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尖閣諸島問題にも影響。日本はロシアの現状変更の試みを糾弾せよ

ロシア軍によるウクライナ侵攻を回避するため、フランスやドイツが交渉に当たる一方で、差し迫った状況を示す情報も飛び交っています。その中の1つ、ロシア軍が輸血用血液などの医療物資を国境付近に移動とのニュースについて2014年のクリミア併合時と比較し分析するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さん。ロシアの圧力に、アメリカも自国民への退避勧告というカードで対抗し予断を許さないとした上で、日本が示すべき態度についても言及しています。

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ロシア軍の輸血準備は情報戦か?

10日からロシア軍とベラルーシ軍の大規模な合同軍事演習が始まりました。演習を装った動きがそのままウクライナへの越境攻撃につながらないかと、緊張が高まっています。

そんなおりですから、気になるニュースをご紹介しておきます。1月28日付のロイターによる配信ですが、地味なニュースなので話題にはならなかったようです。

「ウクライナとの国境付近で軍を増強させているロシアが、戦闘で負傷者が出た場合に備え、輸血用の血液を含む医療物資を国境沿いに移動させたことが、複数の米当局者の話で分かった。ロシアが侵攻の準備を進めていることを示す重要な動きとして警戒されている。匿名を条件にロイターに情報を提供した3人の米当局者のうち2人によると、輸血用血液がウクライナとの国境沿いに運ばれたのはここ数週間のことだった。ただ3人とも、米政府がこれを察知した時期については明らかにしなかった。米国防総省は、ロシアが軍増強の一環として『医療支援』も国境沿いに配備していることはこれまでも察知していた」

「ただ専門家は、輸血用血液の準備はロシア軍の準備具合を推し量るに当たり、重要な指標になると指摘。退役軍人で現在は欧州政策分析センターに所属するベン・ホッジズ氏は『攻撃実施を保証するものではないが、輸血用血液を準備せずに攻撃が行われることはない』としている。この件に関してロシア国防省からコメントは得られていない。米国防総省はコメントを控えている」

これについては、専門家にとって忘れることができない出来事がありました。ロシア軍は2014年2月26日、中央軍管区とウクライナ北東部と国境を接している西部軍管区で15万人を動員した大規模な軍事演習を抜き打ちで実施しました。ウクライナ侵攻の可能性も排除できず、関係各国は身構えましたが、やがてこの演習に野戦病院などを展開するための医療部隊が参加していないことがわかり、ウクライナ侵攻はないと判断され、警戒を緩めることになりました。

その隙を衝いたのがクリミア半島へのロシアのハイブリッド戦です。上記の軍事演習と重なる2月27日、国籍不明の武装集団がクリミア半島の空港と自治共和国の議会庁舎を占拠し、ウクライナ軍施設を包囲、ロシア系住民の支持のもと、クリミア半島を無血併合してしまったのです。

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今回の演習部隊への輸血の準備は、2014年のケースとは逆に侵攻のリアリティを感じさせるもので、その圧力の効果にも無視できないものがあります。

1月17日号で西恭之静岡県立大学特任准教授が「トラックを数えればロシア陸軍の外征能力がわかる」として紹介したロシア軍の兵站能力の限界も、それを自覚するロシア軍の作戦計画がベラルーシから100キロ圏と、兵站を可能とする距離に位置するウクライナの首都キエフを目指すものとして立案され、それを前提としてベラルーシ軍との合同軍事演習が行われていることを知れば、ロシアの言い分を米欧諸国に受け入れさせる圧力としてリアリティを持って迫ってくるのです。

米国のサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当)は11日、ロシアによるウクライナ侵攻が「いつ起きてもおかしくない」として、ウクライナ在住米国人に48時間以内の退避を呼び掛けましたし、日本の外務省もウクライナ全土の危険情報を最高度の「レベル4」(退避勧告)に引き上げ、約150人の在留邦人に速やかな退避を求めました。

特に米国による自国民の避難は、米国が本格的な戦闘の前に行う非戦闘員退避活動(NEO)につながるものと映り、ロシアが受ける圧力のリアルさも相当なものだと想像することができます。

このコラムを書いている時点では、このような米ロ両国による情報戦と神経戦が様々な局面で展開されている段階で、プーチン大統領がフランスのマクロン大統領との間で合意したとされる演習終了後のロシア軍のベラルーシからの撤退(ロシア外務省は否定)で落着するのが望ましい展開ですが、予断は許しません。

中国との間で尖閣諸島問題を抱える日本としては、ロシアの力による現状変更の試みを厳しく糾弾し、同様の行動が許されないことを中国に示す必要があります。(小川和久)

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image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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