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博士号を取得しても年収200万以下。「高学歴ワーキングプア」量産のナゼ

文系の博士号を取得した人の年収の調査で、200万円未満が最多という衝撃的な結果が明らかになりました。理系の博士号取得者の進路も日本が最悪と指摘する海外のレポートも存在。「高学歴ワーキングプア」というあってはならない言葉が飛び交う状況は、なぜ生まれたのでしょうか。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、健康社会学者の河合薫さんが、一貫性なき国の政策と、専門性よりも“染めやすい”大卒を好む日本企業の傾向を問題視。教育にも働き方にも「理想」がないと、日本の未来を案じています。

プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。

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末は博士か貧困か??

文部科学省科学技術・学術政策研究所が2018年度に大学の博士課程を修了した人を追跡調査したところ、人文系の年収は100万円以上200万円未満が最多で、文系博士が厳しい状況にあることががわかりました。

調査対象全体では、男性で最も割合が高い層は「400万~500万円未満」だったのに対し、女性は「300万~400万円未満」。また、自由記述欄には、多数の理不尽な実態が記されていました。
「妊娠を報告すると給料を下げられた」
「非常勤講師だけでは餓死しかねない」
「ポスドク期間中に経済的困窮から自殺してしまう人がいる」
「教員公募で純粋に実力だけで公正に審査してほしい」
などなど。

日本は先進国の中で唯一、低学歴化が進んでいる「博士後進国」です。2011年4月に科学誌Natureに掲載された、「The Ph.D.factory」と題された記事によれば、科学分野の博士号授与数の年間総数は、1998年から2008年までに40%近く増え、ハイペースで大量生産されていることがわかりました(OECD加盟国)。

その一方で、世界のかなりの国と地域では、博士号の資格を十分に活用する機会に恵まれず、博士号が無駄になる恐れが生じていることを指摘。で、その「博士号が無駄になりそうな国」の筆頭に挙げられたのが……、“Of all the countries in which to graduate with a science Ph.D., Japan is arguably one of the worst.”(河合訳:「理系大学院の博士号取得者の進路を各国で比較した場合、日本が最悪国の1つであることはほぼ間違いない」)。そう。日本だったのです。

1996年、文部科学省は「世界に追いつけ、追い越せ!」とポスドク1万人計画を立て、大学院博士課程の定数をそれまでの3倍もの規模に拡大しました。ところが増やしたのは「入り口」のみで、1万8000人もの“さまようポスドク就職浪人”が量産されました。

大学に残っても稼げない、教員になれても低賃金の非正規、さらに、世界は専門性を生かした高学歴社会に突入し、博士号や修士号を持っていないと入社できない企業が増え続けているのに、日本企業は有名な大学卒が大好物!採用した人材を「自分たち色に染めたい」とフレッシュな若手を好む傾向が強く、企業は専門性よりも、得体の知れない“コミュニケーション能力”を重要視したのです。

その結果、日本の博士号取得者は減少傾向に転じ、2016年度に日本の大学で博士号を取得した人は1万5040人(文科省)。博士号だけではなく修士号取得者も減り、欧米各国では2016年までの10年間に、博士号・修士号の取得者が2ケタ増えたのに対し、日本は16%も減るなど世界の先進国と逆行するようになってしまったのです。

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…日本はほとんどの分野で、世界最低を爆走中です。コロナ禍で“有能人材”という言語明瞭意味不明の若手を求める企業も増えていますが、ポスドク問題の解決の糸口になるとは到底思えません。そもそも国の政策に一貫性がないのです。教育は国の土台を作る「人」への最大かつ最良の投資なのに、“その場しのぎ”の政策ばかりがはびこっています。

例えば、リカレント教育を推進し、「大人の学び直し」の入口を広げているのに、学費の援助がない、学振は若手しか相手にしない、博士号取得者=若手が前提など、政策の矛盾があちらこちらに散見できます。

また、若手でも就職先は限られていて、行政機関で博士号取得者が有効活用されているとは言い難い現実もあります。出産や育児のサポート体制も脆弱だし、専門知識が持ち腐れになっているのです。

さらに、件の自由記述にもあった通り、教員公募は表向きだけで、内実はどこの誰の研修室に在籍するか次第で決まるといっても過言ではありません。私自身、大学の閉鎖性には辟易しましたし、海外の査読付きジャーナルの原著論文すら持たない人が「教授」として採用される不可解を目の当たりにしてきました。

日本が昭和期に世界的に躍進したのは、明治時代の教育にあったことは周知の事実です。ノーベル賞受賞者が量産されたのも、昭和初期の教育にあったことは疑いの余地もありません。そもそも「高学歴ワーキングプア」なんて言葉が存在するのもおかしなこと。

コロナ禍を経験し、昨年、政府は、新型コロナウイルスなど感染症流行に対応できる医師を増やすため、大学医学部の入学定員に感染症科や救急科の優先枠を創設する方針を決めたり…。この国は一体どこに向かっているのでしょうか。教育にも、働き方にも、「理想」がない。未来の国のカタチを誰も考えていないということなのでしょう。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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