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学校は「ブラック企業」も同然。疲弊する教育現場の恐ろしい現実

滋賀県で起きたいじめ自死事件がきっかけとなって成立した「いじめ防止対策推進法」。その施行から既に7年以上が経過しましたが、各地区の教育委員会に浸透しているとは言い難い状況のようです。今回のメルマガ『伝説の探偵』では現役探偵で「いじめSOS 特定非営利活動法人ユース・ガーディアン」の代表も務める阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、文科省による教育委員会へのアンケートが浮き彫りにした問題点を誌上で紹介。さらにいじめ問題を含めた日本の教育構造はもはや破綻寸前であるとして、根本からの見直しの必要性を訴えています。

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文科省が教育委員会に行ったアンケートでわかったこと

2月21日、文科省は深刻ないじめとされる「重大事態」について、47都道府県と政令市(20)の合計67の教育委員会に行ったアンケート調査の結果を発表した。

そもそも「重大事態いじめ」については、このように定義づけられている。

一 いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。

 

二 いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。

厳密に言えば、いじめ防止対策推進法第28条に重大事態いじめを定め、このような事態が生じていると「疑い」がある場合について文科省は「重大事態いじめガイドライン」を公表し、その運用に誤りがあってはならないとしているわけだ。

ところが、度重なるいじめ認定を恣意的に拒絶したり、ガイドラインの具体的事例に沿う内容の状態であっても様々な理由をつけて、第三者委員会の設置を拒むなどが多く報じられている。

そもそも重大事態いじめとなった数が少なすぎる

21日の文科省調査については全く触れられていない観点であるが、「重大事態いじめ」となるケースは極めて少ないのだ。

令和3年に発表された令和2年度中のいじめの認知数はおよそ51万7,163件であった。そのうち、514件が重大事態いじめとされたが、1%にも満たない率なのだ。

以前、国立教育政策研究所が、いじめについて行った小学4年生から中学3年生までの6年間を追跡調査した結果では、およそ9割の児童生徒がいじめの被害もしくは加害経験があり、およそ3割強が暴力を伴ういじめであったということを考慮すると、およそ全体の0.1%にもならない率で「重大事態いじめ」がないという結果は信じがたいし、現場にいる私からしても、あまりに少ないとしか言いようがないのだ。

21日文科省アンケートでは

このアンケートの結果は、文科省のホームページでも確認できるので、興味のある方はぜひとも見てもらいたい。

この中で私が着目したのは、次の項目だ。

まず、いじめ防止対策推進法では、第6条と第7条で地方自治体や学校の設置者の責務を定めている。学校の設置者とは、公立校の場合は教育委員会、私学の場合は学校法人と考えていいだろう。

(地方公共団体の責務)
第六条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、いじめの防止等のための対策について、国と協力しつつ、当該地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 

(学校の設置者の責務)
第七条 学校の設置者は、基本理念にのっとり、その設置する学校におけるいじめの防止等のために必要な措置を講ずる責務を有する。

ところが、アンケートでは、重大事態いじめの前段階として、都道府県・政令市単位におけるマニュアルやフォロー図などは存在するかの問いに、9つの教育委員会が「ない」と回答、そのうち、7つの教育委員会が作成予定すらないと回答しているのだ。

ちなみに、「いじめ防止対策推進法」は2013年にできている。果たして、何をしていていたのであろうか…。

さらに、アンケートでは、「重大事態調査を開始する判断はどこか?」の問いに対して、「児童生徒や保護者の申し立てによって」がおよそ2割であり、文科省の重大事態いじめガイドラインによく記載されている「疑いが生じたとき」はおよそ7%であった。

最も多いのは、「学校の報告を受けて」(およそ59%)「学校と教育委員会の協議によって」(およそ34%)であったのだ。

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この結果が頷けるアンケート結果もあった

「いじめの防止等のための基本的な方針」や「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」は学校現場に浸透しているかという設問に対して、感じないとおよそ35%の教育委員会が回答しているのだ。

こうなると、目を覆いたくなるような酷いいじめ事件や被害者の苦痛の叫びが反映されたはずの法とそれによってつくられたガイドライン以外に、何を参考に、何をもって「いじめ」を見ているのかすらわからなくなってくる。

都道府県や政令市の教育委員会がこの程度なのだ。そうではない地域はいったいどこまでの数値が出るのかは絶望的だと考えて間違いはないだろう。

例えば、以前「伝説の探偵」でも取り上げたケースでは、警察が捜査済みなので調べないという結論を出し、これを記事にした私は市の名誉を傷つけるバカ者だと議会議事録にしっかり書かれ、この事件を追うとした地元紙の記者は沈黙を強いられたというものもある。

