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上昌広医師が緊急提言。日本のワクチン追加接種を“後ろ倒し”にすべき理由

第6波のピークアウトが見えてきたとする専門家の声もあるものの、2月15日には1日の死亡者数が過去最多となるなど、未だ猛威を振るう新型コロナウイルス。岸田首相は追加接種の加速を指示しましたが、闇雲にスピードを早めるだけではワクチンの無駄遣いとなる可能性もあるようです。医療ガバナンス研究所理事長の上 昌広先生は今回、高齢者や基礎疾患のある人を除き、ワクチン追加接種を急ぐべきでない理由を解説。さらにワクチンを最も有効に活用できる追加接種実施時期を提示しています。

プロフィール:上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

OECD加盟国では最低な「追加接種」遅れの日本

新型コロナウイルス(以下、コロナ)の追加接種の遅れが国民の注目を集めている。2月14日現在、追加接種を終えたのは、国民の10.3%に過ぎず、経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国で最下位だ(図1)。

追加接種は、オミクロン株対策の中核だ。2月1日、米ロサンゼルス市の公衆衛生当局は、追加接種により感染が44%、入院が77%減少したことを米疾病管理センター(CDC)が発行する『MMWR』誌に報告している。感染予防効果はいまいちだが、重症化のリスクを77%も減らすことは大きい。

現在、「コロナ死者急増の大阪府、高齢者対策見直し急ぐ 山際担当相に要望も」(朝日新聞2月15日)、「オミクロン株で高齢者が重症化肺炎悪化、都内の病床逼迫の懸念<新型コロナ>」(東京新聞2月14日)など、高齢の重症患者が増えていることが、連日のように報じられているが、他の先進国並みに追加接種が進んでいれば、事態は違っていたはずだ。

追加接種の遅れの責任を追及された岸田文雄総理は、2月7日、2月末までに1日あたり100万回の接種を達成できるよう後藤茂之厚労大臣に指示したことを明かした。総理からの命令を受け、政府や自治体は、接種体制の強化に努めている。2月14日から15日かけて、自治体の入力に基づく接種数は、約110万回増えたという。2月11日~13日にかけての三連休の接種分がまとめて登録された影響もあり、この数字は額面通りには受け入れられないが、追加接種が加速していることは間違いないだろう。

私は、このような動きに懸念を抱く。それは、いま急いで追加接種を打っても、無駄になってしまう可能性が高いからだ。2月11日CDCの研究チームは、追加接種の効果は時間の経過とともに減少することを報告した。この研究によると、オミクロン株に対する追加接種の外来受診および入院予防効果は、接種後2ヶ月では、それぞれ87%と91%だったが、接種後4ヶ月までに、66%および78%まで低下していた。

これは、2回接種の経験とも合致する。昨年10月13日、福島県相馬市は、ワクチン接種を終えた相馬市民500人から採血し、中和活性を測定した結果を発表した。中和活性は、2回目接種から30日未満で2,024 AU/mL、30~90日で753 AU/mL、90日以上で106 AU/mLと急速に低下していた(図2)。

コロナワクチンによる免疫は、麻疹や風疹などのワクチンのように、一回うつと効果が永続するのではなく、接種から時間が経つと減衰する。状況はインフルエンザワクチンに類似する。インフルエンザワクチンの効果持続期間は5ヶ月程度と考えられている。それなら、接種の時期が大切だ。インフルエンザワクチンは、流行が拡大する12~1月に対応するため、秋以降に接種する。同じ議論がコロナワクチンにも必要だ。

では、今後、オミクロン株の流行はどうなるだろうか。英オックスフォード大学が提供するデータベース「Our World in Data」によれば、第6波の感染者数(人口100万人あたり、一週間平均)は、2月9日の750人をピークに減少に転じている(図3)。14日の感染者数は683人で、今後、急速に収束するだろう。高齢者や基礎疾患を有する人を除いて、急いで接種する必要はない。

現在、我が国で議論すべきは春夏の流行対策だ。日本を含むアジアでは、過去2年間、コロナは、春夏冬、年に3回の流行を繰り返してきた。図4をご覧いただければ、コロナの流行に季節性があるのが一目瞭然でお分かりいただけるだろう。我が国で、昨年の春の流行のピークは5月14日、夏は8月25日だった。今年も、同じ頃に流行すると考えた方がいい。過去2年間、夏の流行は、春より大規模だったから、春より夏の対策を重視しなければならない。ところが、2月に追加接種を受ければ、春の流行は兎も角、夏には効果は切れてしまう。

この状況は第6波と同じだ。昨年、我が国で高齢者の接種が本格化したのは5月だ。多くの高齢者が夏までに接種を完了した。現在、それから半年以上が経過している。このころに接種を終えた高齢者の免疫は既に低下している。このことが、オミクロン株の感染が拡大し、少なからぬ高齢者が犠牲となったことに影響している。

世界各国は、次の流行への対応に余念がない。効果については懐疑的な意見があるものの、イスラエルでは4回目接種が始まっているし、米ファイザー・独ビオンテックはオミクロン株用のワクチンの臨床試験を開始した。これまでの、日本のワクチン確保状況を考えれば、今夏までに4回目接種を始めるのは期待できないし、ファイザーがオミクロン株ワクチンの開発に成功しても、他国との獲得競争を制して、入手することは期待できない。

では、今、何ができるだろうか。追加接種を有効に活用することだ。私は春夏の流行に対応するには、4、5月に接種するのが合理的と考えている。オミクロン株の流行が峠を越えたいまこそ、追加接種の時期については、冷静な議論が必要だ。

 

上 昌広(かみ まさひろ)
医療ガバナンス研究所理事長。1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

image by: umaruchan4678 / Shutterstock.com

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