私達の老後を支える年金制度。毎年、年金額の増減が行われるのですが、なぜ、増減しなければならないのでしょうか?そこで今回は、メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが年金額の
原則として物価や賃金が上がれば年金は上がるし、下がれば年金も下がる
おはようございます!年金アドバイザーのhirokiです。
令和4年4月分(変化が出るのは6月15日振込分以降)からの年金額が0.4%減額する事になりました。
国民年金から支給する老齢基礎年金でいうと、令和3年度満額が780,900円だったのが777,800円になったという事です。
年額が3,100円減ってしまっています。
これを見るとやっぱり国の財政が良くないからだとか、年金は崩壊しようとしてるとか、年金を減らすより無駄な財源を無くせよ!というような声が聞こえてきそうですが、そのような事が原因というわけではありません。
これは単純に年金額の改定ルールに沿って金額が変動してるだけです(18年前からいろいろ複雑にはなっていますが)。
年金は将来物価が上がっても、遠い将来もサービスを受ける事が出来る購買力を維持するために物価変動や賃金変動に連動します。
令和4年度は物価が0.2%下がって、賃金(正式には名目手取り賃金変動率)が0.4%下がったから今回は賃金変動率の0.4%の減額を使ったので年金額が下がりました。
なお、65歳未満の人の年金は賃金変動率を使い、65歳以上の人は物価変動率を使うというルールがありますが、物価よりも賃金の減り方のほうが多かった場合は65歳以上の人も賃金変動率を用います。
本来は年金額を動かす時は賃金変動率を用いますが、平成12年改正の時に65歳以上の人は物価の伸びを使いますという事が決まりました。
65歳以上の人はなぜ物価の変動で年金額を動かすと決まったのかというと、年金の負担を抑えるためでした。
経済の動きは多くは物価よりも賃金の伸びの方が上の事が多いので、賃金よりも低めな事が多い物価の変動率に合わせれば年金額の抑制に繋がると判断されたからです。
平成になってバブル崩壊の影響で景気が格段に悪くなり、さらに少子高齢化も進行するばかりなので高齢者の増加による年金額の増加を少しでも抑制する必要がありました。
年金受給する人は65歳以上の人が圧倒的に多いので、その人たちの年金額を賃金の伸びではなく物価の伸びに抑えれば、効果が大きいですよね。
ただし、賃金よりも物価のほうが上昇するという事もあるので、そういう時は物価を使わずに賃金の伸びに合わせる。
例えば物価が10%上がって賃金が5%上がれば、65歳以上の人の100万円の年金は110万円になるところですがこれを105万円の伸びに留める。
どうしてかというと、年金受給者を支えてるのは現役世代の保険料ですよね。つまり、働いてる人の賃金の一部である保険料を年金受給者に回しています。
賃金が5%上がれば保険料も5%上がるので、年金財源である保険料が上がるなら年金受給も5%アップする事になります。支え手の力と支えられる側の力が自動的に均衡するわけです。
こうすれば財源としては問題ない。しかし、現役世代の力である賃金の伸び以上に、年金をアップさせてしまうと現役世代の負担の力を超えてしまうので無理をして支払わなければいけなくなる。
なので65歳以上の人は原則としては物価に合わせるけども、賃金変動率を超えたら賃金の伸びに抑えるねという事を細々とやっています。
いろいろルールはありますが賃金と物価の伸びを考えた時に、どっちが年金財政にとって都合がいいかを考えるとわかりやすいと思います。
さて、令和4年度は賃金(名目手取り賃金変動率)が0.4%下がったから、年金は0.4%(0.996)下がる事になりました。
このように毎年、経済の伸びに影響して年金額は毎年変わるのであります(変わらない時もある)。
バブル崩壊までは物価が5%以上上がるとか賃金が10%上がるというのは普通に見られた現象でしたが、平成からはほとんど物価も賃金も停滞するようになりました。
だから年金もあまり伸びる事は無くなりました。年金が上がるかどうかというのは制度や構造の問題ではなく、国の経済成長の問題です。
年金を抜本的に改革するべき!みたいな声が昔からよくありますが、どんな形に変えても国の経済が良くならなければどうにもならない(抜本的な改革は何度もやってきてはいる)。
ところで、例として挙げたのですが国民年金から支給する老齢基礎年金はどうして満額が777,800円なのでしょうか。
どこからこんな数字になったのか、そして年金額が低すぎるのではないかという疑問があったりします。
