あの原発事故で東電は本当に「国有化」されなければならなかったのか?

 

この本では、金融関係のプロである著者が、第三者の視点で東京電力の原子力賠償のあり方について、問題点を4つ指摘しています。

まず第一の問題点は、リスクのある原子力発電を民間企業が推進するために「原子力損害の賠償に関する法律」が作られていたのに、記載されている想定外の天変地異にもかかわらず掌を返すように免責に当たらないとしたことです。なぜか、その点について東京電力も法的に争うことをしていません。

また、第二の問題点は、原子力を国策として進めていたのにもかかわらず、東京電力が事故を起こしたら、民主党と官僚は、すべて東京電力の責任であると断定し、東京電力を国有化して天下り、分割・解体しました。民主党と官僚は東京電力と一緒に叩かれる側にいたはずなのに、叩く側に素早く立ち回って、東京電力を叩き続けているのです。

さらに第三の問題点は、事後法である「原子力損害賠償支援機構法」では、他の原子力発電所を持つ電力会社が、一般負担金という形で東京電力の賠償費用の3分の1程度を負担しているということ。将来の原子力賠償費用確保のための相互扶助型保険制度のようですが、事故が起こってから保険を作って、強制的に電力会社から金を集めるのは、著者はありえないことと断言しているのです。

第四の問題点は、原子力損害賠償支援機構から東京電力に1兆円を出資し、議決権50%以上として国有化したことです。株主価値は半分に棄損。東京電力の支援は別の方法でもできたのに、なぜ国有化なのか。著者の見立ては、官僚が東京電力を国有化し、支配することで、東京電力を分割し、事業再編、電気事業の自由化を進めようとしたということです。

1兆円を投じて国有化することが、本当に、「国民負担の極小化」になるのだろうか。例えば、機構が社債や融資の債務保証をすることでも、東京電力の資金調達の援助はできたはずである…機構と東京電力が事実上の一体化をしてしまう…相互牽制は、機能しなくなてしまう(p146)

この本が問題としているのは、官僚、政治家が国策として推進してきた原子力の事故の責任は東京電力の押しつけ、原子力賠償は電力会社に押しつける一方で、原子力賠償支援を口実に東京電力を国有化して、東京電力を発電・小売・ネットワークに分割したことです。

法律に基づき行政を行うべき官僚が、ここまで責任を回避し、責任転嫁し、民間企業を支配できるのが日本という国なのです。

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