【関連】女子小学生暴行事件の酷すぎる顛末。学校も教育委も「加害者側」

こうした地域では、過去にもいじめであったのに見過ごされたり、地元民しかしらないような深刻ないじめ被害などがある事だ。

つまりは、いじめの防止基本方針や条例、重大事態についての内部マニュアルなどを作っていたとしても、さらには、それが一見浸透しているように見えても、その実、活用されることはないということだ。

もはや、国や省庁の他、当事者にはならない有権者などに、やっていますよのアピールに過ぎないわけだ。

根本から見直そう

21日の文科省アンケートから、私が思ったことは、諸問題が目に見える形でわかったではないかということだ。

例えば、自治体の予算が足りないので第三者委員会の設置が困難であったり、委員を形成する専門家がその地域にほとんどいないという問題もあるとされている。また、より具体的なガイドラインが欲しいという意見もかなりあった。

また、いじめの加害者やその保護者が調査に非協力的で、強制力を帯びない第三者委員会などが、聞き取りに苦労したり、事実認定に苦労しているということもあった。

その一方、上に書いたような、教育委員会側の体たらくで、十分すぎるほどの相当期間があったのにも関わらず、問題の初期段階から準備もないというところがあることがわかったわけだ。

別の目線でみれば、ある意味実行部隊になりやすい現場教員のブラック労働や数の不足という問題もある。これは、役割や負担として、いじめ対応までが難しいということを意味するであろう。

さらに、日本が国として支出する教育に関する費用は世界水準で見ても、GDP比で考察すれば低いという問題もあるし、これは国民の教育費負担の問題も繋がるのだ(北欧3か国は大学の入学費や授業料が無料であったり、特にヨーロッパでは、ただ同然で高等教育が受けられる仕組みが充実している)。

つまり、いじめ問題からみても教育の構造は、もはや破綻したに近い状況が浮き彫りになってきていて、その構造の根本から見直さなければならないところにきているはずだ。

どんな樹木も根っこが古くて腐っていれば育つことはないし、たいていの魚は頭から腐るように、進化する教育制度や環境にマッチし、こども達の安全や命を守るといういじめ対策をしっかり行っていくには、未来への投資としての予算が必要であるし、同様に構造を根本から見直していく必要があると思うのだ。

ぜひとも文科省には、リーダーシップを発揮してもらいたいものである。

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編集後記

私は探偵として小学校の教壇に立つ事もあります。PTA主催の研修会でいじめ問題の講師をしたり、教職員への研修、児童生徒のいじめ予防教室もやりますし、ネットの安全利用という教育も講演依頼があれば行っています。

ですから、いじめへの介入以外でも学校現場にはよく顔を出すのです。もちろん、現役の教職員や管理職(校長など)の友人も多くいますし、教育委員会事務局や教育委員、教育長にも友人がいます。

コロナ禍ではないときは食事をしたり、お酒を飲むこともありました。それなりの付き合いをしています。そこで思うことは、「こいつら働き過ぎだ」ということと「それ何の役に立つの?っていう仕事多いね」ということです。およそ上から指令が来るような仕事は、ほぼ雑務で、非効率的なものが多いのです。民間企業であれば、真っ先に「業務の断捨離」になるようなものです。

また、ホンモノのモンスターペアレントも見ていますから、精神的に参っちゃうねとも思います。ハッキリ、「お前はアホかっ」ってぶっ飛ばせばいいのにとも思えることもあります。

ここに、いじめ対応となれば、パンクすることもあるだろう、と思うからこそ、いじめが起きづらい仕組みを活用したり、チームで対応するようにということを推奨していました。

しかし、コロナ禍もあり、様々な事実が浮き彫りになる中、例えば小学校でも教科担当制を取り入れて「授業専門の教員」やキャリアカウンセリングをする教員、生活指導のみを担当する教員など分業した方がいいのではないかと思うこともしばしばあります。こうした制度は欧米ではよくある構造です。

例えば、公務員でも残業代は出ますが、公立校の教員の場合は、給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)があって、残業代はでません。

過酷な労働環境で、給与は安く、休みもない。でもやりがいはあるよ。という仕事の魅力の伝え方は、一般企業で言えば、ブラック企業の常とう手段です。だから、人が集まりません。

こうした側面が、いじめ対策が進まない原因であるならば、今すぐ変えてやれよと思うわけです。いじめ被害者はいじめられてすごく辛い、でもそれを守るべき教員も働きづめで辛いというならば、全員ルーザー(辛いだけ)の世界です。

こうした教育行政の世界、どうやら現場だけが困窮しているようにも思えます。でもきっと、偉くなって笑っている人もいるのでしょうね。責任を果たさず、法の要請も守らないでは、最大の責任者はその存在意義などないのではないでしょうか。

ぜひとも全国の志ある教育関係者の皆様には、世界は良い方向に変えられるのだということを、こどもたちに示してもらえればと思います。

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image by: Shutterstock.com

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社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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