中関係をこのままの状態で後世に残すわけにいかないとの強い自覚を持っていると言われる。

二階と親しい田原総一朗は、『サンデー毎日』1月30日号の林芳正インタビューの中で、「習近平が最も信頼する政治家は二階俊博だ。二階は自らの対中人脈の後継者を林にした。岸田首相はそれを百も承知のうえで、安倍らの反対を押し切って、林を外相にした」と語っている。

これはもっと注目されてしかるべき重要な指摘で、これがもし本当なら、岸田が「対中非難決議」などで右翼ぶりっ子に妥協的な態度をとっているのは面従腹背で、今はまだ安倍らと全面対決の段階ではないと計算づくで考えているが、いずれ日中関係打開を軸に思い切った動きをする可能性があるということになる。この点について田原は、今年前半の「二階訪中」の動きに注意すべきことを本誌に示唆した。

こうした流れを派閥力学的な観点から捉えると、二階派の中心幹部=林幹雄前幹事長代理と武田良太前総務相の動きから目が離せない。この2人は、昨年末には菅義偉前首相、石破茂元幹事長、森山裕総務会長代行という何とも微妙な面々で会食しており、マスコミ的には岸田政権の冷や飯組の慰め合いの会であるかに言われたが、事情通に言わせると必ずしもそうではなく、近く二階派を引き継いで岸田と連携しポスト岸田争いにノミネートしたい武田が仕掛けた舞台装置だという評価もある。武田は、一般には知名度はないが、亀井静香の秘書から上がって来た苦労人で、大平正芳元首相の側近=田中六助元幹事長の甥という血筋からしても宏池会への親和性がある。

菅が今何を考えているのかは見えないが、このようないわゆる中間派全体に影響力を拡大して「菅派」を立ち上げたいのかもしれない。いつの間にかの安倍包囲網に直面しつつある安倍=高市連合は、あれほどコケにした菅に再接近して「菅派」立ち上げを助け、反岸田陣営を拡張したい思惑だが、菅に今更安倍に頼るつもりがあるのかどうか。

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