過去を遡ると、昭和61年4月に国民年金を20歳から60歳まですべての人に加入させて、将来はみんな共通した年金である基礎年金を受給しましょうという事になりました。
全ての人が業種に関係なく、基礎的な年金は平等にしましょうという事で、基礎年金制度が昭和61年4月から導入されました。
それまでは国民年金は主に自営業者や農業従事者、学生、主婦などが加入するものであり、他に厚生年金はサラリーマンが、共済年金は公務員が…とみんな別々の制度として存在していました。
みんな制度がバラバラだったけども、昭和61年4月以降はサラリーマンや公務員もみーんな国民年金に加入した上で上乗せとして厚生年金や共済年金を支払うものとなりました。
国民年金は主に自営業者や農業の人、主婦の人などが保険料払って財源を支えていたものでしたが、業種に関係なく全ての人が加入して支える制度になったわけです。
基礎年金制度が導入される前は自営業者や農業者、主婦といった人は所得が安定しない部分も多かったので国民年金の財源は安定しませんでした。
さらに日本の農業社会から工業社会へと移り変わっていく中で、昭和末期までに農業や自営業をやるよりも会社に雇用されて働く人が激増していくようになりました。国民年金加入から厚生年金加入になってしまう傾向が強くなっていったわけですね。
そうすると国民年金の財政を支える人が少なくなっていったために、国民年金財政は危機に瀕していきました。
そういう中で、じゃあ国民年金を業種に関係なくすべての人に加入させて、その共通して加入する国民年金から共通の基礎年金を支給するようにしよう!となったわけです。
どんな業種になってもみんな国民年金に加入するから、みんなで国民年金を支えるという形になったんですね。サラリーマンや公務員は国民年金に加入した上で厚生年金に加入している(二重に加入の状態)。
業種が変わる事による影響を国民年金は受けなくなり、財政が安定するようになりました。
さて、みんな共通部分として受ける年金となった国民年金でしたが、一体いくらの年金にしようかという議論があったわけです。
その時、基礎年金年額60万円(月額5万円)にする事が決まりました。5人世帯の共通経費を除いた受給者本人の生活費が大体5万円だったから、そのラインが出てきたわけです。
昭和60年の額を60万円として、それからは物価や賃金等の伸びに影響を受けながら毎年年金額は変動していきました。法改正しなくても物価にスライドして毎年年金額は変わる。
年額が満額60万円だった当時の国民年金は、15年後の平成12年までに804,200円まで上がりました。
ところがそれ以降は物価が下落し続け、平成16年時には780,900円まで下がりました。昭和60年の金額からそのようにずっと変化してきたわけですが、一旦平成16年時の780,900円をターニングポイントとして整理しようとなりました。
一旦、平成16年時の年金額780,900円をベースとなる水準として、この水準からまた物価や賃金の伸びで変更させていこうと。
平成16年から18年後の令和4年度までにいろいろ年金額は変化はしてきましたが、経済の停滞が長く続いてるので平成16年時にベースとなった年金額780,900円付近をウロウロしています。
令和4年度は前年度に比べて0.4%下がったから、777,800円になりました。
平成10年頃までは当初60万円だったのが80万円まで上がる勢いだったのに、ほとんど年金額が変わらないものとなっていますね…。
年金制度の構造の問題ではなく経済が良くならないと年金もなかなか上がらないのであります。
年金を抜本改革しろ!ではなく、根本的に国の景気が良くなる事が大切と言えます。
* 厚生年金額の変動の仕方と、平成16年大改正時の年金改定のルールについては3月の有料メルマガであらためて解説します。3月16日予定の有料メルマガ第233号は、「(重要!)年金の下落と、年金額変動の仕組み」。
※ 追記
平成11年~平成13年まで全部で2.9%物価が下落し続けたにもかかわらず、年金額を引き下げなかったために年金を必要以上に支払い続けていました。
この辺の事は以前何回か説明したので、今回はややこしい部分は省いて単純に国民年金の金額の変化の経緯を説明しています。
【過去参考記事】
● 有料メルマガ第119号 国民年金が今の金額になるまでの移り変わりと、必ず知っておきたいその金額を決めた理由
● 有料メルマガ第178号 本当なら令和3年度年金額は下がらないはずだったのになぜ0.1%下げたのか(その他重要事項)
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